識者の目

ネットビジネスの発展を支える中国宅配サービス

 中国は訪れるたびに新しい変化を発見できる。そして、その変化の中身にも変容がみられる。これまではオフィスやマンションなど高層ビル群や地下鉄や高速道路などの交通網といった社会基盤の整備に伴うものが中心だったが、ここ数年では生活・消費インフラに関するものが目立つようになった。新たな変化をもたらしたのは、いまや中国で暮らすうえで必需品となったスマートフォンだ。買い物などの電子決済をはじめ、レストランの予約、食事(デリバリー)、交通手段(シェアサイクル、タクシー、鉄道など)など、あらゆるモノ、コトがスマホで簡単に利用できるようになっている。
 もっとも、スマホは各種サービスにアクセスする「道具」であり、新たな変化を支えているのはやはり労働者である。中国の街角では乗用車や自転車(昨年から本格導入されたシェアサイクルが圧倒的に多い)のほかに、荷台に四角いケースを搭載したバイクや電動自転車が多数往来している。ネット通販の商品やデリバリーフード(中国語で「外売」)を運ぶ宅配業者によるものだ。
 中国の宅配業はネットビジネスの発展と相まって、急速な成長を遂げてきた。中国政府の発表によれば、2017年の宅配便取扱個数は前年比28%増の401億個に達し、4年連続で世界一を記録した。その規模は5年前の12年比で7倍、10年前の07年比で33.4倍と凄まじいスピードで拡大している。ちなみに日本の宅配便取扱個数は40億個(16年実績)と中国の10分の1に留まっている。
 この急成長により、中国の宅配業界では、毎年約20万人の新規雇用が創出され、17年までに主要7社が上場を果たした。中国国家郵政局は昨年発表した「宅配業発展十三五(2016−20)計画」において、20年の宅配便取扱個数を700億個とし、今後も毎年平均100億個増のペースで発展するとみている。

宅配業初の条例
 しかし、宅配サービス市場の急速な拡大は、日本でも問題化している労働力不足を招いているほか、宅配物の粗雑な取り扱いや顧客情報の保護など多くの問題も指摘されてきた。中国国務院(内閣に相当)は宅配業の健全な発展とサービスの規範化を図るため、宅配業では初となる行政法規「宅配暫定条例」を5月1日に施行した。同条例の主な内容としては、(1)差出人は貴重品を宅配する場合、宅配業者に事前に表明すれば、商品価格は保証される(第21条)、(2)宅配業者は差出人に名前(名称)、住所、電話番号以外の顧客情報を記入させてはならない(第22条)、(3)宅配業者は約定した受取場所で受取人に宅配物を届け、直接検収を受けること。受取人の同意なく他の場所等に放置しない(第25条)。
 この条例によってサービスの規範化が徹底され、利用者の権益保護が期待される。しかし宅配業者からは早くも不満の声が上がっている。配達の現場では、配達員一人で毎日100〜200個もの宅配物を取り扱っており、受取人全員に事前連絡を取れば業務効率の低下は避けられない。発展が続く宅配業界にとって条例への対応は軽視できない、難しい問題といえそうだ。

愛知大学 国際ビジネスセンター所長 現代中国学部 准教授 阿部 宏忠 氏

あべ・ひろただ 20年間の日本貿易振興機構(JETRO)勤務を経て2011年から現職に。JETROでは北京、上海、青島に計10年間駐在し、日系企業の中国進出を支援したほか中国市場を調査。1968年生まれ。