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2018年版ものづくり白書、製造業に「変革」の対応求める

「経営力により、デジタル時代の現場力再構築を」

―今号(6月25日号)の紙面特集より、ここでは「2018年版ものづくり白書、製造業に「変革」の対応求める」を掲載―。
 2018年版ものづくり白書が5月29日に閣議決定した。同白書は経済産業省、厚生労働省、文部科学省が3省共同で作成。毎年、我が国製造業の足下の状況を捉え、製造業のなかで起きている変化や課題を分析し、次代に向けた取組みの方向性を示す内容となっている。
 今回は、ものづくり経営の視点からさまざまな「危機感」を、非常にシビアに、かつ訴えるように綴っている―が、過去の同白書と様相を異にする点だ。全体として順調に見える昨今のモノづくり業界だが、白書は「目の前の繁忙さが構造的な課題の存在を覆い隠している」、「ものづくり産業が直面する課題は(中略)…リーマンショックといった過去の困難な時期と比較しても、より本質的で、より深刻なものである」とさえ記す。

非連続の変革の大波、経営主導での対応を

 工業会やモノづくり団体の年次総会は毎年5月がラッシュだ。総会後の懇親会では、乾杯の前に来賓である経済産業省の担当官がひとくさり話をするのがお決まりだが、今年は各会場で「今回のものづくり白書は、皆さん、総論だけでも、必ずじっくり読んでいただきたい」の挨拶を何度か聞いた。
 300ページを超える今年のものづくり白書のなかで、冒頭の総論部はわずか2ページ強。このなかに核心をギュッとつめ込んでいる。
 「我が国ものづくり産業は大きな転換点に直面している」ではじまる総論は、「大きな転換点といっても、またかと感じる向きもあろうが」としたうえで、デジタル化やIoTの進展、AIの登場・普及に伴うモノづくり産業の競争因の劇的変化と、その大きな変化に即応できていない我が国製造業に強い懸念を滲ませた。
 その上で、こうした危機感、あるいは変化対応力の欠如といったものが、大きく次の4つに集約されると記した。
 (1)人材の量的不足に加え質的な抜本変化に対応できていないおそれ、(2)従来「強み」と考えてきたものが、成長や変革の足かせになるおそれ、(3)経済社会のデジタル化などの大きな変革期の本質的なインパクトを経営者が認識していないおそれ、(4)非連続的な変革が必要であることを経営者が認識できていないおそれ―の4点だ。
 ここで本紙として、4つ目の危機感にある「非連続的な変革」という言葉に着目してみたい。変化・変革の大波が「非連続」で押し寄せているならば、過去の成功体験も、かつて輝いていたスキルやノウハウも、あるいは旧来の品質への取り組みや自前主義の経営も、大きく見直されるべきであることが明白に理解されやすい。
 この非連続の変革のさなか、さらに根本的な変化が起きていることも白書は記す。
 白書はモノ作り産業の競争力の源泉を述べるくだりで「(いまや)モノそれ自体に伴う競争、すなわち、品質、価格、納期といった次元での競争ではなく、モノを通じて市場にいかなる付加価値をもたらすかといった競争が生じている」と記し、また「顧客が求める価値が『モノの所有』から『機能の利用』や『価値の体験』に移行し、モノだけでなく、モノを利活用したサービス・ソリューション展開が価値獲得の鍵を握り始めている」と記す。
 こうした大変革に直面して必要なのは経営主導で対応を推進することと白書は説く。大変革のなかで「現場」任せにせず「経営力」を発揮することで、デジタル時代の「現場力」を再構築していく、その必要性を強調して述べる。

人材問題、量的不足だけでない

 こうした全体観に立って、今白書は一つひとつ課題を掲げ、その対応策を検討する形で論を進めた。
 最大級の課題は人材問題だ。
 我が国製造業は売上高・営業利益とも増加傾向にあり、経産省の昨年末調査では「今後3年間も全般的に明るい見通し」との結果になった。白書は、国内回帰の動きが一定程度継続していることもプラスポイントとして記す。
 しかしながら、それとは裏腹に「人材不足感の高まりがうかがえ」、人材の不足がいまや「ビジネスにも影響している」とする企業が大幅に増えていることを危惧する。
 昨年末の経産省の調査では、人材確保対策において企業が最も重視している取り組みは現時点で「新卒採用の強化」が圧倒的に多かった。が、今後の取り組みに目を転じると「自動機やロボット等の導入による自動化・省人化」や、「IT・IoT・AI等の活用による合理化」が大幅に増加していた。白書は「現在は新卒採用に固執する傾向が見られるが、今後の取り組みを見ると人材確保に課題のある企業ほどこれらの(自動化等の)取り組みを重視する傾向にある」と分析している。
 人材の量の不足とともに、デジタル時代に欠かせない専門的人材が「量・質ともに充足できない」状況も厳しく捉えた。
 やはり昨年末の調査で、デジタル人材の業務上の必要性を感じている企業は大企業で約85%、中小企業で60%に達した。このうちおよそ4分の3の企業が「デジタル人材が量・質ともに充足できていない」と回答していた。
 一方で会社組織をみると「デジタル・IT責任者が頻繁に経営参画する企業の割合は半数に満たない」。白書は「経営層のコミットが課題」などと結んでいる。
 なお人材の確保と育成については、労働生産性の向上に主眼をおいた取り組みや課題など、また検定制度や職業訓練、人材開発助成などを利用した育成策などを、別途50ページ以上を割いて詳しく記している。

デジタル時代の現場力、経営力で再構築する

 人手不足が一方にあって、もう一方でデジタル技術の革新をベースにした第4次産業革命が進むなか、白書は「ロボットやIoT、AI等の先進的ツールの利活用の進展が期待される」とした。同時に「付加価値の高い仕事へのシフトを進める人材育成や、多様な働き手の潜在能力を引き出す働き方改革も期待される」とした。このあたりの文脈について白書は、「ものづくり現場の目指す方向性」として左上のような図に描き表している。
 そしてこの図のようなアプローチを実践するには「現場力を再構築する経営力が重要」と、白書は再三にわたって強調した。
 従来の現場力(暗黙知、職人技、連携・協力、カイゼン力、すり合わせ等)から、デジタル時代の現場力(データ活用、形式知への移行、デジタルデータの資産化等)に切り替える(再構築する)には、まさに経営力が欠かせず、「個別現場が主導する部分最適化を目指すのではなく、重要な経営課題と捉えて経営側がコミットし、バリューチェーン全体での全体最適化を図った構築が重要」とする。その実現には「的確な経営力の発揮」が鍵だと、再びコアとなる言葉を足した。

CI実現に向け、システム思考、ビジネス設計力を

 日本政府は昨春来、第4次産業革命を経て我が国が目指す姿をコネクテッド・インダストリーズ(Connected Industries=CI)というコンセプトで示している。昨年のものづくり白書に続いて、今回の白書もCI実現に向けた取り組みの必要性や課題を出した。
 ここでCIとは、様々なつながりにより新たな付加価値が創出される産業の在り方を示すもので、次のような姿がイメージされる。
 「モノとモノがつながるIoTや人と機械・システムの協働・共創、また国境を越えて企業と企業がつながることで様々な付加価値が生まれる。さらには、技術と人がつながることで人の知恵・創意を更に引き出し、世代を超えて人と人がつながることで社会の課題を解決するなど、様々なつながりにより、ソリューション志向の新たな産業が形成される」(昨年のものづくり白書より)。
 今回、CI実現向けては「自前主義から脱却し、自らの強みを他者との連携等を通じて最大価値に仕上げる観点が重要」としつつ、「こうした全体最適を実現するシステム思考やビジネス設計力は我が国の課題であるとの指摘も多い」などと、前回の同白書以上に踏み込んで、価値観や考え方の刷新を求める記述となっている。
 CI実現に向けた課題に関する記述は、前回より深掘りした内容となった。課題は多く、地域企業や中小製造業において、デジタル技術やロボットの活用に必要なスキルを兼ね備えた人材が慢性的に不足していることが一つ。同時にIT人材やロボットシステムインテグレーターなどの専門人材は日本全体でも絶対量が不足している。ロボットインテグレーターなどは地域によってプレイヤーの数にばらつきがあり「地域偏在性もみられる」とした。
 専門人材の育成をはじめ、情報サイト等を通じた認知度向上に取り組むと宣言するように記す。
 今白書はまた、モノづくりが転換期を迎える中で自動化や無人化など、さまざまな先鋭的取り組みの実践例もふんだんに掲載した。同時に、従来型の工程改革や部分最適が効果を上げにくくなった現実も、実例をあげながら厳しく見つめている。