識者の目

ミャンマー特集その2:「ミャンマー自動車産業について」

 1月25日号に続き、JICAプロジェクト報告をする。今回はミャンマー工業省の裾野産業育成と自動車産業施策について紹介したい。
 ヤンゴンから首都ネーピードーに行き、工業省を訪問した。工業省ではKhin Maung Cho 工業大臣に会い、自動車産業のプレゼンと意見交換を行った。工業大臣には、5年前に彼がSuper Seven Star Motor IndustryのDirectorであった時にお世話をしたことがあって歓迎された。また、自動車産業施策作成を行っている工業省の第一国営公社(No.1 Heavy Industrial Enterprise)のスタッフにも自動車産業のプレゼンと意見交換を行った。工業省では、新しい国家自動車政策を作成したところであるが、議会承認等の手続きが必要で、まだ公開できない。短期、中期、長期の目標とそのためのロードマップを作成している。
 ミャンマーの自動車産業と日系自動車メーカーとの関係には紆余曲折があった。1962年工業省傘下にMyanmar Automobile and Diesel Industries(MADI) 設立、日野自動車や東洋工業(マツダ)からの技術供与による生産を始めたが、88年に軍事政権になり中止。軍事政権下の98年、スズキはMADIとの合弁でMyanmar Suzuki Motorを立ち上げたが、外貨不足で部品輸入ができず2010年に終了。11年からの民政下、国民の廉価な車の要求に中古車輸入規制を緩和、街には日本の中古車が溢れるようになった。その中で、13年にスズキは外国企業として初めて独資でピックアップトラック製造を開始したが、やはり苦戦する結果となった。
 ミャンマーでは自国の自動車産業振興策として、中古車輸入緩和による国民からの支持拡大を選択するのか、逆に中古車輸入を規制し、外資の自動車メーカーを呼び込んで国内の工業化を図るのか、どちらに舵を取るかが課題になっていた。また18年のAECでの域内関税撤廃で、ミャンマーがASEAN内での単なる市場になるのか、サプライチェーンの一環になれるのかも問われていた。政府の新しい政策では、まず中古車輸入規制を強化し、外資のノックダウン生産を奨励、かつ部品の現地調達を促進することに舵をきったようである。現在、現地生産車に課せられる税金や登録料は、輸入車に比べ大幅に低く設定されている。スズキの新車販売の好調は、これらの施策が追い風となっている。
 なお、国家自動車政策策定をリードした工業省の第一国営公社は、11年に上記MADIが再編されたもので、傘下に自動車製造工場を有し、外資自動車メーカーや部品メーカーがそれら国営工場と提携することを期待している。最近では、ハンガリー政府と協同で、工業省傘下の工場設備を利用してEVバスを生産する計画を発表している。しかし、筆者の日系企業へのお薦めはティラワSEZへの進出である。
 ASEANにおける自動車産業について、タイ、インドネシアの地位は揺るがないが、次の注目国はベトナムとミャンマーと考えている。個人的見解であるが、ベトナムのビングループによる国民車構想にはリスクを感じる。筆者のミャンマー工業省へのプレゼンでは、日系自動車メーカーとそのTier 1、2の呼び込みに注力すること、国民車構想を持たないこと、EV開発に力を入れないことを強調した。スズキが中国から撤退し、インドとミャンマーに注力する戦略を評価しており、もしトヨタが生産拠点を展開するようになれば、ミャンマーはASEANで次のタイ、インドネシアになれると期待している。
 現在ティラワSEZには、フォスター電気が進出。他の工業団地であるが、アスモ(デンソー)もミャンマーに進出。さらに、豊田通商がローカル企業のUMH社とエアバッグの縫製を行い、タイの豊田合成向けに輸出している。また、ワイヤーハーネスなどは労働集約型としてミャンマー生産向きで、日本からの投資を期待している。ローカルのプラスチック産業が自動車部品の裾野産業として成長するには、タイの日系金型メーカーと提携し、精密成形技術力を育成することを薦めている。
 ひとえに政府の施策いかんで、今後の成長は決定される。筆者としては、ミャンマーの新しい自動車産業施策に注目するとともに、その成功のために協力していきたいと思っている。

オフィスまえかわ 代表・工学博士 前川 佳徳

同志社大学大学院工学研究科および神学研究科修了。工学博士、神学修士。大阪府立産業技術総合研究所研究員、大阪産業大学デザイン工学部教授を経て、現在オフィス・まえかわ(ものづくり企業支援)代表。製造業のアジア展開支援を行っている。タイAlliance for Supporting Industries Association 顧問、日本・インドネシア経済協力事業協会顧問など。型技術協会元会長、現名誉会員。