PICK UP 今号の企画

町工場、価値を最大化する術は?

―今号(9月25日号)の紙面特集より、ここでは「町工場、価値を最大化する術は?」を掲載―。
 2018年版中小企業白書によると、中小企業の経常利益は5・3兆円と過去最高水準。景況感も改善傾向にあり、都市と地域間のばらつきも縮小した。
 一方で、労働生産性(従業員1人当たり付加価値額)は大企業との格差が拡大している。業種別の「時間当たり労働生産性」を大企業と中小企業を比較した結果、最も格差の大きい製造業では2倍近い差があった。
 受託加工が中心の中小製造業は景気が良いわりに、儲けが薄い。儲けが薄ければ効率化に向けた設備やITツールも導入しにくくなり、労働生産性の上げようもないだろう。深刻な人手不足、働き方改革の流れの中で人件費も上がり、状況は厳しくなる一方だ。
 町工場を訪ねてまわると、こんな声も聞こえてくる。「ちょっと前は『円高だから受注単価を値下げしてほしい』ってね。発注元の大手からそう言われたら呑まざるを得ないですよ。こっちも死活問題ですから。でも逆に、これだけ円安になって大手の利益が上がるようになっても、値上げなんかしてくれない」。
 高度でオンリーワンの加工技術を持っていても、受注単価を決めるのは大手。「ならば、技術を生かした自社製品を開発して利益もやりがいも満たしてやろうじゃないか」―そんな中小町工場の取り組みを今回の特集で取り上げたわけだが、自社のみでの開発にこだわらず、企業価値を最大化しようという町工場もある。
 「下請けの立場に甘んじるだけでは、立ち行かない。受託加工、設計デザイン、製品・サービス事業―この3つを上手く回せば、工場の価値を最大化できるはずだ」。東京都大田区の板金加工事業者、東新製作所の石原幸一社長はこう話す。
 同社が得意とするのは板金、製缶加工を使用したホッパー・バルブやダクトなどの立体的な構造物。中でも、気密性や強度が求められる立体構造物の溶接に定評がある。そうした加工技術を生かして試作のみならず、最終製品の製造と販売、アフターサービスなどまでを担当する事例が増えてきた。
 代表製品はアンモニア、ウイルス、タバコ臭などを分解できる業務用空気清浄器『eco-PACT』だ。回収した空気は全て筐体内で処理されるため屋内へのクリーンな排気が可能。設置場所に応じて、東新製作所が筐体をカスタマイズもできる。
 また、金属3Dプリンタをいち早く導入し、多摩美術大学等とデザインの限界を突き詰める活動も展開。東京都健康長寿医療センターと「嚥下障害」の介護用スプーンの試作開発にも取り組む。ゼリー状食品が落ちにくく、かつ、患者の口の中でクルリと回せるデザイン形状を、金属3Dプリンタで試作しているところだ。
 受託加工や量産に関しては、大田区内の協力工場との「仲間回し」で柔軟に対応できる。さらに、ベトナムにも提携工場(鋳物、板金・溶接、金型等)を持ち、日本と分業することで低コスト化にも対応。ベトナムに拠点があることで、アジアへの販路開拓でも頼りにされるようになってきたそうだ。
 「設計の上流から参画して、事業化まで対応できれば大手の客先にも頼りにされる。開発チームに関われば数年先の市場や求められる技術に詳しい『目利き』になれ、その知識が技術や製品の開発にまた生きる」(石原社長)。最高のサイクルを回し、町工場の価値を最大化させようとしている。

モノづくりと「デザイン」、経済産業省「デザイン経営」を推進

 今回の特集で取り上げたように、中小製造業者がそのモノづくり技術を応用させ、オリジナル商品の製造販売にトライするケースが増えている。
 系列ごとのピラミッド的「重層下請構造」が揺らぎ、崩れようとするなか、「上を向き、口を開けていれば仕事がくる時代でなくなった」(加工業者)状況がこの動きを後押ししていると指摘されるが、もっと前向きに、独立不羈の精神で「最終商品を創造する」パワーが全国に広がっていることに着目したい。
 こうした流れにフォローの風を与える政策案が今春、飛び出してきた。2018年5月23日公表の報告書「デザイン経営宣言」(経産省・特許庁「産業競争力とデザインを考える会」)がそう。
 報告書は、差別化が困難な時代の中で、いまこそ企業の競争力向上にデザインが欠かせないと訴える。先進事例を検証し、デザインに対する意識が低いとされる日本企業に啓蒙的なメッセージを送る。
 「デザインに投資するとその4倍の利益を得られる」、「デザインを重視する企業の株価は10年間で2・1倍に成長する」、「デザイン賞に登場することの多い企業の株価は市場平均の2倍成長する」等の欧米での調査結果を引用し「デザイン経営の実践には経営チームにデザイン責任者がいることが必須」と意見を続ける。
 その上で政策提言として「デザイン税制」や、デザインに対する補助制度の検討に入る旨も記した(既に中小ものづくり高度化法の補助金対象にはデザインが追加されている)。
 ここでモノづくりに話を戻すと、中小製造業者が挑む最終商品は、オリジナルデザインを重視した小ロットの商品が圧倒的に多い。
 そうした中小のなかで、「デザイン経営」を推進する国の動きと、デザイン重視でチャレンジする自社の新活動に接点を見いだし、助成制度などを有効活用し成功する製造業者が増えれば、町工場発のブランドが次々、国内外から注目と称賛を浴びる日が来るのも可能、と考えるがどうか。