PICK UP 今号の企画

切削工具の魅力

―今号(4月10日号)の紙面特集より、ここでは特集「切削工具の魅力」を掲載―。
 生産性向上の鍵を握るとされる切削工具。被削材との関係は「じゃんけん」のようなものだ。選び方と加工条件次第で結果が大きく変わる。それだけに刃物やホルダの進化に対する関心は高い。各社製品の魅力に迫った。

オーエスジー、左ねじれのスレッドミル

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タップ加工の課題だった切りくずも、スレッドミルなら細かく分断できる

ワンパスで「めねじ」加工

 タップで世界シェア3割を占めるオーエスジーが、新たな「めねじ」づくりを提案し始めた。使用するのは今春発売したばかりのスレッドミル「AT‐1」。溝の方向を従来の右ねじれから左ねじれに変え、加工時間をタップ並みに短くした。
 ミリング加工時に発生する刃部の倒れを抑えることで、粗と仕上げの2パスから1パスへの加工短縮を可能にした。倒れは、右ねじれでも目で確認できないほどの小さなもの。しかし、これがスレッドミルが普及しない理由だったと開発者の依田智紀氏(穴開け開発チーム)は話す。
 「スレッドミルはタップに比べて切りくずが短く、折損する可能性が低い。しかし、先端側から加工が始まる右ねじれは倒れやすく、めねじの口元と奥側の有効径に差ができやすい。2パス目で補正する分、余計に時間がかかっていた」
 左ねじれはシャンク側から削り始めるのが特長。振動(ビビリ)抑制効果のある不等分割・不等リードも取り入れ、有効径差を20ミクロン以内に抑えた。めねじサイズM10で被削材ごとに加工比較を実施したところ、SUS304でAT‐1が1000穴削れたのに対し、他社品では567穴に留まったという。
 「100穴ごとにステップゲージで有効径差を測定した。折損する気配がなく、他社品比で能率130%、耐久170%以上という目標には達したので1000穴でやめておいた(笑)。同じピッチのねじなら1本で複数サイズを加工できるので、タップに比べて使用本数が少ない。その点も特長として伝えていきたい」
 工具交換の目安になる有効径差を測る手段として、スレッドミル用測定ツール「DCT」も開発。「めねじの有効径を高めに設定することで、摩耗しても刃物をギリギリまで使える」としている。

サンドビック、引き旋削送り4倍に

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端面加工では下から上に引いて削る

低角チップで負担分散

 旋削工具史上最大のイノベーション︱。サンドビック(コロマントカンパニー)が昨春発表した「コロターンプライム」には、そう言えるほどのインパクトがあるらしい。その効果について、河田洋一技術・製品開発部長はこう説明する。
 「切削送りを少なくとも倍、現状の使用切削条件によっては最大4倍程度まで上げられる。チップ寿命も鋼で2〜3倍、SUSで4〜5倍に伸びたユーザー事例もある。寿命が伸びれば、それだけ切削速度を上げる余裕も生まれる。送りが上げられるのは高送りカッターと同じ原理だ」
 ホルダの動きに特徴がある。これまでのようにチャック方向に押すのではなく、引きながら加工する。引き方向で加工することによって「立ち壁」部分も削れる上、切りくずがワークに巻きついて傷付ける心配もなくした。しかし、「引くこと自体はあくまで手段でしかない」(河田部長)。
 ポイントに挙げたのはチップの切り込み角。25〜30度の低角度に設計したことで、切りくずを薄くし、チップ先端(ノーズR)に集中していた切削熱や加工負荷を切れ刃の広範囲に分散させた。
 荒加工から仕上げまで各種チップを揃えたほか、今春には内径ホルダが加わる。チップ寿命の延命効果があることから、とくに耐熱合金やSUSで効果を発揮する。ただ加工条件の制約もあるそうで、「剛性の低いワーク、細長いワークにはこの加工法が向かないものもある。芯押しの使用やクランプ剛性の確保も推奨している」とした。
 普及の課題となっている加工プログラム作成の手間に対して、サポートソフト(有料)を提案中。「CAD/CAMシステム『Mastercam』にはオプションとしてプライムターニング(引き加工)が入っている」など周辺の環境も整いつつあるという。

三菱マテリアル、タフ&マルチ対応の縦刃カッタ

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インサート共通化で多機能に

 三菱マテリアル加工事業カンパニーが昨年11月に発売した「VPXシリーズ」は、タフな切削を追求した高能率加工用多機能カッタだ。新工具ブランド「DIAEDGE(ダイヤエッジ)」導入後初の新製品でもある。
 経済性に優れた両面インサートを、あえて縦に配置することで高いホルダ剛性を確保。切削加工中の負荷を受ける厚み(Fc)も大きくなるため耐欠損性に優れ、高能率加工でも安心して加工できる。広い着座面はインサートをより強固にクランプでき、切削加工中の振動によるインサートのブレを抑えられる。
 また、縦刃カッタの多くはランピング加工時に専用のインサートに付け替える必要があるが、VPXシリーズはインサートを共通化することでその手間を省くことが可能だ。ランピング加工から肩削り加工、溝加工、ポケット加工、3次元倣い加工までインサートを付け替えずマルチに対応できる。
 同社によると「インサートの面と面のバランスを極限まで追求することで、切りくずの排出性や縦刃カッタ本来の性能を保ちつつ、ランピング加工にまで対応する多機能性を実現した」と言う。
 タフ&マルチな切削を実現する要素は、改良を繰り返してようやく製品化した4面構造のインサート形状にもある。凸切れ刃によりインサート強度を増加させ高精度壁面加工を実現するほか、大R副さらい刃により良好な仕上げ面精度が得られる。幅広い被削材をカバーするインサート材種も揃えた。最大切り込み量が8㍉㍍の「VPX200」53アイテムと同11mmの「VPX300」など32アイテムをラインアップしている。

三菱日立ツール、高硬度鋼加工に特化

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「ナノ組織」で耐久性向上

 リリースから約1年が経つが、好調な売れ行きで三菱日立ツールにおけるボールエンドミルの代表格となりつつあるのが「EPDBEH︱TH3(エポックディープボールエボリューションハード)」だ。
 ターゲットとなるのは主に焼き入れ鋼などの高硬度鋼(50HRC以上)や、ハイス鋼の切削。次世代ハードコーティングTH3は、超硬母材の上に耐磨耗性と耐熱性を両立したナノ組織と、優れた耐熱衝撃性を有する機能皮膜を重ねた。「従来の皮膜は切削抵抗が生じると大きく破損してしまう傾向にあったが、TH3はナノ組織を適用した皮膜の破壊単位をできるだけ小さくして、突発的な欠損や大きな破損を最小限に留めている」(同社)。
 刃形には高硬度鋼加工用に適正化したダブルフェイス形状。ボール刃逃げ面を2つの面で形成することで、1段目の逃げ面が磨耗進行を抑制している。また高精度加工を追求した工具設計により、首下長10㍉の場合、従来首形状対比10%のたわみを抑制するとともに、バックドラフト形状(強バックテーパ)を採用。「点あたりで切削するのでビビリが低減でき、精度向上につながる。ポケット立ち壁仕上げ加工をTH3と弊社従来品で行ったケースを比較すると、削り残り量は約30%削減されている」(同社)
 高硬度鋼を使用している各種金型(プラスチック金型、鍛造金型、プレス金型など)のリブ溝加工や隅仕上げ加工など、小径深彫り加工全般に対応する。仕様は刃先R0・05~R6の全206アイテムをラインアップしている。

日進工具、「金型の磨きレス化」を技術支援

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すぐに試せるトライアルキット

 日進工具はインターモールド2018で、「金型の磨きレス化」を体験できるPCDトライアルキットを提案する。同キットは昨秋から発売。加工に必要なワーク・工具(PCDボールエンドミルPCDRB)・NCプログラムが同梱されており、購入後すぐに、金型の磨きレス加工を試すことができる。
 同梱したPCDボールエンドミルPCDRBは、高速マシニングセンタの加工で面粗さをナノレベル(Ra20ナノ以下、シングルナノも可能)にまで引上げられる。PCD(ダイヤモンド焼結体)の特徴を生かした刃部デザインは高レベルで最適化されており、加工面性状の更なる安定化に成功。被削材は超硬合金だけでなく熱処理後の金型材にも対応し、磨きレスで鏡のような光沢のある加工面が得られる。
 ただ、金型の磨きレス化は「切削ではハードルが高い」とされやすい。と言うのも、工具のみならず高精度な高速加工機、加工環境、ツールパスの最適化など様々な技術的要素が絡み合い、その状況で加工結果が大きく変化するからだ。
 そこで、今回提案するトライアルキットでは、独自の技術サポートも用意した。加工後のワークや加工環境を日進工具側が見て判断し、改善提案を行う。「例えばエアコンの風の吹き出し方向などを変えるだけでも温度環境がずいぶん変わり、加工面品位の違いに現れてくる」と日進工具。「それぞれの機械のクセを考慮に入れつつ、加工パスの精度やピッチ、加工機の回転数をバランスよく整え、最適な加工環境づくりをサポートする」という。
 こうしたトライアルキットは既にCBN工具の「直彫りキット」として約7年前から実施しており好評。日進工具では「金型加工の磨きレス化は、光学系の樹脂金型や、新素材向けの型などでニーズが高まっている。トライアルキットの活用で、ユーザーが自社のPDCAサイクルを回し、技術を高度化する一助になれば」とする。

ユキワ精工、テーパからの振れ精度を保証

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振れを抑え、工具が長寿命化

 ツールホルダーは、切削工具と工作機械の主軸をつなぐ重要な機器だ。しかし、ホルダメーカーのユキワ精工によると、「ツールホルダーの違いで、生産性に大きな違いが出ることがあまり知られていない。見た目に大差はないツールホルダーは、価格だけで選択するユーザーが多い」という。
 ユキワ精工の「スーパーG1チャック」は、自動車や航空機、産業機械などの部品をはじめ金型、IT関連部品など切削加工ユーザー向けとして、切削加工の高精度化へのニーズに応えるため、長年培ったコレットチャックの技術を駆使して開発された。
 特徴は、ホルダのテーパからの振れ精度を保証していること。加工中の工具の振れを最小限に抑えることにより工具の摩耗を減らし、1本で加工できる部品の数を増やせる。また、ホルダ自体の剛性が極めて高く、加工中にビビらないため、加工ワークの面粗度の大幅向上が期待できる。また把握力も強く、回転数や送り速度をあげることが可能だ。
 ユキワ精工によると、スーパーG1チャックのユーザーからは、「以前のホルダに比べて、切削工具が長持ちするようになった」、「加工ワークの面粗度が上がった」、「加工速度を上げることができた」など好評の様子。
 同社では「切削工具が長持ちすれば、工具交換に必要な時間も減らすことができ、見えない部分で生産性の向上に大きく貢献する」という。また、切削時のビビリ音に悩まされていたユーザーからは、「ビビリ音がなくなって、しかも切削速度を20%アップさせたので、効率も向上し更に刃持ちも良くなった」との声もあったそうだ。
 「実際に使えば、その違いは理解してもらえる」と同社。サンプル貸し出しも実施しており、性能に納得してもらったユーザーからの受注が増えているという。

住友電工、炭素鋼からSUSまで広範囲をカバー

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超硬ドリル、「肩の強さ」売りに

 肩欠けに強く、対応できる被削材と加工条件が幅広い。高い汎用性を売りにするのが、住友電気工業(ハードメタル事業部)の超硬コーティングドリル「マルチドリルネクシオMDE型」だ。
 被削材は、炭素鋼、鋳鉄、金型鋼、合金鋼、ステンレスなど。これまで被削材ごとに揃える必要があったドリルを1本にまとめることで、イニシャルコストと段取り作業の手間を減らし、夜間の長時間稼動、少量多品種生産に対応する。
 被削材の特徴に合わせて高送りを狙うのではなく、「切削送り0.1〜0.2の一般的な条件で、主軸トルクが弱い小型機械でも安心して使える工具にした」とデザイン開発部の村上大介主幹は話す。
ポイントに挙げたのは「最も痛む」刃の肩部だ。TiAlCrSi系超多層コーティング、耐摩耗性と耐折損性を両立させた微粒系超硬母材を採用することで、「チッピングのない高品位な刃先に仕上げた」という。さらに刃の中心から外に向かう「シンニング」と呼ばれる形状を、直線から曲線に変更することで、切りくずポケットを広くし、切削抵抗を同社従来品比で20%削減した。
「ハイスドリルとの寿命の差が、2倍、3倍から一気に10倍まで広がった。従来ドリルでヒゲのように伸びていた切りくずも細かく分断できる。さすがに焼き入れ鋼は難しいが、チタン、インコネル、ステンレスは『意外といけるね』と、期待以上のユーザー評価を得ている」
 定価を従来比約2割下げたのも、拡販に弾みをつけている。村上氏は「積極的な価格設定ができたのは、昨春稼動した福島工場のおかげだ。被削材ごとに工具を変えていた手間と時間を考えれば、1穴あたりのコスト差はさらに大きくなる」と自信を見せた。