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特別寄稿:「CFRP製造技術の最新動向と国内金型製造業の進むべき道」

近畿大学 理工学部 博士(工学)/教授 西籔 和明

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 近年、輸送機器の軽量化を目的に、鋼から軽金属、さらに樹脂化へ材料代替が積極的に進められ、留まるところを知らない。中でも、「軽くて強い」というキャッチフレーズで、炭素繊維で強化したプラスチック(CFRP)に大きな注目が集まっている。しかし、CFRPは材料および製造コストが高く、需要拡大は容易ではない。本稿では、とりわけ自動車分野でのCFRPの量産化事例とその製造技術の最新動向を紹介するとともに、国内の金型製造企業の進むべき道について見てみたい。

 CFRPは母材樹脂の違いにより、熱硬化性CFRPと熱可塑性CFRPの二つに大別される。
 熱硬化性CFRPは従来、プリプレグ材料を釜で焼くオートクレーブ成形や、液状樹脂を注入するRTM成形など特定の方法で製造されてきたが、変化が表れてきた。例えばトヨタは燃料電池車「ミライ」の高圧水素タンクにおいて、エポキシ樹脂を含浸した炭素繊維テープ(東レ製)を巻き付ける製造法を採用した。同じくトヨタでは「プリウスPHV」車のバックドアに、カーボンSMCと称される中間材料(三菱レイヨン製)を採用してアルミニウムより重量を3割減らし、原価でアルミとほぼ同額で量産化にも成功した。
 また、生産性と耐衝撃性および再利用性に優れる熱可塑性CFRPの自動車への採用例としては、ホンダの燃料電池車「クラリティ」がある。リアバンパーに多軸ガラス繊維強化PA6樹脂材料(ドイツ製)を採用。プレスと射出を組み合わせたハイブリッド成形で製造している。こうした例は国際競争力の高い材料・製造技術である。
 一方の欧州では、鋼やアルミのプレス成形品に、熱硬化性CFRP部材を接着および機械締結するマルチマテリアル化が進展している。独BMWでは高級セダン「7シリーズ」や「5シリーズ」、さらにAudiの「R8クーペ」の車体において、マルチマテリアル化を推進。低コストでの量産化と軽量化を実現した。
 こうした欧州の金属と樹脂およびCFRPとのマルチマテリアル化は、軽量化と量産性、騒音低減・組付工程短縮など、数多くの目的を満足させるのに都合が良いため、今後大きく伸びるだろう。
 また、欧州ではCFRPの高い材料・製造コストを克服する様々な提案もなされている。
 例えば、引抜成形や加熱ロール成形など、長尺異形材の連続成形は、金属のような中間材料を提供することにより、CFRPを切って、曲げて、つないで使おうというものであり、大幅なコストダウンが期待できる。熱可塑性CFRPならば、溶かして接合することが可能であり、金属のような製造法も適用できる。
 そのほか、繊維からネットシェイプで成形品を得る連続した製造シスムもあり、こちらは加熱プレスや射出成形まで一貫した自動化ラインが提案されている。

■国内の強みは「インダストリアルCFRP」
 日本のCFRP加工技術は欧米に比べて20年近く遅れていると言われている。炭素繊維や樹脂の原料においては世界一の技術力と品質を誇っているが、CFRPの製品設計や量産化においてはこれからが正念場だ。
 コンピューターを援用した設計手法を現場サイドで大いに活用しつつ、細やかな材料の適材配置と製造条件の適正化、巧みな金型設計製造技術を駆使し、厳格な品質管理の下で、信頼性の高いCFRP部材を産業機器に提供する仕組みづくりが鍵である。こうして作り込む品質の信頼性が日本のCFRPの強みとなる。
 また、産業機器が要求する高い剛性や寸法安定性、低い熱膨張を満足させるには、CFRPインゴットとでもいうべき塊状の材料が必要となる。これらは、従来のスポーツ用品や航空機・自動車などの輸送機器の軽量化とは大きく異なる。工作機械や搬送機器などのベッドやコラムがその例である。高い剛性に加え、金属製の締結部材やリニアガイドなどが接触するため、表面は耐摩耗性と潤滑性が要求される。そのためにCFRPの表面や高負荷箇所に金属の優れた特性を付与する必要がある。
 その方法として、例えば難削材であるCFRPを損傷なく高速で切削し、精密に研削・研磨した後、CFRPに、軸受、リニアガイド、ヘリサートなどの金属部品をインサートして嵌合または接着接合する。この金属とCFRPの接合は高い信頼性が要求される。また、CFRPの表面にメッキや溶射被膜を施し、外表面に金属と同等の特性を付与する。

 このようにCFRPと金属の良さを高めあうハイブリッド化により、軽量化と耐久性が付与される。まさに日本の超絶技巧の金属加工技術がCFRPで生かされる用途は、ずばり産業機器である。これを「インダストリアルCFRP」と筆者が名付けた。

■図面待ち、分業による制約から脱却せよ
 日本の金型生産者は世界トップクラスの高い技術力があると言われてきた。しかし、これは、日本人のモノづくりの強みの一つと言われる「すり合わせ・つくり込み」によるものであり、CFRPにも通用するとはいえないかもしれない。
 その根拠は、CFRPが異種の材料を組み合わせた不均質かつ異方性の厄介な特徴を持つため、金型の設計・製造が困難であるということだけではない。
 より大きな問題は、分業による制約だ。素材から製品設計、生産設計、検査までトータルな業務を一貫して行う仕組みが国内の金型製造業に無いことが、最大の課題ではないか。
 CFRPは材料から最終製品を一貫して作る必要のある材料であることを再認識してほしい。そして、従来材の完成されたモノづくりシステムの固定概念をぶっ壊し、CFRPに適した理想的な製造システムの構築を先導すべきであろう。
 もはや下請けではない。平易に言えば、図面を待っていてはならぬ。材料も製造法も指示されたまま応じるのではなく、金型製造企業が主体的に提案していく必要がある。
 金型を軸に、材料および製造・検査の方法や装置の提案、さらに製品の解析など仕事の幅を拡大させねばならない。
 その一方、CFRPという材料ありきの開発では通用しない。軽量化を目的にするならば、CFRRP以外の材料選択も大いにあり得る。目的を明確にし、変わることを恐れてはならない。
 このように、「異なるものとのつながり」が極めて重要になる。閉じた型から開いた型へ、発想の転換が必要である。

(写真=デジタル画像計測ロボットによるCFRPの計測風景(近畿大学))