PICK UP 今号の企画

DOG YEARを生きる、デジタル革新で変わるモノづくり

―今号(1月1日号)の紙面特集より、ここでは「DOG YEARを生きる、デジタル革新で変わるモノづくり」を掲載―。
 日本経済を支えてきたメイド・イン・ジャパンの信頼が大きく揺らいでいる。自動車、鉄鋼、金属、化学メーカーによる検査体制の不備や材料データの改ざんがこのところ相次いだためだ。特に自動車や航空機に使われる材料は影響力が強く、日本高品質の信頼を失うことになりかねない。悪い流れはここで断ち切りたい。これを日本のモノづくりのあり方をあらためて考える好機とし、カイゼンとして生かしたいところだ。
 転機となるか、モノづくりのあり方が大きく変わってきた。デジタル変革の潮流が様々な産業分野に波及しつつある。密度の高い情報のやり取りからロボット、自動車、半導体、エネルギー…。その広がりは大手企業だけでなく中小企業にも及ぼうとしており、長く指摘されてきた「労働生産性」を一気に改善できそうな期待すら抱かせる。生産体制を含め高品質生産を目指すこれら注目の分野について新たな動きを探った。

IoT、現実の取り組みと革新までの距離

 IoTを新聞等では「IoT(モノのインターネット)」と表記してきたが、そろそろ(  )を取ったほうがよさそうだ。もう言葉として十分に浸透していることが一つあるが、それだけでなく、モノのインターネットと訳すから共通理解が遅れている面がある、そう指摘する向きも少なくない。
 製造業においてIoTは(モノのインターネットではなく)およそ「つながる機械」、「つながる工場」をイメージさせてきた。しかし必要な「つながり」は、時間軸に沿った設計~製造のつながりもあれば、働く人や設備が持つ広い意味での現場情報のつながりがある。さらに現場レベルの情報をオペレーターレベル、マネジメントレベル、経営レベルへと上位のレイヤーにつなぐ試みもIoTの名のもと進もうとしている。「タテ・ヨコ…」様々なつながりの実現の果てに「革新」があるということか。
 ところが、IoTへの取組み真っ盛りのなかにあって、実際の進展の程は捉えにくい。多種多様な現場情報をセンサーなどでキャッチして分析し、改善・改革を導く試みも、3次元データを活用し構想設計から生産までのコンカレント(同時進行的な)なモノづくりを進める試みも、既に1990年前後から進められ、その成果が差別化要因、あるいは競争力の源泉として過去から注目されてきた。この流れが広がる一方、AIを利用したり、新加工技術(3Dプリンター等)とIoTを結びつけたりと、より高度なレベルに達しているのは確かだが、見方によっては依然過去の延長線での発展と捉えられる。最近、市場に出だしたアプリケーションをみても「次世代革命」などという大きな変化を指すほどには至っておらず、革命までにはまだ距離がありそうだ。
 主要プレーヤーが乱立していることも状況を見えにくくしている。世界的には製品のライフサイクルを一元管理するPLM大手のIoTプラットフォーム事業が注目されるが、日本ではCNCメーカーを軸にした連携体による「つなぐ」プラットフォームが最注目。一方ではPLCなどに関連したインテグレーター等のIoT提案も多様に進む。そうしたなか昨春、日本政府がIoTへの取り組みに関連してCI(コネクテッド・インダストリーズ)という概念をぶち上げた。注視し応援したい気持ちはやまやまだが、様々な概念が交錯し、もうどうにも全体を整理して考えることが難しい。最近はプラットフォームの為のプラットフォームを設けるといった提案も増えている。
 ただ、プレーヤーがひしめき過ぎで分かり辛いとはいえ、潮流が超加速的な動きにあることは間違いない。猛スピードで走るクルマの乗客が、並走するクルマだけを眺めていたら、スピードを感じられないが、気づくとあっという間に目的地に着く、といったことが間近に起きるかもしれない。本紙5面にIoT標準化を巡る動きを記したが、数多くの連携、連合、アライアンスが互いに牽制しあう群雄割拠のなかの激烈な競争が、さらにこの分野の加速成長を導くことになりそうだ。
 そうしたなか、身近なところからIoTを活用しようとのムーブメントが湧き上がりだしたことは注目されよう。情報をクラウドやエッジ、フォグに蓄積し分析して事前メンテナンスや品質管理等に活かすといった取り組みは先進的な中小・零細で進んでいると聞く。「中小製造業の投資対象としてデジタルの存在が大きく膨らんでいる。数年前とはえらい違いです」(3Dソリューションメーカー)などの話もある。
 ある外資系大手PLMメーカーの幹部は数カ月前、これまでデジタルやIoTの利用が多くのケースでトップマネージメントまでは行ってない現状について「技術の問題ではなく、旧来の企業文化が踏み切れないでいるからだ」と言い切った。そのあたりの変化も、今後の革新を呼び込む力になる。

ロボット、空前の活況 呈する産業用ロボット

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シュンク・ジャパンが国際ロボット展で披露したコンセプトハンド

 産業用ロボットが空前の活況を呈している。人手不足、労働生産性、製品品質、価格競争力などすべての課題を改善できると目されているからだろう。(一社)日本ロボット工業会は2017年の生産額(会員+非会員)を年初に前年比7%増の7500億円と過去最高を見込んでいたが、8千億円を超えることが確実だ。
 メーカー各社は増産を急ぐ。ファナックは茨城県筑西市に建設中の新たなロボット工場が完成すれば同社全体で現在の1.5倍以上の月産1万1000台まで拡大。スイスABBは今後1~2年で産業用ロボットの生産能力を2倍以上に拡大するという。
 巨大市場、中国を含むアジアで導入が加速しそうだ。世界の工場には2020年までの4年間に新たに170万ユニットの産業用ロボットが導入され、世界のストックは305万ユニットになると予測される(国際ロボット連盟、2017年秋)。2018〜20年の市場成長率は年平均14%に上るという。
 市場拡大を睨み、中国で工場が相次いで建設されている。中国家電大手、美的集団傘下の独KUKAは2工場を新設(19年末までに中国での生産能力を現在の4倍へ)、三菱電機は18年6月から現地生産を始めるという。

■コボットが急浸透
 「世界のコボット市場は年率50~75%で成長しており、当社製品は日本市場に限ると今年は150%増で推移している」
 このほど東京で開かれた国際ロボット展に合わせて来日したデンマークのユニバーサルロボット(05年設立)のユルゲン・ホン・ホレン社長がそう述べた。コボットとはcollaborative robotつまり協働ロボットで、人と協働作業ができる柔軟性と安全性をもつ。同社の軽量ロボットアームもその1つで、欧州を中心に世界で1万8千台が稼働中(市場シェア約58%と推計)という。
 国内メーカー各社も双腕、単腕のコボットを上市し始めた(7面に「国際ロボット展」レポート)。用途は電子部品組立や食品の箱詰めなどのほか、可搬重量5㌔程度のタイプも登場し、荷物の梱包なども想定する。
 アイルランドの調査会社リサーチ・アンド・マーケッツは世界のコボット市場が2021年に16年比22倍の38億1100万ドル(4200億円)に達すると予想する。

■スムーズで安全な協働へ
 コボット市場がこれだけ成長著しいのは裏を返せば、これまで導入が進んでこなかったためで課題はいくつかある。
 たとえば多種のセンサーを備え安全性を高めたがゆえに、人との協働作業中にアームの動きが止まりすぎるといった問題がある。パナソニックが開発した協働型ロボットの制御技術は、あらかじめ1千通りの人の動きを登録し、ロボットが人をよけるなどして事故を防ぐ。独ボッシュが昨春のハノーバーメッセで披露したのは、人が近づくとアーム部分が自動的に速度を落とす技術だった。
 「いくら安全性が高い構造・仕様であっても、ハンドの部分の安全性が担保されていなければ片手落ち」と指摘するのは大手グリッパーメーカーのシュンク・ジャパン。協働ロボットの「ハンド」の分野でISO規格の改定に唯一関わってきた。今春には協働の概念と必要な要件を記した「ISO/TS15066」をブラッシュアップする形でリリースされる予定という。国際ロボット展では業界初の協働ロボット向け「Co︱actグリッパー」のコンセプトモデルを展示。丸みを帯びた外形やフィンガー形状を採用し力の制限ができる標準モデルのほか、センサーで人の接触・衝突を回避できる中級モデル、グリッパーと通信できるモニターを備えた上位モデルまで、用途に合わせた様々なラインアップを見せた。

半導体、IT需要は「スーパーサイクル」へ

 好調なメモリ市況を背景に、半導体市場の成長が止まらない。世界半導体市場統計(WSTS)の発表(17年11月28日)によると、2017年の世界の半導体市場は16年比20.6%増の4086億ドル(約45兆3600億円)に達する見込み。6月の予測から200億ドルの上方修正。2018年の予測値も前年比7%増の4372億ドル(約48兆4900億円)で成長トレンドが続くと見られている。
 半導体関連株では17年末、下落の動きがみられたが、「足下の株価下落は行き過ぎであり一時的なものだろう」。ソニーフィナンシャルホールディングス金融市場調査部エコノミストの渡辺浩志氏はこう指摘する。
渡辺氏によると、「世界半導体販売額に見るシリコンサイクルはスマホ需要に牽引され昨年後半から急増したことから、前年比でみればピークアウトしそうにも見える。しかし、新たな需要トレンドが従来のサイクルの振幅を抑え、周期を長期化する『スーパーサイクル』を演出しており、これまでと違って前年割れは視野にない」という。
 渡辺氏の言う「新たな需要トレンド」とは、AI、IoT、自動運転車のほか、動画配信やビッグデータ、クラウド、ブロックチェーン、FinTechの高度化等によるデータ容量の爆発的な拡大のことだ。
 「半導体の製造は国際的な分業、すなわち米国(開発・回路設計)→日本(半導体製造装置・検査装置)→台湾・韓国(IC・半導体デバイス)→中国(最終製品の組立)というサプライチェーンで行われており、IT需要の増加が世界貿易を拡大させ、世界経済の同時回復の立役者となってきた」と渡辺氏。データ容量の爆発期を迎える18年、半導体が世界経済成長の立役者となりそうだ。

自動車、EVシフトの激流さらに

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量産モデルのEVコンセプト「NeuV」ホンダ、東京モーターショー2017

 EV(電気自動車)シフトの波はまさにドッグイヤー。「100年に1度」ともいわれる大変革のさなか、1年前の普及予測はもはや役立ちそうにない。
 2017年は、英仏をはじめ各国の政府が2025~2040年までに「ガソリン車の新車販売を禁止する」と表明するなど規制強化の流れが強まった。EV普及のネックとみられていたバッテリー価格(EVコストの約3分の1を占める)についても「コスト低下がより早く急激に訪れ、今後8年でEVの価格はガソリン車と同等になる」(ブルームバーグ、17年7月)等の予測が発表されたことなどと相まって、ここ数カ月、多くのシンクタンクや企業、機関がEVの販売台数予測を軒並み上方修正している。
 最も衝撃が大きかったのは、石油輸出国機構(OPEC)が17年11月、中長期の世界石油需要見通しで公表した予測値だろう。同報告書では「40年までにEVの年間販売台数が全体の6割にあたる8000万台に達するとの前提で試算すると、40年の石油需要は日量250万バレル下振れする可能性がある」とした。15年時点でOPECは「40年に石油以外の燃料を使用している自動車はわずか6%に過ぎない」と石油生産者目線の強気だったが、ここに来てEVの販売予測を一気に10倍にまで引き上げたわけだ。
 同じく石油系の米エクソンモービルは40年のEV(PHV=プラグインハイブリッド車含む)保有台数を1億台と予測。民間シンクタンクや自動車メーカーはEV販売比率を30年時点で1.6〜26%とかなり幅のある予測を示しているものの、次の上方修正の動きが見逃せない。
 トヨタ自動車でも17年12月18日、「25年頃までにエンジン車のみの車種をゼロにする。30年にはグローバルで電動車(EV、FCV=燃料電池車、PHV、HV=ハイブリッド車)販売台数を550万台に引き上げる」との新方針を発表した。30年時点で同社が「ゼロエミッション車」と位置づけるEVとFCVの販売目標は100万台。ライバルのVW(フォルクスワーゲン)が「中国市場のみで2025年に150万台のEVを販売する」と表明しているのに比べれば少々寂しい数字だ。
 ただ、トヨタでは上記発表の5日前にパナソニックと車載用角形電池事業の協業も発表するなど、動きは急。情報筋から「EV事業への明確なコミットがなければ、トヨタの株価に影響する」などと見られていたことも踏まえれば、EVシフトの波がさらに加速する可能性もある。

■気温上昇を「2℃以下」に
 各国の規制強化の背景にあるのは、「産業革命以前と比較して気温上昇を2℃以下に抑え、1.5℃に抑える努力を追求する」との目標を定めたパリ協定(16年発効)だ。
 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告で「2℃以上の気温上昇は地球環境に不可逆的なダメージを与える」とされたのが目標値の論拠。「すでに1℃近く上昇しており、現状を上回る対策を取らなければ最大5℃以上まで上昇する」(環境省)とみられている。「2℃以下の目標達成に向け、残されたCO2排出許容量は約1兆トン。化石燃料の埋蔵量すべてを燃やすと3兆トン排出相当になるが、その3分の2は燃焼不可能だ」(同)。化石燃料を燃やす内燃機関車の拡大余地は乏しい。
 国際エネルギー機関(IEA)では17年6月に発表した報告書で「パリ協定の気候目標を達成するには2040年までに6億台のEVが必要」としているが、16年の世界EV普及台数は前年比60%増の200万台、世界の普通乗用車普及台数に占めるシェアは0・2%に過ぎない(IEA調査)。
 また、デロイトトーマツコンサルティングでは「IEAのシナリオを守るには2050年に新車におけるCO2排出量を90%低減する必要がある」と指摘する。同90%減の達成に向け、「ZEV(ゼロ・エミッション・ビークル、EVとFCV)の販売比率は2030年に10%。2050年に86%に達し、内燃機関はゼロになる」との予測も発表した(17年10月)。
 日本の自動車メーカーの方向はトヨタ同様、EVのみならずPHV、HV、FCVを含めた「電動化」を推し進める方向にありそうだ。(一社)日本自動車工業会の西川廣人会長(日産自動車社長)も17年12月の記者会見で「様々な電動化のメニューで日本の自動車メーカーが世界を引っ張れる」と話す。
 電動化や自動運転技術の進展で、部品サプライヤーの優位性も変わる。西川会長は「日本には電池やセンサーなど、幅広い分野でデファクトになる技術を持つ会社が多くある。今後、要素技術を持つサプライヤーといかに、オープンなネットワークを結べるのかが自動車メーカーの競争優位性をも左右するだろう」とした。

再生可能エネルギー、日本は後進国に

 2016年、世界の再生可能エネルギーの新規年間導入量は過去最大を記録した。全体の新規導入量の3分の2を占め「主要電源」の地位を確立。再エネのうち、太陽光発電の導入量はついに石炭火力を超えた。
 再エネ普及拡大を支えたのは発電コストの安さだ。ブルームバーグの調査によると、2017年上半期の世界の太陽光発電の発電コストは10円/kWhと8年前の3分の1以下に下がった。09年以降、モジュール価格の低減と導入量の拡大とFIT(固定価格買取制度)価格の引き下げなどが同時並行で起こった結果、大幅に発電コストが低下。風力発電でも大型化と風力新興国での導入などにより、14年時点の世界の発電コストは10円/kWhを切る水準になった。
 世界の再エネ発電コストはもはや、系統電力よりも安価なのが当たり前。その一方で、日本の再エネは高コストのままだ。日本はパネル単価や施工費が高く、太陽光発電の発電コストは16年時点で24円/kWhと系統電力(家庭用)と同等(資源エネルギー庁資料より)。日本は再エネの爆発的普及に進む世界の潮流に乗り遅れ、機関投資家によるビッグな「脱炭素」投資マネーを呼び込めない「後進国」に陥る懸念が広がっている。

■「脱炭素」に動く世界
 前述のパリ協定の目標達成に向け、世界は大きく「脱炭素」に動いている。主要国の再エネ発電比率(15年)は、ドイツが30.6%、スペインが35.3%、カナダが63.8%などで、欧州各国では20〜30年までに同31~50%以上の導入を目指す。パリ協定からの離脱を表明した米国は13・6%(15年)と低水準だが、米国では2035年の再エネ導入目標比率を80%(原子力発電含む)と高く掲げている。
 日本の再エネ導入量は16年時点で15.3%。30年に22〜24%を目標に掲げ「再エネを主力電源に」(経産省)との掛け声も踊るが、足取りは鈍い。
 国内では、FIT切れを迎える太陽光発電設備が毎年20万件発生する「2019年問題」も頭をもたげている。経産省では「再エネで発電した電力を高く買い取るFITが切れ、経済メリットがなくなったから発電を止めるのではなく、メンテし、長期にわたって使い続けられる仕組みが必要」と危機感を募らせる。エネルギー市場の改革とあわせ、自家消費+蓄電池、地産地消のビジネスなど、発電から消費まで一体でとなった「FITから自立したモデル」の構築が求められている。