識者の目

「タイ+1 CLMVTでの金型市場の成長性」

 金型市場での最大の顧客は自動車産業であり、主要対象国は中国と米国である。その金型をどこで製造するかとなると、人件費、インフラの充実、加えて国際政治でのリスクも考慮して、タイをお勧めしている。タイでは日系自動車および部品メーカーの製造拠点が集積し、ASEANでは一人勝ちの状態である。
 そのタイ政府が、最近強調し始めているのがCLMVTである。カンボジア(C)・ラオス(L)・ミャンマー(M)・ベトナム(V)と協力し、タイ(T)がハブとなって発展していこうという構想で、「陸のASEAN」の協力体制である。CLMVの中でベトナムは他より抜き出ておりNextタイを目指すが、自動車産業についてはAEC2018の域内輸入関税撤廃によって衰退の危機にある。他のCLM諸国は現時点では発展途上で、カンボジアについては、タイとの国境の町ポイペトがタイの日系企業に注目されている。
 また、ミャンマーも自動車産業については注目されている。最近スズキと日産が進出してきており、今はCKD生産ではあるが、いくつかの現地調達部品の成形をミャンマー国内で行い、その金型をタイから輸入するというサプライチェーンが始まるのではと期待している。
 そのミャンマーのローカルのプラスチック成形企業をつい最近調査してきた。基本的には中国製の中古成形機で中国製あるいは韓国製の金型によって成形していた。その理由は、ミャンマー国内の製品ユーザーがコスト優先で、品質が悪くてもOKなので、ある意味での最適製造設備の採用である。
 また、一般的に韓国製金型の方が長寿命で、一方中国製金型の方が安いと言われる。ここで、日系メーカーが高付加価値成形を発注すれば、日本製成形機を導入し、タイの日系メーカーから金型を購入して、高品質成形品を成形するための資金力を有しているローカル企業オーナーは多い。設備を使いこなせる技術力が問題となるが、シンガポール、マレーシア、タイ等の製造現場で働き、最新の成形機と金型による生産を体験している人材が多くいるので、それらの人材を自国に戻り貢献するようにすれば、技術力においても問題はない。たとえば、国内で注射器の成形をしているメーカーでは、クリーンルームで韓国製の成形機と金型で成形していたが、そのマネージャーは韓国の起亜自動車の下請け企業で技術を習得していた。
 ミャンマーでは金型産業は存在しないとされる。しかし、金型の簡単な補修(溶接肉盛りと磨き)は成形メーカーの自社内で、先進国で経験してきた技能者が行っていた。ブロー成形などの簡単な金型は、成形品サンプルの寸法を測り、旋盤等を使って製作していた。また2社ではCAD/CAMで設計し、CNCマシンで型製作していた。1社はマレーシアで技術を習得してきた技術者がやっており、他の1社はシンガポールで学んで来た技術者が、中古ではあるが金型製作に必要な設備をすべて揃えてやっていた。いずれも、技術を習得している人材を多く確保できず、生産量として対応が困難となっている。しかしタイと提携し、またタイで技術を習得しているミャンマー人を自国へ迎えるシステムができれば、将来金型産業がミャンマーで成長する可能性は有している。
 最後に、日本のモノづくりにとってASEANとの連携は最重要であるが、タイやミャンマーにいると中国の進出の勢いを強く感じる。日本企業ももっと進出していただきたいと願うものである。

タイ国裾野産業連合会顧問 (型技術協会 元会長) 工学博士 前川 佳徳