識者の目

自動車の電動化と部品産業の変貌

 自動車産業は環境対策として、排出CO2の低減が命題として課せられている。欧州の「ユーロ6」規制が最も厳しく、CO2排出規制量は130g/km以下から2021年95g/km以下になり、更に2030年には66.5g/km以下が検討されている。各社とも現状はクリアしているが、この先の規制対応についてはエンジンシステムだけでは困難であり、モーターを併用したHVシステムか、EVを投入せざるを得ない状況である。2018年米10州、2019年中国でもZEV(ゼロエミッション車)販売比率の規制が始まり、電動化は不可避になってきている。
 既存の自動車メーカーは、バッテリーのエネルギー密度から短い航続距離と、充電時間の長さや充電ステーションの少なさから、ガソリン車に比べて実用性が劣り、日産やBMWを除くとEVに消極的であった。太陽光発電事業や宇宙ロケットを製造する米国のTESLAや、バッテリー会社を原点とする中国の比亜迪が新興EVメーカーとして参入し、自動車メーカーもEVの開発に舵を切り始めた。欧米でのディーゼル車の排ガス問題もあり、欧州車はEV化戦略を構築し、メルセデスベンツは「EQ」ブランド、VWは「I.D.」シリーズを展開する計画である。トヨタはデンソー、マツダと共同でEV基盤技術開発会社「EV C.A. Spirit」を設立し技術規格の標準化を行い、2020年にEV生産体制確立を目指している。

■部品大手、戦略を再構築
 電動化は、駆動系や燃料系に大きな技術変化をもたらし、該当部品メーカーでは企業戦略再構築が行なわれている。
 BOSCHでは2025年に向けて、HV、EVの生産拡大や電気電子装備充実を予測し、e−Mobilityに特化した部門を新設した。事業活動ではGSユアサ、三菱商事と合弁会社「リチウムエナジー&パワー」を設立し、48V電源システムバッテリーの生産計画や、ベンチャー企業と小型EVプロトタイプ「e GO」を製造し新興国完成車メーカーへ技術提案を行なっている。その他に半導体の生産、情報通信や地図の共同開発など幅広い技術展開を行なう一方では、スターター、オルタネーターモーター事業を中国企業に売却。商用車用トランスミッションやターボチャージャー事業も売却するなど、内燃機関事業の整理を行なっている。
 精密小型モーターで世界一の日本電産は、車載モーターシステムモジュールやHV、EVの大型モーターのサプライヤーを目指して、多くのモーターや電子コントロール企業を買収し事業拡大を目指している。パワー半導体インバーターでのモーター制御駆動システム開発や、PSAとEV、PHV用トラクションモーター合弁会社設立、中国メーカーからは既に低速EV用のモーターやコントローラー類を受注している。

■EV化、技術開発は長期視野
 電動化ではEV航続距離にあわせ相当量のリチウムイオン電池を搭載している。2代目「プリウス」PHVでは、リチウムイオン電池の容量を増やし、EVでの走行距離を68.2kmとし複合燃費を大幅に向上させた。電池のセル数を増やし、質量は80kgから120kgへと重くなっている。EV「リーフ」では約200kgのリチウムイオン電池が搭載され、車両の軽量化が必要になっている。
 ヒルタ工業はバッテリークロスメンバーのアルミフレームと鋼板ブラケットをレーザー溶接で軽量化する研究開発を実施。槌屋ティスコでは、ガラス入りPPとステンレスメッシュの金属製シールドバッテリーアンダーカバーと、合成繊維を使った軽量電磁波シールド織物の研究に取り組んだ。両研究テーマは量産には至っていないが、研究開発で得られたレーザー溶接技術や電磁波シールド織物を、他分野に活用する研究が継続されている。
 電動化では駆動系の音が低減されることで、更に室内の静粛性が求められる。ヒロタニは、部品解析から実車評価まで出来る音響実験室とシャーシダイナモ室を備え、極細PET繊維を使った熱可塑成形フェルトで、汎用品比3〜4倍の通気抵抗で音を大幅に内部減衰させる高吸音性能を持つダッシュボードインシュレーターを開発、静粛性に特化した開発を行なっている。
 環境規制により、EV開発競争は激しくなると予測されるが、実用性において解決されなければならない課題は、バッテリーのエネルギー密度向上による航続距離の延長、バッテリーコスト低減、充電インフラ拡充と充電時間短縮、バッテリー寿命延長やリサイクルシステム完備と交換費用低減などがあげられる。これらの事から、一気にEV化するとは考えにくいので、技術開発は長期的視野に立ち展開する必要がある。

(一社)日本自動車部品工業会 技術担当顧問 松島 正秀 氏

まつしま・まさひで 1970年東海大学工学部卒業、77年本田技術研究所入社。同社常務取締役、本田技研工業取締役を経て、本田技術研究所副社長。その後、2000年にショーワ代表取締役社長に就任、07年退任後、外部団体主要役職を歴任し、現在は(一社)日本自動車部品工業会技術担当顧問を務める。