連載

2018年6月10日号

熟達者の思考回路をAIで再現

自律分散型の小工場 世界中に

 製造現場を知る人なら、ベテランの匠の「見抜く力」に驚いたことがあるだろう。加工機から出てきたワークを見ただけで、加工条件や機械をどう調整すれば不良発生を防げるかを推定できる。設計図を見ただけで、加工法や大まかな加工時間、諸経費が分かる…。
 そうした熟達者の複雑な思考回路をAIに落とし込み、若手への技能伝承、ひいてはビジネスモデルの大変革につなげようとする企業がある。
 17年度ものづくり日本大賞「ものづくり+(プラス)企業」部門で大賞を受賞したAIベンチャー、LIGHTz(つくば市)だ。
 同社の開発したAI学習エンジン「ORGENIUS(オルジニアス)」は、ビッグデータで学ばせる数値解析的なAIとは一線を画す。ベースとなるのは熟達者からのヒアリング。観測するポイントと直感的な思考の繫がりを整理し、関連キーワードが数珠つなぎになった「ブレインモデル」として、熟達者の思考空間を視覚化する。
 4月下旬にドイツで開催された世界最大級の産業見本市ハノーバー・メッセで同社は名だたる欧米企業から提携のラブコールを複数射止めた。
 同メッセでは、自動車の外観塗装検査の自動化にブレインモデルを適用した事例をデモで見せた。たとえば、ゴミが混じった「ブツ」と呼ばれる原因が特定しにくい塗装不良でNG判定になった場合。モニター上のブレインモデルでは「ブツ」に紐づいた「油性塗料」、「除電作業」、「水ワイプ」…など、熟達者が想起する関連キーワードがチカチカと点灯。若手でも原因を推定し、対策を実行しやすくなるという。
 乙部信吾社長は「数値解析型のAIのブラックボックス的な判断を頼るだけでは、現場の技術力は低下するばかり。熟達者ならではの気づきを言葉にして初めて、エンジニアリングサイクルが回り始める」と説明する。
 国内の工作機械大手も同社との提携に強い関心を寄せる。通常は機械オペレータに膨大な時間をかけて溜めこむ暗黙知を、オルジニアスで棚卸してデータベース化できるからだ。
 データベース化された知見は、機械の自律制御に使える。山形大学と開発中の3Dプリンタでは、材料特性、センサーから得た機械の挙動などの数値データと、熟達者の知見をAI学習エンジンで融合。加工条件の自動調整により不具合を未然に防げるようにし、「まるでグリム童話の『小人の靴屋』のように、朝起きたら欲しいモノが失敗なくできている」コンパクトファクトリーを研究中だ。

■ライバルはHAX
 経済産業省が公募するスタートアップファクトリーの量産化支援事業にも、名乗りを上げた。想定するライバルは、中国・深センとシリコンバレーに拠点を持つHAX。量産教育から大手スーパーへの販売まで一貫サポートし、数多くのユニコーン企業を排出してきた有名どころだ。LIGHTzでも、工業デザイン、量産設計(技術者派遣、教育)、家電量販店、安全認証、物流にいたるまで各業界の先進企業と支援のスクラムを組む。
 月産3000~1万個程度のコンパクトファクトリーの外販にも乗り出す。協業先のノエックス(つくば市)が外販中の多軸ロボットを用いた小型組立ラインに、ブレインモデルでAI化した製造関連データを「配信」するというものだ。
 配信するデータの内容は、ロボットのパラメータ、不具合防止策、組立ノウハウなど、生産準備に関わる熟達者のAI化された知見。「投資額は2000万円~3000万円程度。4畳半程度のスペースがあれば設置できる。AIが製造条件を自動調整する上に完成品の配送手配まで自動化し、製造の素人でも完結したミニファクトリーを構築できる」(同)。
 乙部社長の構想の先には物流革命がある。「日本には小ロット量産工場が少なく、スタートアップ企業が量産に挑戦しにくい。欲しいモノを欲しい場所で作れる小ロットの自律分散型工場を世界中に作りたい」と意気込みを見せた。

(2018年6月10日号掲載)