PICK UP 今号の企画

新春産業展望 ー新たな成長エンジンはどこにー

―今号(1月25日号)の紙面特集より、ここでは新春産業展望 ー新たな成長エンジンはどこにーを掲載―。
22833
 世界経済の好調を受け、産業界は2018年前半まで積極拡大路線を突き進んでいた。しかし後半から風向きは大きく転換。益々先鋭化する米中貿易摩擦に加え、欧州の政治不安、半導体メモリの在庫高…複合的なマイナス要因が、産業界の成長にブレーキをかけつつある。今年の国内主要産業はどう動くのか、そして中長期的な成長エンジンはどこにあるのか。工作機械、航空機、建設、エネルギーの4つの分野を中心に、展望を探った。

工作機械、19年の受注は1.6兆円を予測

 1月9日に開催された(一社)日本工作機械工業会の新年賀詞交歓会。メーカー各社のトップが一堂に会するこの会で、冒頭あいさつの席上、同工業会の飯村幸生会長は「2019年の受注総額は前年比12%減の1兆6000億円を見込む」と発表した。
 ちなみに2018年の受注総額は確報値で前年比10.3%増の1兆8158億円。2年連続で過去最高を更新する好調ぶりをみせた。
 だが、昨年後半から米中貿易摩擦の先鋭化が実体経済に影響を及ぼし始め、工作機械受注も10月から3カ月連続で前年割れに。飯村会長は「受注環境の潮目が変わり、軟調な部分がまだら模様で見え始めてきた」と説明する。国内外ともに受注決定までの期間が長期化する傾向。国内で具体的なプロジェクトが止まったわけではないそうだが、景気の「気」の悪化に敏感に反応しているようだ。
 飯村会長が「まだら模様」と表現する通り、メーカーや機種によって、また売り先の業種や国によって直近の受注状況は大きく異なる。航空機向けの大型マシニングセンタ(MC)を主力とする三井精機工業では、「大型機の受注ピークは遅れてくるので、当社の場合は今がピーク。米国の航空機関連で更新需要がひきもきらない。新機種のねじ研削盤もガイドメーカー向けに大量発注を頂いている」(奥田哲司社長)。
 一方で、スマホ部品の金型や半導体関連などは不調が目立つ。微細加工機を主力とする碌々産業の海藤満社長は「中国向け受注はかなり厳しい。ただ、受注残も相当数抱えており、工場は繁忙が続いている。今年の調整局面は生産に集中し、次の受注拡大期に備えたい」と話していた。
 一部には「国内工作機械メーカーの生産キャパは最大で年間1・5兆円ではないか」との声も聞かれる。あまりに高水準すぎる受注はさらなる長納期化を導くばかり。「調整局面」も悪いばかりではなさそうだ。

■自動化・効率化 に焦点
 前年より落ちるとは言え、19年の予想受注額1.6兆円は過去3番目の高水準だ。飯村会長は「忖度(そんたく)なしで弾いた数字。業界内外への影響度は加味していない。そもそも引き合い自体は強く、ユーザーの投資意欲が落ちたわけではない」と強調する。加えて「工作機械受注はある程度の周期的な動きがある。今は下降局面にあるとはいえ、受注全体のバイアスが過去数年間と比べて確実に上がっている」とし、以下、予測の根拠を詳しく説いた。
 おおむね堅調を見込む日米欧3極の合計では月間1000億円、年間にして約1・2兆円前後を予測する。「内外需ともに自動化・高効率化ニーズは強く、減速している半導体市場もメモリの在庫調整を経て今年後半から動くだろう」(飯村会長)。
 他方、19年の受注が前年から約2000億円落ちると想定した主な要因は、中国市場の減速だ。中国向け受注は18年12月まで6カ月間連続で前年を割り込んだ。飯村会長は今年の中国向け受注額については「月間120~130億円程度」と弾いた。
 中国向けは18年の平均(約240億円)を100億円以上も下回る見込みで、前回の底だった16年とほぼ同等。「月ごとに多少のアップダウンはあるだろうが、スマホ向けなどの特需が無くても、中国は更新需要だけでこのレベルを見込めるのでは。また、中国はGDPの過度な落ち込みが政治問題となる国。旧正月明けに政府の景気刺激策が発表されるなどの期待も多少ある」(同)。
 メーカー各社のトップも、今年の受注額1.6兆円を「ほぼ妥当な数字」と見る向きが強かった。一方で、工作機械関連業界の専門誌を発行するニュースダイジェスト社が今年の賀詞交歓会で発表した今年の受注見通しは1.5兆円。これについて牧野フライス製作所の井上真一社長は「例年、同社は日工会より低め、やや厳しめの予測を出す傾向にあるが意外に高かった。環境はそれほど悪くないということだろう」と話し、悪化が危惧される中国市場についても「堅調さを維持したい」と意気込んだ。
 また、日工会の受注額は、他産業の受注額の先行指標として語られる向きも強い。しかし今年は日工会と連動しない予測もいくつか見受けられた(表参照)。
 中国向けの比率が違うことや回復の速さの違いもあるだろうが、好調を見込む根底にあるのは生産効率化、自動化ニーズの高さだ。人手不足の深刻化を受け、生産性向上に向けた投資ニーズは底堅く、中長期でみれば持続成長が期待できそうだ。

航空機、潤沢な受注で残加速する機体増産

 航空機市場が活況だ。エアバス、ボーイングともに、2018年の民間航空機納入数が800機に達し、過去最高を記録した。受注残は依然として潤沢で、ボーイングが抱える5873機は「7年分の生産機数に匹敵する」そうだ。
 両社は生産量の引き上げを図っているところ。ボーイングは18年納入数の7割を占める「737型機」を月産52機に拡大。同型機のなかでも、低燃費で長距離運行が可能な737MAXファミリーが人気という。エアバスでも納入数が最も多い「A320ファミリー」を増産中。19年半ばの目標である月産60機達成に向けて「順調に進んでいる」という。
 受注が好調な背景には旅客輸送量の増加がある。(一財)日本航空機開発協会によると、世界の航空旅客輸送量は17年で約7.7兆億人km。1997年比で2.7倍伸びた。ここからさらに年率4.5%伸び、37年には17年比2.4倍の約18.6兆億人kmに達するとしている。
 ボーイングは旅客輸送量増加と新型機への代替を背景に、今後20年間で新造機需要4万2730機を見込んでいる。なかでも同社が「最も力強い伸びを示す」として期待するのは単通路機市場。LCC(ローコストキャリア)、中国・東南アジア市場の需要増加を受けて、新造機需要の7割にあたる3万1360機と予測している。
 堅調に伸びる一方、日本市場の構造が変化しつつある。エンジン部品の増産だ。18年度は前年度比18・2%増の5595億円に達する見通し。航空機生産額が最も高かった15年度の実績と比べてみると、大きく成長していることが分かる。
 エンジン部品の増産は、低燃費に定評があるプラット・アンド・ホイットニーの「1100G」、CFMインターナショナルの「LEAP」関係の仕事が増えているためだ。エアロ・サプライチェーン・コーディネーティングの川合勝義代表は「エンジンに目を向けるべき」として、工作機械の複合機導入をすすめる。
 「ブリスクのようなエンジン部品の加工は、ワンチャッキングで削れる高剛性の複合機が有効だ。これから増えるのはインコネルのような耐熱合金の加工。一方でアルミを大量に早く削るサプライヤーは将来的に行き場がなくなる可能性がある。いずれにしても『ティア1』と呼ばれる国内外の川上企業はサプライヤーの情報を求めている。既存設備や固有の技術を積極的に公開してほしい」
 日本の航空機市場は次のステージに向かいだしている。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が18年12月に発表した「航空機電動化 将来ビジョン」の想定開発目標は、技術リスクが比較的低い細胴以下のサイズから電動化を開始すること。40年代には全サイズに適用し、電動化による新しいエネルギートレンドへ移行する考えだ。
 経済産業省は1月15日、ボーイングとの間で航空機の技術協力を合意した。今後、電気推進に必要な電動化、複合材製造、自動化などに関する技術について協力し合うことになっている。

建設、大型PJ 超高層物件で需要支える

 来年に控える東京五輪、鉄骨需要10万トン規模の物件が点在する首都圏大型再開発プロジェクトなど、話題に事欠かない建設業界。2018年度の鉄骨需要量は前年度とほぼ同じ年間520万トンに達する見込み。建設業の市場規模は名目建設投資額で55〜56兆円で推移しそうだ。
 中小案件の中でも、外国人観光客の増加に伴う飲食・商業・宿泊施設の建設を各地で予定していることから、19年度も全国規模で高いレベルの需要が期待できる。好材料はほかにもある。Eコマース市場の拡大による物流倉庫の増加、高度経済成長期に建設したオフィスビルの建て替えなどがそう。超高層マンションの建設も活発になっている。
 不動産経済研究所の試算によれば、全国で建設・計画されている20階建て以上の超高層マンションで18年以降に完成を予定しているのは294棟10万8557戸。首都圏と近畿圏に集中しているという。
 超高層マンションが増加したのは、中古物件として値崩れが起きにくく、換金性に優れているため。同研究所は「人気ぶりが大都市圏から地方中核都市にまで波及したことが要因で、規制緩和による駅前再開発の進捗が大きく影響していた」とみる。
 建設資材の動きにも目を向けたい。建設物価調査会が1月に発表した価格動向によると、ビルの鉄骨に使用するH形鋼(鋼材)は「市中在庫の減少は小幅で商状は落ち着いている。流通筋の採算確保に向けた値上げ姿勢で市場では先高観が強い」状況だ。
 主要電炉メーカーは副資材費の高止まりと大型物件需要が好調であることを背景に、販売価格を据え置き。「メーカーの販売姿勢が強固であることを映し、流通筋の売り腰に緩む気配はみられない」という。
 需要が高まるにつれて、建設資材の価格高騰や品不足、人材難、工期・工程の遅れが浮き彫りになっている。中でも工程の上流にあたる図面承認の遅れは、鉄骨・鋼材を加工するファブリケーターにとって悩みの種。特にRC造(鉄筋コンクリート構造)の設計変更は、加工案件の多くを占める中小物件にも大きな影響を与える。さらに、コラムや高力ボルトなどの資材不足も表面化している。
 こういった状況を受けてファブリケーターの業界団体である(一社)全国鐵構工業協会の米森昭夫会長は、年頭所感で需要増加への的確な対応を呼びかけた。
 「高い需要が継続しているが、図面承認の遅れ、鋼材・副資材の不足などによる機会ロスが原因で混乱が生じている。(会員が)保有している能力を最大限、効果的に活用するための施策や秩序ある行動が求められている」として、業界の団結力の重要性を訴えた。
 東京五輪が終わった20年以降も明るい材料はある。首都圏の大型再開発では、渋谷駅周辺のモデルプロジェクト(敷地面積1万5300平方m)、東京駅前の常盤橋プロジェクト(3万1000平方m)が27年に完成する予定。超高層マンションは22年以降に首都圏だけでも3万9688戸(不動産経済研究所の試算)竣工する計画だ。
 一方の大阪は国際博覧会(万博)開催を追い風に、統合型リゾートの誘致に向けて動き出している。交通インフラでは27年にリニア中央新幹線の開通を予定しており、さらなる建設需要の増加が期待できそうだ。

エネルギー、「ブラックアウト」避け自給一体型へ

 温室効果ガスの排出量が従来と違う動きを見せている。日本の2017年度の排出量は12億9400万トン(CO2換算、速報値)と前年度から1.0%減った。減少は4年連続。太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーの導入が拡大しているためだ。世界のエネルギー起源のCO2排出量も同じような動きを示している。15、16年と減る一方で、その間も毎年3%程度の経済成長を続けた。
 「歴史的に見て1970年代以降、CO2排出量が減少するのは経済の停滞がある時に限られていた。ところが福島の原発事故の後、再エネと省エネの取り組みにより従来トレンドを変える事態が起こっている」
 東京大学国際高等研究所の高村ゆかり教授は昨秋、都内で開かれたシンポジウムでそう指摘した。世界の発電電力量に占める原子力の比率は下がり続け、2017年には10%まで低下。一方で再エネの比率はその2倍以上の24%に達している。
 RE100に参加する企業が増えている。RE100は自社で使う全電力を再エネで賄おうとする国際的な企業連合。世界では米アップルや独BMW、スウェーデン発祥のイケアなど約150社が加盟する。国内の参加の動きは鈍いが、ソニーや富士通、大和ハウス工業など10社超が加わった。

■「自営線」で賄う
 欧州に比べ価格の高さが指摘される国内の再エネだが、変化の兆しが見られる。17年11月に始まった再エネの入札制度(執行機関・低炭素投資促進機構)では、昨年12月の3回目の入札で、太陽光発電の入札容量が初めて募集容量を超えた。
 (一社)太陽光発電協会の平野敦彦代表理事は「昨年は猛暑の中、節電要請がなかったのは太陽光がエネルギーの中で重要な役割を果たしたからだと実感している。台風・水害・地震など自然災害の多い年だったが、太陽光発電が分散型エネルギーとして大きな貢献ができた」と年初に開いた賀詞交歓会で話した。今年はFITから自立した、自給一体型ビジネスモデルを作っていくと意気込む。
 環境省も「自給」を急ぐ。大手電力会社の送電網から自立した送電線「自営線」を引き、再エネで地域の電力を賄う実証事業を始めるという(19年度政府予算案に60億円を計上)。100〜200世帯の地域で太陽光や風力などの導入を進め、個人所有の電気自動車(EV)を蓄電池として活用できるかどうかを探る。

■脱ブラックアウト
 ただ、再エネの普及に伴いマイナス面も見られるようになった。再エネの受け入れを一時制限する「出力抑制」を九州電力は1月3日(午前9時から午後4時)にも実施した。正月休みのオフィスや工場が多い一方、太陽光の発電量が伸びたからだ。出力抑制は昨年10月以来、計9回となった。送電網を使う電気が減ることを見込む関西電力は、19〜21年度に少なくとも500人の人員削減を検討している。送電網を流れる電気量の需要は17年度の約1400億キロワット時から30年度には1200億キロワット時まで下がる可能性があるとし、定年退職者を新たな採用で補わない「自然減」で対応する考え。
 出力抑制を行うのは、電気が余りすぎて需給バランスが崩れることで起こるブラックアウト(大規模停電)を防ぐためだ。環境省が始める実証事業ではEVの活用などで自立分散型のネットワークを創設し、ブラックアウトを避ける狙いもある。
 EVの中核となる蓄電池はコスト高が課題とされる。中韓の電池メーカーが勢いを増しているが、トヨタ自動車とパナソニックは1月22日、EV用電池の開発と製造を担う新会社を20年末までに共同で出資すると発表。新会社の従業員数は約3500人に上るという。電池はトヨタ以外の自動車メーカーにも販売するため、EVの価格低下と普及が加速しそうだ。