オヤジの社会学

2017年11月25日号

秘湯

16409

 11月26日は語呂合わせで「いい風呂の日」。以前行われた日本人の入浴事情実態調査によれば、夏場は約半数が入浴を「シャワーで済ます」と答えているのに対して、冬場は約7割の人が「湯船に浸かる」と答えている。気温が下がってくるとともに熱い風呂が恋しい季節なのだ。
 日本人は世界的にみても風呂好きの国民といわれる。同じ調査では約9割の人が風呂に「毎日入る」と答えている。我々にしてみれば当たり前のことが、世界的にみれば稀有の存在ということらしい。
 以前、政府が「ふるさと創成」のための事業資金として全国市町村に一律1億円を交付したことがあった。このとき、温泉を掘り当てるためのボーリング調査に資金を充てる自治体が結構多かった。温泉が出ずじまいのところもあって1億円を無駄にしたなどと物議を醸したものだが、一方では新しい温泉が各地に誕生した。いずれにせよ、日本人の風呂好き、温泉好きを物語るエピソードだろう。
 野口冬人という旅行作家がいて、この人は日本全国を旅して「露天風呂番付」というものを作成している。この中で堂々、東の張出横綱にランクされている「地鉈温泉」に以前いったことがある。伊豆七島の一つ、新島に寄り添うようにして浮かぶ小島、式根島の海岸に地鉈温泉はある。
 海沿いに岩場を鉈で切り裂いたような谷があり、急な階段を降りていくとそこが温泉になっている。温泉といってもほとんど手は加えられておらず、天然の岩場である。そこに温泉が湧いている。
 潮の満ち引きにより岩場には海水が流れ込む。急な谷なので、岩場にはいくつもの段差があり、そこが天然の湯船になる。その中から適温の場所を選択できる。
 式根島には「足付温泉」という温泉もあるが、こちらは同じ岩場ながら比較的平坦な場所なので、段差がない。したがって、潮があまり満ちていると湯がぬるくて仕様がないということが起こるのだが、地鉈は何時いってもどこかしら適温の場所を探せるところが優れていた。東の張出横綱たる所以であろう。
 日のあるうちにいけば大海原、日が暮れれば満点の星とともに湯に浸かれる。野趣たっぷりの秘湯、名湯であった。