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タイ、大規模インフラ開発を主軸に

投資メリットを内外にアピール

―今号(5月15日号)の紙面特集より、ここでは「アジア版 タイ、大規模インフラ開発を主軸に」を掲載―。
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大規模なインフラ開発が
急ピッチで進められている

 タイ投資委員会(BOI)は3月、国内外の投資家に向けたシンポジウム「タイ~新たな次元へ飛躍」をバンコクにて開催、国内外から約3000人が集まった。同シンポジウムでは、ソムキット・チャトゥシーピタック副首相をはじめ、タイ政府の要人や企業トップがタイへの投資メリットを強調した。

経済成長で政情不安を払拭

 基調講演のトップに登壇したのはソムキット副首相。米名門・ノースウエスタン大学で博士号を取得するなど、市場経済のスペシャリストでもある。過去にも副首相や財務相などの要職を歴任し、現政権においても同国経済政策の主柱と言える存在である。
 未曾有の水害や政権交代などで一時期鈍化した同国経済。2015年の経済成長率は2・8%に留まったが、2017年第4四半期は4%にまで上昇するなど、徐々に回復の兆しを見せている。
 これについてソムキット副首相は、「プラユット首相のリーダーシップのもと、国民が一致団結し景気低迷を乗り越え、発展してきた。海外からの投資意欲も上昇し、2015年の2000億バーツ(約6800億円=1バーツ3・4円)から2017年には6000億バーツと3倍に伸びた。これにより、経済改革に向けた機運が一層高まりを見せている」と語った。続けて「国内経済が回復基調にあるいまこそ、新たな投資奨励政策を打ち出し、さらに高い目標を目指す段階に来ている。国内経済のさらなる高度化の促進をはじめ、タイを東南アジアにおける投資、輸送、観光ハブへと転換させる」と意気込んだ。
 実際に世界銀行が発表した世界ビジネス環境ランキングでは、2016年の46位から2017年は26位へとジャンプアップ。ここ数年での目覚しい成果についてソムキット首相は、「19年前(タクシン政権)は政治が不安定な中で、政策を打ち出していかなければならなかったが、現政権では2~3年で成果を出すことが出来た。我々は5年前の政治危機を乗り越え、新しいタイに生まれ変わった。ここ数年で大きな成果が出たが、これがピークではない。今後も改革を続けていかなければならない」と、政情不安の影を完全に払拭したことをアピールした。

高度産業への投資を期待

 新たな投資奨励政策はインフラ整備を中心に多岐に渡る。鉄道事業、空路及び海路の整備、さらにはデジタルインフラの整備として全国の農村地域をカバーする高速インターネット網の整備・構築、中国―香港―タイを結ぶ海底ケーブルの敷設、オンライン取引推進による貿易・生産の拡大、電子送金による行政手続きの電子化、さらにエネルギー資源探索や天然ガス用パイプラインの敷設等をソムキット副首相は掲げた。
 「現在、CLMVT(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム、タイ)はそれぞれが急速な経済発展を遂げている。タイはこの地域の中心的な役割を果たしていかなければならない。そのカギを握っているのがEEC(東部経済回廊)の発展だ。アジアのハブとして最も有力なEECの発展は、周辺国経済にも好影響をもたらす。投資家の皆さんには、高度な産業における技術指導や人材育成も含めた、真のパートナーとしての投資を期待している。無論、それに対する十分なメリットや恩典が享受できるようにしている」。
 一方で、肥沃な国土を利した農業国でもあるタイ。1980年以降の急速な工業発展により、国内総生産や輸出に占める割合は低下傾向にあるとはいえ、いまだ労働人口の約50%が農業従事者でもあり、都市部と地方部の収入格差は歴然としている。このことについて、ソムキット副首相は「観光業はわが国において、もっとも可能性のある産業でもある。今後は観光開発予算を地方に配分し、バンコクから地方都市へと観光客の分散化を図っていく。地方都市が農業や漁業だけに依存することなく、観光業ベースで発展していくことで、都市部との格差を縮小していきたい」と語った。

壮大なインフラ開発計画

 続いて登壇したパイリン・チューチョートターウォン運輸副大臣は、2022年までに優先して行うインフラ開発として高速鉄道の建設、既設鉄道の複線化、高速道路の整備、港湾整備、航空輸送拡充と5つの事業を掲げた。
 高速鉄道建設計画については「バンコク−ビサヌローク県−チェンマイ県間673キロは日本政府との協力で進めている。現在は日本政府と実現の可能性を検証中だ。バンコク−ノンカイ県間608キロは中国政府との協力で進めている。これが完成すれば、中国・昆明までを直結する高速鉄道網が完成する。またバンコク−ラヨーン県間194キロを結ぶ路線については、2018年中に官民連携事業者の選定と契約を行う。バンコク︱ホアヒン間211キロについては計画を策定中」と述べた。
 既存鉄道の複線化については、2018年中に全ての事業契約を完了し、整備に着手することで従来の4倍の輸送能力を確保するとした。第1フェーズとして、2020年までに7路線993キロの複線化工事を完了、第2フェーズでは2026年までに7路線1392キロの工事を完了させるとともに、複線化区間の鉄道は全て電動化するという。またバンコク首都圏の地下鉄及びBTS(高架鉄道)についてもネットワークを拡大し、バンコク中心部から10本480キロの都市鉄道ネットワークを2024年までに構築するとした。
 主要高速道路区間についてはパタヤ−マプタプット間3キロは今年11月までに完工、パーンパイン郡−ナコン・ラチャシーマー県間196キロとパンヤイ区−カンチャナブリ県間96キロは2020年10月までに完工が予定されている。また港湾整備は国際港であるレムチャバン港のコンテナ積み替えシステムを改善し、鉄道から船までの一貫輸送によるシームレスな物流環境を目指していくという。
 航空輸送に関しては、スワンナプーム、ドンムアン、チェンマイ、プーケット、ウタパオの各国際空港の整備拡張を行う。「スワンナプーム空港の拡張は、2021年までに現状のキャパシティ4500万人から倍増の9000万人が利用可能となる。またウタパオ空港の大規模拡張と2023年の高速鉄道の開通により、さらに利便性は高まるだろう」(パイリン運輸副大臣)

「中進国のわな」からの脱却へ

 途上国にコスト競争力で追い上げられ、先進国には技術力で一歩及ばないため経済成長が停滞してしまうという「中進国のわな」は、タイにとって他人事でない。その現状を打破するための方策をコーブサック・プートラクーン首相府相が語った。
 「タイランド4.0が掲げる、長期的に一貫した国家戦略と、それに沿ったアクションプランの着実な実行こそが我が国の競争力強化と、持続的な成長の実現に繫がる。現在、我が国の1人当たりのGDPは6000ドルに過ぎない。これを2036年までに2・5倍の1万5千ドルまで引き上げることを目指している。そのために次世代インフラの整備、イノベーティブな産業の創出、しっかりとした法律とルールの整備が重要」。
 タイ政府は今後、国際経営開発研究所(IMD)、世界経済フォーラム(WEF)、世界銀行などが発表する各国の国際競争力を示す指標において、2036年までに15位以内に入ることを目標に掲げている。参考までに現在のタイの順位は32位、日本は9位、首位はスイスとなっている。
 この目標を実現するためにも、タイは投資環境の整備をこれまで以上に手厚いものに拡充している。ある日系企業関係者は「タイは海外進出を目指す企業にとって、これ以上ない条件が揃っている。タイで上手くいかないビジネスは、おそらく他の国でも頓挫すると思う」と語る。海外生産によるコストメリットは年々縮小しつつあるとはいえ、日本と比較すればまだまだ魅力的な移管先であることは間違いないだろう。(取材協力・日本アセアンセンター/BOI=タイ投資委員会)