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マーケットが変わる、次代への端境期

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直動式デジタルサーボプレス
「Zen Former」(放電精密加工研究所)と
金型H&C制御式温調システム
「GMS」(写真左)

―今号(9月10日号)の紙面特集より、ここでは「マーケットが変わる、次代への端境期」を掲載―。
 日本の製造業は今、大きな岐路を目の前にしている。過去最高を2年連続で更新する見込みの工作機械受注をはじめ足元の市況は好調だが、深刻な人手不足や部品供給難に加え、米中貿易摩擦の激化が市場の成長にブレーキをかける懸念も見えてきた。
 自動車産業に多くを依存する日本の場合、CASE(コネクティビティ、自動化、シェアリング、電動化)の潮流が工作機械需要をどう変えるのかも見逃せない。また、自動運転や5Gの本格化を前に需要が急増する半導体製造装置市場や、新型機開発ブームが到来した航空機市場、製造プロセス革新を導く3Dプリンタの開発動向も注目のポイントだ。2号連続特集前半の今号では、上記注目市場における工作機械の技術開発動向と市場の動きを追った。

CASEの潮流、工作機需要動かす

 世界各国の自動車政策が雪崩を打って「電動化」にシフトし始めた。17年には英仏をはじめ欧州各国やインド、インドネシアなど各国政府が、2025〜2040年までに「内燃機関車(ICE:ガソリン車、ディーゼル車)の新車販売を禁止する」など規制強化の流れが強まった。欧州ではディーゼルエンジン車の普及を推進していたが、VWなど一連の不正発覚を受けて方針を転換した格好だ。日本でもようやく今夏、経済産業省の諮問会議「自動車新時代戦略会議」が中間とりまとめ案の中で、「2050年までに世界で販売する全日本車(新車の乗用車)を全て電動車にする」との方針を打ち出した。
 各国政府が電動化シフトを強めた背景には、温暖化防止に向けた国際的な枠組み「パリ協定」がある。同協定では「気温上昇を2℃以下に抑え、1.5℃以下に抑える努力を追求する」との目標を定めた。IEA(国際エネルギー機関)では気温上昇2℃以下達成ケースとして、乗用車販売に占めるガソリン車の比率を2030年に約5割、2040年に35%とするシナリオ(図解参照)を示しているが、民間シンクタンクではIEAのシナリオより大規模にEVが導入されるとの見通しを示すケースもある。
 世界市場の3割を占める中国の動向も見逃せない。中国では16年に発表した製造強国入りを目指す国家戦略「中国製造2025」において、「EV(電気自動車)・PHV(プラグインハイブリッド車)・FCV(燃料電池車)を2025年に700万台、2030年に1900万台製造する」と宣言。すり合わせ工程が多くハイレベルの製造技術が必要なエンジン車で後れを取った分、大型家電のように電池やモータなど電機部品を「モジュール」で組み立てられるEVで、一気にひっくり返そうとのもくろみも透けて見える。

電動化はチャンス

 各国政府が将来の「電動化シフト」を表明したとはいえ、移行期間はエンジン車の生産が続く。電池コストや航続距離の課題に加え、国や地域によって異なる電力の需給バランス、購買力を考慮してもエンジン車が急に無くなるわけはなさそうだ。
 つまり、自動車メーカーや部品サプライヤーの設備投資は当面、従来のエンジン車に加えてEV・PHV向けの投資がプラスされる形。世間を一時期にぎわせた「EV化で工作機械需要が激減する」との懸念は杞憂に終わりそうだ。
 むしろ、CASE(コネクティビティ、自動化、シェアリング、電動化)の潮流は工作機械需要を新たなステージに動かそうとしているようにも映る。富士キメラ総研の調査によれば、車載モータや自動運転システムなど「車載電装システム」の世界市場は、2025年に16年比1.8倍の約35兆円に膨らむとみられ、電装システム向けの機械需要が増加するだろう。
 工作機械メーカー各社でも電動車向け技術開発や営業提案が進む。三菱電機では5月の自社展でEV向けの積層モーターコア用金型など、同社製ワイヤ放電加工機(MPシリーズ)で加工した先端金型部品を披露した。「ストリッパプレートではすべての高精度穴をワイヤ放電加工することで冶具研レスを実現。ピッチ誤差を±2ミクロン以下に抑えつつ、加工工数を20%以上削減できた」(同社)という。次ページから10ページまで、CASEの潮流に応える各社の加工技術提案をまとめた。

ハイテン型、仕上げ時間半減へ

 「自動車のEV化は、大きなビジネスチャンス」。牧野フライス製作所国内営業部金型プロジェクトセールス課の黒﨑一成課長は自動車の地殻変動をプラスに捉える。
 主力客先であるモールド(樹脂金型)分野では、携帯電話向けで一世風靡した立形マシニングセンタ「Vシリーズ」のユーザーがまず動いた。ここ最近、センサー関連の金型やバッテリー筐体向けのダイカスト金型など、EV関連の加工に軒並みシフトし始め、関連の投資案件が増加しているのだという。
 また、EVは電池が重い分、車体軽量化ニーズが高まる。エンジン車でも燃費低減に向け、薄肉・軽量化できるハイテン材(高張力鋼板)を車体骨格に採用するケースが増加しており、ハイテン材向けプレス金型加工のニーズが増大している。
 このハイテン型向けの「仕上げ加工時間半減」を目指す提案こそが、同社がプレス型市場に切り込むべく挑戦中の新ビジネスだ。
 昨年発売した立形5軸マシニングセンタ「V80S/V90S」は40番主軸の高速性と滑らかな同時5軸の動きが魅力。刃数が通常の倍となる4枚刃の工具を用いることで、送り速度を倍速の毎分8㍍まで上げられる。大物プレス型加工の今の主流である50番主軸の門形MCの送り速度は同2mというから理論値では4倍の速さになる。
 黒崎氏は「ハイテン材の金型は削りにくい超高硬度材。浅く切込み、高速送りで加工するのに向いている。しかも同時5軸なら、1チャックで工程集約できるのみならず、深溝部やコーナー部も精度よく仕上げられ、手磨きや放電加工の工程を最小化できる」という。
 また、「ハイテン材は成形後のスプリングバックが非常に大きく、手修正を繰り返すユーザーがまだ多いが、自動車大手は同時5軸機を活用し、モデリングで手戻りを最小化する方向」とも。今年6月の型技術者会議では実際に、マツダがマキノの50番主軸・立形同時5軸MC「D800Z」をサイドフレームアウターのプレス型加工に活用して、「工程集約と高速化で製作リードタイムを4割削減した」事例を発表。「刃先とワークの接触点の角度を10〜30度に制御して『むしれ』を抑え、自由曲面の面粗度を上げられる」など同時5軸機ならではの利点も強調していた。

樹脂+金属、車体も次世代に

 車体軽量化に向けては、鉄の8〜10倍の強度で重さが4分の1の熱可塑性CFRP(炭素繊維強化プラスチック)も注目度が高い。そのプレス加工で先を行くのが、放電精密加工研究所の直動式デジタルサーボプレス「Zen Former」だ。
 熱可塑性CFRPは樹脂を均一に流動させて加圧、成形しなければ本来持つ強度には程遠い仕上がりになりやすい。特に従来の一般的な油圧プレス機ではムラが生じてしまい、強度を出すことが難しかった。
 だが、Zen Formerは「独自の荷重制御モーションと、ガイドに依存しない直動式のスライド並行維持で、点ではなく面でのプレスを行える」(技術開発グループの稲田篤盛リーダー)。これに、金型H&C制御式温調システム「GMS」(郷製作所)と専用金型を使うことで、樹脂を含浸させながらの高精度なプレス成形を可能とした。CFRPは高価な素材だが、製造技術の向上などから、パーツあたりのコストはぐんぐん下がり採用も増えているという。
 また、割安な価格とアルミの約2倍の曲げ強度を持つCFRTP−R(リサイクル炭素繊維)や、さらに安価なGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)も見直されている。いずれも加工ノウハウが徐々に確立されてきている。郷製作所の郷純一社長は「今後は全てがCFRPではなく他の素材も組み合わせたマルチマテリアルな方向性に向かっていく。今は次世代自動車向けの開発が先行しているが、いずれ建材やインフラ向けなど、樹脂+金属の組み合わせが様々な用途で広がる」とみる。

3Dプリンタ、部品再生や軽量化に期待

 電気自動車は家電のようにユニットで構成されているため、消耗した部分をユニットごと交換できる手軽さが将来的なメリットの1つ。交換したユニット部品の再生に向け、注目されているのが3Dプリンタの活用だ。
 岡本工作機械製作所の伊藤暁技術開発本部長は、「モーター部品などの摩耗した部分を3Dプリンタで肉盛りした後、研削のみで最終仕上げまでできる加工方法を研究している」という。部品を素材から新たに製造する場合、旋盤の荒取りや仕上げ、研削の基準出し、研削加工…と5~6工程を渡り歩く必要があるが、「3Dプリンタ+研削仕上げの場合、取りしろさえ肉盛りしておけば、最小の研削で綺麗に仕上げられる」(伊藤本部長)。部品をリサイクルできるので素材のムダも最小限だ。「砥石のみで最終仕上げまでクリアするのが目標。ベンチャーを含め関連各社とタイアップを進め、開発を進められれば」(同)。
 一方、金属3Dプリンタでは切削加工機との組み合わせの研究開発が、TRAFAMを中心に進展している(12面参照)。同研究に参画する三菱重工工作機械が開発する3Dプリンタは、「造形中に金属材料の切り替えができるため、異なる金属材料の積層や既存製品の補修、大型製品の造形に向く」(同社)。
 開発例には、低コスト軽量材種の表面に耐摩耗性の高い材種を積層した自動車主軸部品などがある。将来的には積層造形で複数の素材が連続的に混ざり合う「傾斜機能材料部品」の開発も想定しており、「熱膨張差による剥離の恐れがないため、永久的に使える。ある種の材料革命を起こす可能性まであり、将来性に期待が大きい」(岩崎社長)。