識者の目

働き方改革、安易な残業依存体質の解消が鍵

■働き方改革の2つの目的
 企業における働き方改革には主に2つの目的がある。
 狭義の目的は長時間労働の解消であり、広義の目的は多様な人材が活躍できる働き方や時間意識の高い働き方への転換である。広義の目的は、ダイバーシティ経営の土台としての働き方改革であり、また時間意識の高い働き方への転換は企業の競争力基盤の変化に対応するものである。
 狭義と広義の目的は相互に関係するが、働き方改革では、広義の目的を実現することを通じて、狭義の目的を実現することが望ましい。しかし、狭義の目的の実現を働き方改革の課題とする企業も少なくない。このように企業が、働き方改革の目的を長時間労働の解消と狭く捉える背景には、最近の過労死や労働基準監督署による監督強化などがある。
 もちろん、健康を害するような過度な長時間労働や法違反は、即座に解消すべきものである。しかし、長時間労働の解消のみが優先され、働き方改革の取り組みを欠いた単なる残業禁止などは、不払い残業などを増やすだけに終わる可能性が高い。
 単なる長時間労働の解消ではなく、仕事が終わらないときには安易に残業すれば良いと考えるいわゆる「残業依存体質」を解消することが重要なのである。長時間労働の解消と残業依存体質の解消は、重なる部分もあるが質的に異なるものであり、後者を実現するためには、時間意識の高い働き方への転換、つまり働き方改革が必要となる。

■時間意識の高い働き方への転換
 広義の働き方改革を進めるためには、社員一人一人が、時間意識の高い働き方に転換することや、管理職の職場マネジメントの改革が不可欠である。
 時間意識の高い働き方とは、管理職だけでなく職場成員の一人一人が、「時間」を有限な経営資源と捉えて仕事をすること、つまり高い「時間意識」を持って仕事に取り組むようにすることである。こうした時間意識を持つことが、従来の働き方の変革につながる。
 具体的には、男女役割分業を前提とした男性の働き方、つまり「時間制約」のないワーク・ワーク社員を前提とした既存の仕事管理・時間管理を、「時間制約」のあるワーク・ライフ社員を前提とした仕事管理・時間管理へと改革することである。このことが、広義の働き方がダイバーシティ経営の土台となる理由である。
 「時間制約」のないワーク・ワーク社員が多い時代の仕事管理・時間管理は、職場の管理職にもよるが、安易なものとなりがちであった。このことが、仕事が終わらないときは残業で対処すれば良いとする安易な残業依存体質をもたらしたのである。その結果、無駄な業務の削減、仕事の優先付け、過剰品質の解消などを考慮せずに、仕事総量を所与としてすべての業務が完了するまで労働サービスを投入し続けるような働き方が行われていた。
 時間を「有限」な経営資源と考える意識を欠いたことで、時間を効率的に活用する考えが弱かったのである。そのため、質の高い仕事が生み出されていても、無駄な仕事や過剰品質も多く、全体としての時間あたり生産性は低くなる事態が生じていた。
 「時間制約」のあるワーク・ライフ社員を前提とした仕事管理・時間管理とするためには、時間総量を所与として、その時間で最大の付加価値を生み出すことが大事になる。時間を「有限」な経営資源と捉えて、その時間を効率的に利用する高い時間意識を職場成員の間に定着させることである。
 具体的には、仕事管理・時間管理として、無駄な業務の削減、優先順位付けをした上での業務遂行、過剰品質の解消、情報共有や仕事の「見える化」などの取り組みが不可欠となる。こうした働き方が、時間意識の高い働き方となる。働き方改革で、情報共有と仕事の「見える化」が必要となるのは、時間制約のない社員が多数を占める時代と異なり、時間制約のある社員が主となると、職場成員の全員が同じ仕事時間を共有できないことによる。短時間勤務の社員、残業免除の社員、残業免除ではないが週に数回は定時退社を希望する社員などさまざまな職場成員が混在している職場が一般化することによる。
 時間意識の高い働き方への転換を促進するためには、企業が望ましいと考える働き方を社員に提示すること、つまり企業が望ましいとする働き方の評価基準の改革が必要となる。営業担当職を取り上げると、評価基準を売上高でなく、時間当たりの売上高で評価することを社員に明示的に示すことが有効となる。
 働き方の評価基準を変えるためには、人事考課の評価項目の見直しなど制度面の改定だけでなく、その運用面での改革も必要となる。人事考課の担い手である管理職の部下評価の実態が変わる必要がある。
 1日の実労働時間別に、残業している部下に関して上司が抱いている「イメージ」を一般職の社員にたずねた調査結果を見ると、実労働時間の長い社員ほど、上司は残業している部下をポジティブに捉えていることがわかる。働き方改革を実現するためには、管理職の部下評価の運用を含めた見直しが必要となる。

中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)教授 佐藤 博樹 氏

さとう・ひろき 1981年、一橋大学大学院社会学研究科博士課程満期退学。雇用職業総合研究所研究員(現在の労働政策研究・研修機構)、法政大学経営学部教授、東京大学社会科学研究所教授などを経て、2014年から現職。東京大学名誉教授。専門は人的資源管理。著書に『ダイバーシティ経営と人材活用:多様な働き方を支援する企業の取り組み』(共編著/東京大学出版会)、『ワーク・ライフ・バランスと働き方改革』(共編著、勁草書房)、『人材活用進化論』(日本経済新聞出版社)などがある。