オヤジの喜怒哀愁

2019年3月10日号

淡き春の記憶

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 卒業、入学シーズンを迎えている。長~い夏休み、クリスマス、正月と盛りだくさんの冬休み、これに対して春休みというのはやはり年度替わりで新たなステージへと切り替わる微妙な雰囲気を持っている。
 中学と高校の間の春休みに女の子を初めて映画に誘ったのを覚えている。こんなオヤジにもビージーズの「メロディ・フェア」がBGMに流れるような淡い思い出のひとつやふたつはあるもんだ。
 その子は同じクラスの子で取り立てて美人というわけではなかったが、小柄で、セーラー服のよく似合う子だった。同じ高校への進学が決まっていたのだが、高校は6クラスあったのでまた同じクラスになる確率は6分の1である。違うクラスになれば話をする機会も減るだろう。そんな悶々とした日々に終止符を打つべく、彼女を映画に誘おうと決心した。
 しかし、女の子をデートに誘うのは生まれて初めてだった。無論、携帯などない時代。家の電話を使うのがはばかられ駅まで歩き、誘拐犯が身代金の要求をするときのような勇気を振り絞って公衆電話ボックスから電話をした。お母さんだか、お姉さんだかが出て電話を取り次いでくれた。その後は意外とスムーズで、彼女はOKし、数日後、春休みのとある日にふたりで映画を観に行った。

パーラーの窓際の席
 「ビートルズがやって来る ヤア!ヤア!ヤア!」という映画だった。ところが、映画がひどく退屈なうえ、春休みのせいか再上映なのに館内は超満員の立ち見だった。30分ぐらいは観ていたろうか。ほどなく彼女を誘って外に出た。
 少し歩いてパーラーの窓際の明るい席に向かい合って座った。ポツリ、ポツリ何かを話したけれど、会話は思うように弾まない。そのうちに、彼女は窓際に置いてある観葉植物の葉っぱを細かくちぎり始めた。帰るころには落ちた葉っぱが床で小山になった。店員がチラチラこちらを見ていたが、彼女は一向に気にするふうもなかったのをなぜかよく覚えている。
 こうして15の春、初恋、初デートはメロディ・フェアのように成就することなく惨敗に終わったのだった。淡き春の遠い記憶である。