物流新聞トップへビルダー最前線  2008年02月25日号 ・1174・16P

量産知り尽くす、試作提案

独自金型で開発費を低減
株式会社 最上インクス〔精密試作、精密プレス〕京都市右京区
最上インクス 昨年12月、立命館大学で開催された中小企業イノベーションフェア。その一角で、一匹の蝶に目が釘付けになった。精密レーザーで切り出された微細なスリットや押し出し加工による膨らみが羽の模様をかたどり、カシメで連結された羽と足は、羽を広げてみれば足が閉じるという芸の細かさ。薄さ0・1_bの蝶がパタパタとしなやかな動きができるのは、薄板金属の特性を知り尽くした加工技能の賜物だ。「この蝶を見て、『試作を頼みたい』と言って頂くことも少なくないんですよ」。最上インクス総務グループ・佐々木明さんの顔がほころんだ。
  京都試作ネットの中核企業として、今や「試作の雄」と全国に知られる同社の転機は10年前。鈴木三朗社長は「量産から試作へ」のウェイトシフトを図り、人と設備に対する億単位の集中投資を大胆に実行した。当初10%未満だった試作分野の売上比率は07年には40%強に。売上高は10年前の約3倍、21億円にまで成長を遂げたという。
  改革の背景にあったのは「量産品が海外に生産移転する今後、町工場が生き残る道は精緻な技能を要する試作分野にしかない」という鈴木社長の信念だ。そこから超精密レーザー加工機など最新鋭機器を積極的に導入する一方、CAD・CAM、CAEによる試作品と金型、工程の設計までをも、倍増した試作部員全員が扱いこなせるよう育成を徹底。従来、不可能と言われてきた「板厚よりも細い打ち抜き」「板厚0・05_b以下のプレス成型」など先端加工技術を磨いてきたそうだ。今では電子機器メーカーを中心に月に300件以上の試作依頼があり、京都試作ネットの認知度アップに伴い、企業との共同開発も目立って増えたという。
  鈴木社長は「事業成功のキーは、量産が分かることにある」と見る。「難形状の加工ができるだけなら、そう珍しくないんです。『薄板のどの部分を残せば品質が安定するのか』『どういう金型なら精緻な曲げが実現できるのか』など量産化した際の問題点を見抜き、人の手が極力かからない設計提案を行うことや、量産ライン構築支援ができることが、最も重要」。これが、「どこよりも早く新製品の市場投入を」としのぎを削るメーカニーズにぴったりマッチした。
  さらに、同社最大の武器が「独自の簡易金型工法」であると鈴木社長は強調する。「開発試作のための捨て金型を一から作るのは時間とコストの無駄。1000種類以上のダイ・パンチを組み合わせた簡易金型を活用すれば、本当に必要な部分の金型部を製作するだけですむ」。金型製造コストは従来に比べ、3分の2から5分の1。1個単位の試作から小ロット、量産用までに対応するべく工法の体系化を図り、また、金型製造コストを低減することで「切削からプレスに」など、工法転換提案も行えるようになった。
  こうして試作の最先端を走る同社が今、試みるのは「京都を世界一の試作センターに」の構想だ。自社で簡易金型の開発とメーカーとの共同開発に重点をかけ技能のブレークスルーを図る一方で、開発した金型工法を有限事業者組合2社で活用し、試作産業の裾野を広げていくという。