連載

2017年7月25日号

東京町工場ものづくりのワ

町工場の挑戦、中小版インダストリー4.0実現へ

 複数工場の生産工程をITで水平連携させ、あたかも一つの工場のように機能させることで生産性の最大化を狙う―日本の第4次製造革命を主導しようとする連合体、IVI(インダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブ)が目指す未来の製造スタイルに、いち早く近づこうとする町工場グループがある。板金加工を主体とするエー・アイ・エス、西川精機製作所、今野製作所の3社による「東京町工場ものづくりのワ」がそれだ。
 「町工場の多くでは、情報が工程ごとに分断されている」。グループの発起人、今野製作所の今野浩好社長は生産現場の実情をこう説明する。
 見積もり、資材購買や外注先への発注、生産指示、出荷―と工程別に何度も同じ情報を手書きの帳簿やホワイトボード、エクセルなど形態を変えて入力するのが日常的。急な変更があれば各工程に人が伝えねばならない非効率さがある。
 これに対して、「東京町工場ものづくりのワ」の3社は共通ベースの生産管理システムを導入し、昨年から本格運用を始めた。今野製作所が07年頃からIVIの発起人である法政大学デザイン工学部の西岡靖之教授と開発を進めてきた受発注管理システムを、プログラムレスで自社仕様にカスタマイズできるようにしたものだ。
 現場ではタッチパネル端末等から各工程の着手・完了を入力すると、クラウド上のデータベースで進捗情報が自動更新される。共同受注案件に限っては、3社の共有ポータルサイトで工程の進捗情報を瞬時に共有できるという。
 事務局の宮本卓氏によると、「事務作業が大幅に効率化でき社内で情報共有しやすくなったのはもちろん、共同受注の際、不測の変更に備えた予備日がほぼ不要になった。他社での前工程がどこまで進んでいるのが正確に把握できるので、段取りの無駄がなくなり全体の生産性を上げられる」と言う。

■顧客の元まで情報をつなげる
 システムのランニングコストはアカウント数に応じて年間20万円~100万円程度。今年からは、ポータルサイト上のSNSで3社の現場のキーマンが会話できる仕組みを構築した。材料費や工数、外注の見積もり費などを、案件ごとに会話を紐づけ管理できるため、リピートや類似案件の見積もりのスピード化が見え始めた。
 顧客用のWebポータルサイトも開発中。依頼案件がどの工程まで進んでいるかを「Amazonの配送管理のように」分かりやすく見せ、外注工場としての信頼感を高められる。
 共同受注の実績は年に数件とまだ少ないが、今野社長は「レストランの給仕用テーブルや大学向けの実験装置など、連携していなかったら取れていなかった分野や大型の案件が開拓でき始めている」と評価する。基本設計と詳細設計をスムーズに連携させるべく、3DCADシステムの一本化も進め始めている。
 今野社長は「板金業界は地方に有力な事業者が数多くいる。あえて地代の高い東京に残る意味は何なのか」。3社に突きつけられた問いの答えの一つが、共同受注の開拓だったと言う。
 宮本氏はグループの価値をこう捉える。「航空宇宙関連からデザイン、一般産業まで各分野の先端研究者が集まるのが東京。しかし、研究者は専門分野には詳しくても、実際のモノづくりは不得手です。どうすれば低コストかつスピーディに、品質評価もクリアした製品として生み出せるのか。研究者と実際のモノづくりのリアルな接点として、我々の存在意義が高まっていくはずだと考えています」。