識者の目

米中貿易摩擦 工作機械への影響は限定的

長期化すれば世界製造業に下押しリスク

 トランプ政権は、保護主義的な通商政策を実現させつつあり、これを受け、中国政府も対抗措置を取り始めている。米中間の貿易摩擦は、中国経済ひいては世界経済に悪影響を及ぼす可能性があり、世界的に懸念が高まっている。
 工作機械業界は、グローバル需要の約4割を中国市場が占めており、同国の動向に左右されやすい構造である。また、日系工作機械メーカーの中国依存度も低くないため(中国向け受注/内外需は約2割)、日系工作機械メーカーにとって米中間の貿易摩擦は無視できない問題といえる。
 米国の通商政策の中で、工作機械業界に関係するものは大きく二つ、米通商法301条※に基づく「米中間の輸入関税の引き上げ」と「輸出管理規則(EAR)の見直し」が挙げられる。
 USTR(米通商代表部)は、中国政府が、海外企業の技術獲得などにより、自国産業の高度化を図ろうとしていると指摘。不公正な取引慣行による知的財産権侵害の措置として、2018年6月15日、総額500億ドル相当の中国からの輸入品に追加関税を付加する旨を決定した。同年7月6日には、第一弾として、輸入品目818品目、340億ドル相当に25%の関税賦課を実際に発動した。金属加工用のマシニングセンタや旋盤、研削盤などいわゆる工作機械もその品目に含まれる。
 ただし、輸入関税の引き上げが日系工作機械メーカーに及ぼす直接的な影響は現時点で限定的と考えられる。というのも、日系工作機械メーカーの生産体制は、現状、国内生産(一部、現地生産)が中心であり、一部のメーカーを除いて、中国で生産した工作機械を米国へ輸出する商流は限られているからだ。その背景には、ワッセナーアレンジメントや原子力供給国グループといった国際的な枠組みがあり、工作機械の技術移転や輸出に関して厳しい規制が参加各国で整備されている。そのため、許認可、管理といった点で、海外生産のハードルは高く、日系工作機械メーカーの国内生産に占める輸出比率は65・7% (2016年)と高い。2000年以降、アジア地域、特に中国での現地生産は一部進んだものの、生産機種は限られており、国内生産が中心という状況は大きく変わっていない。
小さくない間接影響
 輸出管理規則(EAR)は、輸出管理法に由来しており、安全保障、外交政策、及び物質不足の3つの理由に基づく輸出規制を認めている。EARの規制対象範囲は米国内に留まらず、米国外(域外)にも及ぶ。具体的な品目は、EARに定められているが、「米国内の品目」のほか、「米国原産で所在地を問わない品目」つまり米国以外の国からの第三国への再輸出も規制対象となっている。工作機械に関していえば、一部のCNCやセンサーに米国製のCPUやメモリなどが使われているが、世界中のエレクトロニクス製品に採用されている米国製のCPUやメモリを一律規制対象とするのは現実的に考えにくい。ただし、EARの対象品目の見直しが検討されており、今後の動向には注視が必要といえる。
 このように、米中貿易摩擦が工作機械業界全体に及ぼす直接的な影響は限定的と考えられる。しかしながら、米中間の貿易摩擦が今後も続けば、米国向けの輸出落ち込みのほか、製造業をはじめとした輸出企業の設備投資の下押しといった影響も考えられ、中国国内の製造業が停滞する可能性がある。中国の製造業のみならず、景気やマーケット、事業環境など様々な面で中国経済への悪影響が次第に顕在化する恐れがある。さらに、こうした悪影響は中国に留まらず、中国が含まれる製造業のサプライチェーン全体にも波及することが予想され、世界全体の製造業への下押しリスクともいえる。工作機械の受注は、製造業の景況感に左右されやすく、これらの間接的な影響は決して小さくないであろう。
 2017年の日系工作機械メーカーの受注額は内需、外需あわせ1兆6456億円となり、過去最高だった2007年の1兆5900億円を10年ぶりに上回った。特に、中国向けは3471億円と前年比213・2%と主に自動車、電機・精密機械向けの需要復調により大幅に増加した。
 国内需要も足下好調な受注が継続しているが、長期的な視点では最大需要産業(工作機械のユーザー業種は、一般機械に分類される金型等を含めると、60%超が自動車関連産業であると言われている)である自動車の国内生産台数は1990年でピークアウトしており、今後も新興国における生産が中心になることが見込まれることから、国内需要の今後の動向は不透明である。また、中国市場も2018年1月以降、EMS(電子機器受託製造サービス)関連の受注は縮小傾向にある。これは、前年度の反動に加え、米中貿易摩擦への懸念から設備投資を控えていることも考えられる。
 日系工作機械メーカーは、中国含め世界全体の製造業の景況感に大きな影響を及ぼしうる米中間の貿易摩擦の動向に注視する必要がある。

※米通商法301条は、貿易協定違反や米国政府が不公正と判断する他国の措置について、USTR(米通商代表部)は輸入制限措置などの貿易制裁を行う権限を付与されており、不公正と判断した貿易措置については、制裁措置の発動が可能である。


本紙注:企業の要請を受けUSTR(米通商代表部)は8月7日、追加関税の第2弾の原案(6月15日発表)から工作機械や鉄道コンテナなど5品目を取り除きましたが、取り除いた工作機械はあくまで木材や硬質プラスチックのスライス加工向け機械などです(8月23日に発動)。先に7月6日に発動した第1弾には一般的なNC金属工作機械を含んでいます。

みずほ銀行 産業調査部 吉田 樹矢

よしだ・たつや 2014年みずほ銀行入行。ロンドンにて非日系営業推進および産業調査業務に従事。現在、自動車・機械チームにて、主に工作機械や産業用ロボット、ファクトリーオートメーション分野の産業調査を担当。1990年生まれ。