PICK UP 今号の企画

繁忙期どこまで 駆ける! 工作機械

17154
―今号(3月10日号)の紙面特集より、ここでは「繁忙期どこまで 駆ける! 工作機械」を掲載―。
 活況続く工作機械産業が業界以外からも注目を集めている。経済のマクロ指標発表時などで「民間企業設備については…工作機械等への支出が増加に寄与した」(昨年10−12月GDP1次速報値発表の際に内閣府が出した「ポイント解説」=2月14日)などと、最近は工作機械産業が好況を代表し、かつ牽引する業種として名指しで記されることが増えた。
 業界は、月間受注額が1000億円レベルから足下1500億円レベルへ大きくステージアップし、能力の限界ギリギリで仕事をこなす状況だ。
 しかしそこには「嬉しい悲鳴」といった安直な言葉では表現しきれない状況がある。納期長期化によるもどかしさや苦労、また先行き課題も見え隠れする。
 マーケットの中身から納期問題、技術動向、将来に向けたメーカー間のアライアンスの動きまで工作機械業界の現況を追うと―。

限界に挑戦

 業界の受注総額で今年1.7兆円達成を目指すといっても、主要部品の納期が特殊仕様だと400日なんていう状況ではとても無理じゃないか―。超精密分野で評価を上げる中堅工作機械メーカーのトップが厳しい表情で話す。
 別メーカーの幹部は「ガイドだけでなく、ツールチェンジャーなどに使われる汎用標準品も納期が長くなった」と嘆く。こうした結果として、機械が思うように完成できず新規受注を積極的に増やせない。あるいは受注は増やせても売上が伴わない、などの現象が広がり一部で常態化している。「受注残は通常の2倍以上、しかし足下の売上はマイナス」の声もある。  「小型機のモジュール生産を行っているが、部品不足でマシンは組立工場の配膳台車に乗ったまま。結果として予想だにしなかった台車不足に陥っている」と、失笑してみせた準大手トップもあった。
 市場ウオッチャーの少なからずが「生産量の限界イコール、今年の工作機械の実績になるだろう」と読んでいるようだ。自動化+24時間稼動で生産能力を面積当り倍に上げた工場なども一部で出てきているが、部品不足を抱えながらのフル生産態勢下、実績(売上)を受注の伸びほどには伸ばせない事態が続いていることから「今後の伸びしろはわずか」と見る向きがある。
 (一社)日本工作機械工業会の今年1月の賀詞交歓会。飯村幸生会長が「今年の受注額目標は1.7兆円としたい」と述べた際、会場は「本当にそこまでいくのか」のニュアンスでどよめいた。しかし年受注額1.7兆円は未踏の水準とはいえ、前年実績からみれば僅か3%余の増加に過ぎない。
 ちなみに世界規模の需要見通しをみても、今年は全世界で3.6%成長見込み(ドイツ工作機械工業会/オックスフォードエコノミクス=昨年10月公表)と日工会の予測に似通った数字が弾かれている。この試算では、欧州が4.1%成長、日本・中国・アジアが3.5%成長、米国2.9%成長とあった。
 つまり安定成長が続くものの好調と言っても大幅な増加率には至らず、限られた成長のなかでパイを奪い合う形が今年のマーケットということか。いいかえれば限界に挑戦し、ギリギリどこまで実績を伸ばせるかが今年の勝負になりそうだ。

不安の影チラリ

 現在の需要動向については今さら細かく書くまでもないだろう。一応、ざっくり点検すると―。
 欧・米・アジアとも、先進国向けも新興国向けも、そして国内も基調は全般的に堅調という全天候型でいい状況に変化ない。種類別にみても、大型機が出遅れているといった最近までのバラツキが失せ、今は基本、全般的に良いようだ。
 月間受注総額はこの1月まで前年同月比ベースで14カ月連続増。内需は自動車や半導体向けに中心に堅調を持続し、1月まで11カ月連続の500億円超え(1月556.1億円)になった。外需は1月まで対前年同月で14カ月連続増であり、いずれも安定感を伴って伸びている。
 しかしながら不安要素もチラつく。近年よく言われる「地政学的リスク」については、中東と朝鮮半島の情勢がまだ気になるし、他方、米トランプ大統領の「米国第一主義」をベースにした追加関税の動きとそれに伴う為替相場の動揺も懸念材料に上がる。一方で、目先的に国内マーケットについて「2月以降、少し風向きが変わっていないか。設備投資意欲に後退感が出ていないか」などの気になる声も漏れる。
 また、ある程度予想されたこととはいえ、2月末に発表された1月の鉱工業生産指数(2010年=100)が前月から6.6%低下(事前の民間予測は4.0%低下だった)したことも気になる。東日本大震災時の16.5%低下に次ぐマイナス幅。前月が良すぎた反動とはいえ水を差した。経済産業省は生産の基調判断をこれまでの「持ち直している」から「緩やかな持ち直し」に引き下げた。
 付け加えれば、機械の納期遅れを見たユーザー間に、早期発注する動きが出ているという。ここから「需要の先食い現象が起きている」と指摘する向きが複数あり、こうした文脈から「今年の後半以降、受注の反動減が起きるかも」という慎重論も台頭する。このように不安の影が無いわけではない。

EV化にプラス面

 工作機械の最大需要業種は過去から一般機械と自動車が双璧で、今は両方とも順調だが、今後の鍵は後者の自動車向けが握りそうだ。自動車向け(内需)は、この1月まで前年同月比で11カ月連続増と快走を見せているが―。
 近年、クルマに関してはEV化の流れが工作機械業界で不安視されてきた。ガソリン・エンジンが無くなれば切削の仕事は大幅に減ると、先行きに対し極度な悲観論もあった。
 しかし当面はプラス面が目立っている。ガソリン仕様とEV(HV、PHV)仕様の2種(ないし複数)のラインを同時に充実させる方向にあって、設備需要が増すことは自明であり、実際にプラス要因となっている。
 では中期的にはどうか。クルマのEV化に関し、これにいち早く舵を切るEU勢と、エンジン車での優位性を活かす為に保守的な姿勢を完全には崩さない米国との間でせめぎあいが見られるが、いずれにせよEV化=切削型マシンの需要大幅減という一方的な捉え方では無くなってきた。
 例えばトランスミッションなどの従来の重要部品についても、CVT(無段変速機)有力企業の幹部が「EVのモーターからの出力にトランスミッションを組み合わせれば、高速化や燃費効率の向上、モーターの小型化が可能になる」などと、EV時代下にもCVTが重要な役割を果たす旨、ポジティブに訴える。
 欧州主要国が相次ぎ、2025~2040年までにガソリン・エンジン車の新たな販売禁止を決めているが(まだ法的しばりの無いケースも多い)、仮にハイブリッド(HV、PHV)を含まないEVカーが主流になったとしても、工作機械の活躍余地は直接、あるいは間接的に大いに残されているようだ。
 最近の取材では次のようなコメントを聞いた。
 「モータコアなどを中心に金型の需要が大幅に増える」、「(車のEV化・次世代で)新素材の加工が新たな工作機械需要を呼び込む」、「車のカスタマイズ化が進み、多品種小量生産に適したマシンが伸びる」、「車載用パワー半導体の需要増で半導体製造装置絡みの加工が増える」、「電子化するクルマにおいて絶縁体やシール材の精密金型がさらに増える」、「車体材料の変革に伴ない新素材対応の大物プレス金型にニーズが出る」など。EV=次世代カーの時代に入れば、いま業界が進める切削+積層造形などのハブリッド工作機械や、面粗さひと桁ナノを目指すような精密マシンに需要が出るだろうとの見立ても複数から聞いた。
 結論的に、需要環境は今後も基本申し分無しといえそうだ。クルマ以外でも半導体の好調持続、建機、鉱山機械の伸びなど好材料は多い。強気派からは「少なくとも2020年までは工作機械は伸びる」と聞かれる。ただIoT時代を迎えて従来とは違った競争要因が加わり、業績格差は総論的にいって広がりそうだ。そうしたなかでモノづくりを支え続ける工作機械がどう進化するか、次頁から技術面にアクセスする。