連載

2018年4月10日号

データで高度化する「カイゼン」

人が主役のスマート工場

 日本流のスマートファクトリー像が語られる際、「全自動化」を志向する欧米に対抗してなのか、毎回のように使われる常套句(じょうとうく)がある。「質が高く、量の豊富な現場のデータを活用する」というものだ。日本では現場の匠の「暗黙知」が品質と生産性を支えてきた歴史があるからだろう。
 では、現場に蓄えられたデータをいかに収集し、どう活用すれば良いのか。その解に近づき始めたのが、工作機械・自動車部品メーカーのジェイテクトだ。
 約3年前、モノをネットにつなぐIoTに、「ヒト」と「コト」の要素を加えたIoE(Internet of Everything)のコンセプトを打ち出し、まず自社でIoEの取組をスタートした。
 ツールも続々開発。ほぼ全てのPLCに接続できるボード型PLC「TOYOPUC︱Plus」、ほぼ全ての工作機械のCNCやセンサから情報を収集できデータを整理・解析できるエッジ型解析モジュール「TOYOPUC−AAA」、ユーザー自身が後付けで簡単に設置できるデータ収集・解析ツールのパッケージ「JTEKT−LINK」などを商品化し、(1)設備同士の接続、(2)稼動情報の可視化、(3)データ収集・解析、(4)遠隔サポートに到るまで、段階を踏んだソリューションでユーザーをサポートできる体制を整えた。
 同社にはトヨタの「ラインビルダー」として、生産システム構築をサポートしてきた40年以上の実績もある。「企業の数だけスマートファクトリー像がある。まだ言語化できていない各社の困りごとを抽出し、ライン全体の生産性向上につなげるのが我々のやりたい仕事だ」。IoE推進室担当の青能敏雄技監が語る言葉の根底には、生産のムダ・ムリ・ムラを人に気づかせてカイゼンサイクルを回すTPS(トヨタ生産方式)の志がある。

■勘頼みからデータ活用へ
 中小企業向けソリューションの成果も現れだした。多品種少量の精密部品加工を行う双葉工業(愛媛県、従業員数46人)では、マシニングセンタ(MC)の加工に用いる工具の寿命検知にIoEシステムを導入した。エッジ型解析モジュール「TOYOPUC−AAA」で収集したMC内部のデータと、双葉工業の基幹ネットワーク側から得たワーク材質や作業指示などのデータを重ね合わせ、個々の工具の寿命を割り出し、日々変わる生産計画に応じて工具交換タイミングを作業者に知らせるというものだ。
 工具寿命診断のアルゴリズムは、ジェイテクトが双葉工業とクラウドを介してデータを共有して構築したもの。加工回数や時間で定量的に工具を保全管理する従来の手法に比べて破損ギリギリ前まで工具を使えるため、工具破損を恐れて早めに交換していた工具費が削減でき、チップ欠けや工具折れによる不良発生も防ぎやすくなった。
 「NGデータ(工具破損時の加工面など品質と紐づいた情報)を教師データとして機械学習のサイクルを回すことで、診断精度はさらに高まる」(青能氏)。多品種少量生産のため完全な予知システム完成までには時間を要するものの、現場では既に、勘や経験ではなくデータで生産計画を判断してカイゼンサイクルを回す風土が育ち始めている。

■研削焼けを予知
 自社でのIoEの取組では、生産軸、品質軸、保全軸の3つでデータを活用した様々なカイゼンが進む。生産軸では例えば、刈谷工場の機械加工エリアに作業者の能力マップに応じた次工程をモニタで指示する場所「ホームポジション」を設置。仕上げ加工は高技能者に任せて効率化を図りつつ、教育の時間も計画的に設定して若手を育てている。
 品質軸での取組も進展。同社主力商品の研削盤では、データ解析により、砥石やワークに熱がこもって変質する「研削焼け」の兆候を見つける独自のアルゴリズムを構築した。そのアルゴリズムを「TOYOPUC−AAA」にインストールして判定させれば、これまで匠の勘に頼らざるをえなかった研削焼けの予知が可能。ただ、「ベアリングの寿命のような『保全軸』の兆候管理は一般解にしやすいが、ワークや環境で解が変わる研削焼けのような『品質軸』は難しい」(同)。ユーザーとの共有データから1つひとつ特徴量を探り、研削焼け予知のシステム化も見え始めてきた。