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新春産業展望、2020年代のモノづくり

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ロボットでワークを置くだけで超精密研削(ナガセインテグレックス、JIMTOF2018)

―今号(1月1日号)の紙面特集より、ここでは特集、新春産業展望、2020年代のモノづくりの中から(1)働き方改革、(2)ロボット化と生産革新、(3)5G(第5世代移動通信)を掲載―。
 モノづくりの世界に変革の波が次々と押し寄せている。
 足元の景気はスローペースながらも、戦後最長の拡大局面を迎えようとしているが、一方で人手不足は益々深刻化。2019年4月にスタートする「働き方改革関連法」が残業依存にストップをかけようとする中、生産性向上が企業存続に向けた急務の課題として強く意識されるようになってきた。
 自動車業界ではCASEの潮流が「百年に一度」と言われる大構造転換を迫る。2020年に商用化がスタートする5G(第5世代移動通信)は高速・大容量・超低遅延の通信インフラを実現させ、自動運転やスマート工場の広がりを支えるだろう。
 国内景気は東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年までは堅調に推移するとの見込みが強い。しかし、その後の10年、モノづくりの世界はどう変わっていくのか。新春産業展望特集前半の今号では、いくつかのキーワードを中心に変化の潮流を探った。

(1)働き方改革、時間外労働規制がスタート

 働き方改革がいよいよ本格化する。
 2019年4月、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(働き方改革関連法)が順次施行される。少子高齢化に伴う生産年齢人口(15〜64歳)の減少、育児や介護との両立などに対応するのが目的。関心の高い「時間外労働の上限規制」は、大手企業が19年4月、中小企業が20年4月からスタートする。
 残業上限規制は月45時間(1日あたり2時間程度)・年360時間が原則。臨時的な特別の事情がある場合でも年間720時間を上限とした。労働基準法では月100時間未満(2~6カ月平均で80時間以内)の上限が規定され、違反した場合の罰則を設けている。
 長時間労働の是正に「過労死防止」の意味が込められていることは言うまでもない。月80~100時間を超える時間外労働者の労働災害認定件数が増加している現状に加え、欧州諸国に比べて「日本は働き過ぎ」との指摘もある。
 労働政策研究・研修機構の「データブック国際労働比較2017」によると、日本の年平均労働時間は1人あたり1719時間。イギリス(1674時間)、ドイツ(1371時間)より長く、週49時間以上働いている労働者の割合も高い。
 みずほ総合研究所経済調査部は、残業時間規制が経済に与える影響は大きいと見る。年720時間の上限規制に対して月60時間超の残業が一律に削減されたと仮定した場合、「雇用者全体で月あたり約2億時間(総労働時間の2・4%)が減少する見込み」(みずほ総研)。供給制約を回避するには、生産性の改善、追加的な労働力の確保でカバーする必要があると指摘している。

■残業依存から脱却
 中央大学大学院(戦略経営研究科)の佐藤博樹教授は、「長時間労働の解消のみが優先され、働き方改革の取り組みを欠いた単なる残業禁止などは、不払い残業などを増やす可能性が高い」と説く。
 重要視するのは仕事が終わらないときに安易に残業すればいいと考える「残業依存体質」の解消。佐藤教授は「時間を有限の経営資源として捉える『時間意識の高い働き方』への転換が必要」と言う。
 製造業では受発注や基幹業務システムとの連携など、事務的な業務に割かれる時間も多い。そうした事務作業の生産性向上に向けては、RPA(ロボットによる業務自動化:Robotics Process Automation)にも注目が集まる。RPAはパソコン操作をソフトウェア上のロボットで自動化するもの。これまでは人間でしかできないと思われていた、複数のシステムを経由する煩雑な事務処理作業も自動化できるのが特徴だ。
 現時点でのRPA導入は定型的なパソコン操作に限られているものの、今後はAI(人工知能)を用いて自然言語解析や画像解析なども可能になる見込み。(一社)日本RPA協会では、2025年までに事務的業務の3分の1がRPAに置き換わる可能性があると推計している。

(2)ロボット化と生産革新、10年後に労働力は3割以上減少か

 日本の生産年齢人口は1995年の8726万人をピークに減少局面に入った。国立社会保障・人口問題研究所の推計(左下図)によれば、2065年までに年平均70万人ペースで縮小が続く見通しだ。現時点でも「中小製造業、特に地方部は人手不足がかつて無いほど厳しい」(商社)と言う。大手企業の人材引き抜き競争も加速し、中小を支える中核人材が現場からどんどん失われているそうだ。
 「労働人口は10年後に平均12%減がほぼ確実。サービス産業に多くの人が流れるとすれば、製造業の生産労働人口は楽観的に見ても10年後に3割は減少する」
 日本工業大学客員教授の横田悦二郎氏(日本金型工業会学術顧問)は、18年6月に都内で開催された「型技術者会議2018」の基調講演でこんな試算を紹介した。
 横田氏は「抜本的なモノづくり改革に挑むかどうかが、製造業の企業存続を左右する」とも強調する。「国家存続の最低ラインとされる年率2%の経済成長が今後も続くとすれば、日本の経済規模は10年で2割成長。しかも労働人口は最低でも3割減の上、団塊の熟練工は完全に現場を去る。働き方改革が求められる今、残業依存には限界があるだろう。10年後は生産性を今の7割増~2倍に向上できなければ経営が成り立たなくなる」(横田氏)。
 顕在化する人手不足の対処策として、政府は18年末、外国人労働者の受け入れ拡大の方針を決定した。一定の知識・経験を要する「特定技能1号」(通算5年まで/家族帯同不可)、熟練した技能が必要な「特定技能2号」(在留期間更新可/配偶者と子の帯同可)という2種類の在留資格を設け、19年4月からの5年間で14業種34万5150人を上限に受け入れる。ただ、日本独特の「ものづくり文化」に外国人がすぐに適応できるかどうかは難しい面もあり、人手不足解消の決め手にはならないだろう。

■工作機械、競争軸シフト
 では、目下の人手不足解消に向け、そして生産性2倍が求められる10年後に向け、何から取り組めばよいのか。
 まず注目されているのが、ロボットの活用だ。産業用ロボットはかつて大手メーカーの量産ライン向けが主体だったが、ここ数年で需要構造が大きく変化している。多品種少量生産が中心の中小企業でも、工作機械へのワーク着脱や洗浄、計測などの後工程などにロボットを導入するようになってきた。
 (一社)日本ロボット工業会の見通しによると、18年の産業用ロボットの受注額は前年比16%増の1.1兆円、生産額は14%増の1兆円(会員ベース)。過去最高だった17年を上回るとみられている。ファナックの稲葉善治会長は「政府目標の2兆円は3〜5年で達成できるのでは。ロボットを活用できる分野や国・地域は益々広がっている。市場拡大の波はこの先5年、10年程度で収まるとは思えない」と見通した。
 18年11月に開催されたJIMTOF2018(日本国際工作機械見本市)でも、ロボット活用の提案がかつてないほどに目立った。オークマやブラザー工業では、多関節ロボットをビルトインし、ワーク搬送などを自動化できる新機種の加工機を出品。牧野フライス製作所では協働ロボットを搭載したAGVを披露し、人の作業をアシストするのみならず、加工スケジュール作成まで自動化できるデモで注目を集めた。
 また、AI活用についてもドリルの磨耗診断から精密な機体管理、全自動研削まで多彩な分野に広がり、熟練技の機械化(自動化)を可能にする提案が各メーカーで披露された。
 「日本の工作機械の競争軸は、ここ数年で大きく変わった」。日工会の飯村幸生会長は12月の定例会見でこう話す。
 「加工速度や剛性等の基本性能のみで競うのではなく、ユーザビリティや工程集約、自動化などに競争軸がシフトし、新興国に大きく差をつけつつある」。日本の工作機械産業が現場の生産性向上を導く要(かなめ)として存在価値を高めていることを強調していた。

(3)5G (第5世代移動通信)通信速度100倍、超低遅延

 2018年1月に東京ビッグサイトで開催された「第2回ロボデックス(ロボット開発・活用展)」。数々の産業用ロボット新機種が披露された会場で、ひときわ異彩を放っていたのが川崎重工業の遠隔操作システム「Successor(サクセサー/伝承者)」だ。
 熟練技術者の繊細な動作をAIが学習し、ロボットの自動運転で再現できるシステム。同社の橋本康彦常務(精密機械・ロボットカンパニー プレジデント)は同展の講演で「ネット環境がより安定すれば、日本にいながら世界中の工場のロボットを遠隔操縦できるようになる」と近未来の工場像についても語った。
 そうした近未来のスマート工場の必須要件、「ネット環境の安定」の実現に向けて最も期待が大きいのが、第5世代(5G)移動通信システムだと言えよう。
 5Gは2020年の商用化を目指して世界各国で取り組みが進められており、国内ではプレサービスが2019年夏にスタートする。5Gの通信速度は最大10Gbps。現行4Gの約100倍にも高速化し、2時間映画のダウンロードなら3秒で終わるほどの速さとされる。
 こうした速度のメリットから、「5G化」は一般的には高精細コンテンツ配信など個人向けのアミューズメント利用で注目が集まりやすいのだが、実は5Gの経済インパクトが桁違いに大きいとみられているのは産業分野だ。
 総務省「電波政策2020懇談会」では、日本国内の5G経済効果を約46.8兆円と試算したが、大半を占めたのは交通(21兆円)と製造業・オフィス(13.4兆円)、医療(5.5兆円)だった。
 5Gが産業向け市場創造で期待される要因は、まず「超低遅延」にある。基地局と端末間のタイムラグは、5Gでは従来の約10分の1に縮まる(最大1ミリ秒)。このため、前述のサクセサーなど産業向けロボットの遠隔操作のほか、僻地での手術ロボット活用など、リアルタイムかつ超高信頼性が求められる「ミッションクリティカル」な領域でもスムーズな通信が可能になると期待されている。
 自動車の自動運転もまた、ミッションクリティカルな分野。5Gの実用化で完全自動運転化や車車間通信が活発になれば、渋滞緩和や事故低減に期待が大きい。

■多数センサも同時接続
 5Gは「多数同時接続」も可能にする。従来の4GまではスマホやPCなどせいぜい数個だった同時接続が、5Gでは100個程度の機器やセンサを同時にネット接続できるようになる。情報通信研究機構(NICT)の実証実験では、端末約2万台の同時接続を確認したと18年3月に発表した。
 「多数同時接続」の実現は、生産現場のスマート化を加速させそうだ。
18年12月に東京ビッグサイトで開催された「SEMICON JAPAN」。THKでは同社製直動部品のIoT予兆保全サービス「OMNI edge(オムニエッジ)」について、「5Gが生産現場で実用化されれば、オムニエッジにおいてもセンサの数を増やしてより多彩なデータを収集できる」と期待を込めた。周辺機器の振動や温度環境の変化などと合わせ、直動部品が組み込まれた装置全体の診断も容易になるとみる。
 また、同展ではプリファードネットワークス(PFN)が、深層学習を活用した外観検知システムを出品。「事前の学習枚数が少なくても高精度に不良(汚れ)を検知でき、非エンジニアでも簡単に使える」と特長を説明しつつ、「5Gにより通信が高速化され遅延が解消されれば、クラウド上にAIを置いてもリアルタイムにシステムを活用できるのでは。現時点ではGPUを搭載した産業用PCが必要だが、クラウド化でサービスの大幅な低コスト化も可能になる」とみる。PFNが課題に挙げたのは「日本企業はセキュリティを不安視しすぎるあまり、クラウド活用に及び腰。海外での導入が先に進み、検査の自動化で後れを取る可能性もある」という点だった。
 世界の潮流に乗り遅れるのは厳しいが、日本企業の不安にうなずける現状もある。NICTの調査(17年)によると観測された全サイバー攻撃1504億パケットのうち、半数以上がWebカメラやルータ等のIoT機器を狙っていた。5Gが今までにない新市場を創造するには、セキュリティ確保が必須の課題と言えそうだ。