PICK UP 今号の企画

特集:工作機械、高水準の調整局面へ

次の山頂へ向け、差別化戦略着々と

―今号(3月10日号)の紙面特集より、ここでは特集:工作機械、高水準の調整局面へを掲載―。
23163
 約1年半続いた爆発的な拡大局面が過ぎ、需要後退期に入った工作機械産業。しかし、山と谷を繰り返す受注サイクルのレベルは数年前に比べて明らかに上がった。(一社)日本工作機械工業会が年初に示した2019年の受注予想額は1兆6000億円。前年比でみれば12%の減少だが、史上3番目の高水準だ。米中貿易摩擦や中国経済の減速を受け、昨年後半から弱含みの受注が続く傾向にあるが、そうした調整局面の中で工作機械メーカー各社は、虎視眈々と次の山頂、2兆円の大台を目指して競争力に磨きをかけている。特集ではメーカートップのリレーインタビューを軸としつつ、差別化技術・サービスの最新動向に迫った。

世界市場は9兆円超に

 家電製品や自動車、スマートフォンなど世にある最終消費財を造りだす機械や部品を生み出すための機械―という意味合いから「マザーマシン」と呼ばれる工作機械。その需要先の大半は20世紀においては先進国が中心で、世界市場は2兆円〜4兆円の狭い範囲内で増減を続けていた。
 しかし21世紀に入る前後から、環境は大きく変化した。中国を中心とした新興国が世界経済の輪の中に加わり、その急速な経済発展に伴ってスマートフォン、自動車などの高価な最終消費財の市場が爆発的に伸びると、「マザーマシン」である工作機械の世界市場も急拡大したわけだ。
 オックスフォードエコノミクスが昨年10月に発表した調査レポート「世界工作機械展望」(表参照)によると、2017年の世界の工作機械需要(消費額)は778億米ドル(約8.6兆円、1ドル111円で換算)。18年は前年比8.5%増の844億ドル(約9.4兆円)に膨らむと推計されている。
 しかし、18年6月頃から米中貿易摩擦が世界経済の成長に大きな影を落とし始め、工作機械需要の伸びにも若干、ブレーキがかかり始めている。お互いの輸出品に高関税をかけあう米中貿易摩擦がハイテク覇権争いにまで広がって益々先鋭化するにつれ、工作機械の最大市場である中国の景気が減速。設備投資に様子見感が漂い始めた。

3%前後の小幅成長続く

 「世界工作機械展望」によると、19年の世界の工作機械需要の増加率は3.6%と前年から大きく落ちる見通し。20年〜22年までも各年3%前後と小幅な成長が続くと推計した。
 2019年の成長率の予測値を地域・国別にさらに詳しく見ると、欧州が4.7%増、アジアが3.3%増、南北アメリカが3%増の見込み。中国については減税効果の剥落や過剰投資に対する金融引き締め、米中貿易摩擦の影響などから3・3%増と18年(7%増)の勢いを下回ると推計している。
 「ヨーロッパではハンガリーやチェコなど東欧で大きく伸びる見込みが強い」。ドイツ工作機械工業会(VDW)のクリストフ・ミラー氏は都内で開催されたEMOハノーバー記者会見で、世界工作機械展望の内容について、こうコメントした。「アジア、米国、ヨーロッパのGDP成長率はまだまだ力強く、企業は戦略課題に注力して将来のための投資を決断する時期にある」という。

スマイルカーブの右側へ、セルを拡張し製造サービス化を

 最大市場の中国をはじめ、インドやASEAN諸国は先進国に比べて所得水準が低く、最終製品の潜在需要は大きい。経済成長に伴って購買力が上がれば、工作機械需要拡大への期待も大きいが、反面、欧州メーカー、台湾・中国・インドなど新興国メーカーとの競争も激しくなる。
 このあたり、日本の工作機械がどうやってプレゼンスを高めていくべきか。(一社)日本工作機械工業会の飯村幸生会長は「新興国に比べた製品単体の技術優位性はまだまだ上だが、問題はこの先。例えば従来のように『切削速度が10%速くなった』など単純な技術的優位が、ユーザーにとって購買意欲を湧かせるものではなくなるかもしれない」と話す。
 沿岸部を中心に賃金高騰が続く中国やアジア新興国では、生産性向上ニーズも非常に強い。飯村会長は、「新興国と比べて高価な日本製が選ばれるには、機械を納入して『あとは自分で加工を考えて』ではなく、ユーザーの製造する製品の品質、コスト、生産性を保証できるビジネスに代わらなければならない」と説いた。
 具体的には、工作機械をコアとしたセルでの受注―例えばロボット化による前後工程の省力化・無人化やターンキーソリューション、IoT・AI活用などノウハウを含めた「製造サービス」としてのビジネスの範囲をいかに広げられるかが、今後の工作機械メーカーの競争力を左右すると、飯村会長は見る。
ちなみに、開発から部品製造・組立、アフターサービスとつながる製品バリューチェーンの付加価値・利益率を表す言葉に「スマイルカーブ」というものがある。工作機械産業は旧来、ニッコリスマイルのカーブの真ん中で底、最も付加価値の低い部品製造・組立の部分でビジネスをしてきた。だが、技術力やコスト競争力で追い上げる新興国との差別化を図って利益率を確保するには、工作機械産業もスマイルカーブの右側、より付加価値の高い「製造サービス」の方向へとビジネスの軸をずらすべき時代が訪れているといえる。

中国向けはいつ底打ち?

 日本の工作機械産業は好況の恩恵を追い風にしてここ2年間で大きく成長した。(一社)日本工作機械工業会の会員企業の2018年の受注額は前年比10.3%増の1兆8158億円。過去最高を更新した17年をさらに上回った。
 だが2019年は世界市場と同様、米中貿易摩擦や中国経済の減速を受けて足踏みを余儀なくされるとの見込みが強い。年初の賀詞交歓会で(一社)日本工作機械工業会の飯村幸生会長が発表した19年の受注予測額は前年比12%減の1兆6000億円だった。
 前年割れとは言え、統計史上では過去3番目の高水準。単純計算して12カ月で割ると月に約1333億円の受注が必要となるが、足元の受注は弱含みの状況が続いている。今年1月の受注額は前年同月比19%減の1254億円と、1333億円には届かなかった。
 最も前年比で落ち込みが大きい中国向け受注は同52%減の166億円。昨年11月(136億円)から徐々に上がってきたものの、前年割れの状況が11カ月続いている。
 この中国向けが、「いつ底を打って完全に上を向くのか」は業界の最大の関心事だろう。
 「年末あたりですでに底を打っている」(オークマの花木社長)、「何もかもの引き合いが止まるような状況ではなくなった」(2月上旬、DMG森精機の森社長)など、売り先の業種や資本体系によって「底打ち」の見方には幅があるようだ。
 飯村会長は「当社(東芝機械)の場合でもUVMシリーズなどレンズ金型向けの超精密5軸加工機は中国向けがかなり伸びている」と話しながらも、「中国向けは射出成形機など他の産業機械の引き合いも弱く、底を打って上を向くほどの勢いはまだ見えない。約20兆円の大型減税など、中国政府による景気刺激策の効果が表れるのは4月以降ではないか」との推察も示した。
 また、研削盤に加えてポリッシャーなどの半導体製造装置も事業の柱とする岡本工作機械製作所では、「中国向け受注は、研削盤では前年比でここ数カ月ざっくり4割は落ちているが、半導体製造装置は落ちていない。ハイテク産業を振興する『中国製造2025』の流れは貿易摩擦の中でも止まらず、その中核たる半導体産業への投資はこれからも続いていく」とみる。(一社)半導体製造装置協会や(一社)日本ロボット工業会でも、今年秋以降から来年年初にかけて中国向け受注が回復するとの見込みが強い。このあたり、米中貿易摩擦の動向を踏まえつつ先行きを注視していく必要がありそうだ。

EV化 工作機械への影響を調査

 自動車のEV化は、果たして工作機械需要にどんな影響を与えるのか。(一社)日本工作機械工業会では国際委員会の中に「EV化調査研究会」(座長:慶応義塾大学理工学部の青山英樹教授)を設置し、調査内容を昨年、「自動車の電動化における工作機械産業への影響と変化に関する調査報告書」としてとりまとめた。
 国際委員会では今年2月に報告会が開催された。国際委員会の石井常路委員長(岡本工作機械社長)は報告内容の大枠について、「世界全体の自動車生産台数は2040年時点で1億2500万台と17年時点の約1・7倍に達する見込みだが、そのうちハイブリッド(HV)とプラグインハイブリッド(PHV)を含めた内燃機関(エンジン)搭載車が約84%。内燃機関搭載車は17年比で2400万台生産台数が増え、工作機械需要そのものが現在より薄まることはない」と話した。
 一方で、電動車(完全EV、PHV)の比率も40年時点で約35%と伸びる。これに伴って、報告書では工作機械需要の内容が変化する点が強調されていた。例えば、「従来のような専用機主体の生産ライン構成から、多軸機を加え生産効率の向上を優先させる設備機械の事例が高まる可能性が高い」と記す。 自動車メーカーが求めるのは多軸・複合化による省スペース化。工場を拡張せず、従来のラインを維持しながら、モーターやバッテリーの生産ラインを加えるほうがコストメリットが大きいと考えるためだ。自動車メーカー側の要望としては、欧州製のような多軸機能を備えたトランスファーマシン、一台の機械でドリリングや研磨をこなし、段取り替えを行いながら加工するような複合機で高効率化を求める向きが強いという。 報告書ではまた、完全電動化で不要となる部品・新たに必要になる部品もまとめた。新規に必要になる部品はバッテリー、モーター、ハーネスなどのほか、軽量化部品(カーボン材の内外装パネルや部品、ホットプレス加工部品など)などがあった。新規に必要になる部品については完全EVのみならず、新エネ車(EV、FCV、PHV)にも使われる部品であり、今後の伸びが期待されている。
 中でもモーターコアの製造には高いレベルの精密な順送金型が必要となる。このあたり、ハイエンドの研削盤市場では需要が顕在化しており、「モーターコア向け金型の加工ニーズを受け、門型の大型研削盤の受注が伸びている」(岡本工作機械)という。変速機関連の歯車加工の要求精度もEV化で高まる様子。EVはエンジン音がしないため、モーターにも静粛性が求められるためだ。
 報告書によると、従来の設備機械を使った自動車生産の分岐点は2025年あたり。「電動化によって使われない部品の生産設備を中心とする工作機械メーカーは、その時に備えて機械バリエーションを増やすなどの対策が必要」とした。

工作機械周りにロボット、生産性向上導くセル拡張

 昨年11月のJIMTOFで、最も目立った提案と言えばロボットの活用だろう。国内では人手不足が深刻化し、中国を中心とするアジア市場では人件費高騰が益々激しくなる流れの中で、ロボットを活用した無人化・省人化のニーズはかつてないほど高まっている。工作機械メーカーでは、ロボットをコアに据えた製造「セル」の範囲を徐々に広げ、生産性向上をサポートしようとしている。
 DMG森精機の自動化システムは、ライン丸ごとのフルターンキーから、専門知識不要で自由にレイアウトできるロボットシステム「MATRIS」、中小向けのデンソー製薄型4軸アームと組み合わせた部品搬送パッケージまでラインアップが幅広い。森雅彦社長は2月の決算会見で「自動化システムの受注比率は19年に30%にまで伸びる見込み。ATC(オートツールチェンジャー)と同じように当たり前の装置になり、30年には80%にまで伸びる」と強調していた。
 牧野フライス製作所はJIMTOFで、AGVに協働ロボットを載せたモバイルロボット「i―Assist(アイアシスト)」のデモをみせた。実はこのアイアシスト、同社の厚木事業所(神奈川県厚木市)で既に実働中。昨年11月、主軸本体付属部品を生産するラインにはオペレータと加工機の間を、アイアシストがスルスルと動き回って部品を配膳する姿があった。
 S.I.T.本部の土屋雄一郎本部長は、「次段階では旋盤へのワーク脱着や工具交換も自動化し、複数台のモバイルロボットを使って完全無人化したい」と言う。さらに組み立て工程でもモバイルロボットで人の作業をサポートする構想も。饗場達明常務は「ERP(基幹情報システム)と連携し、納期や需要変動に合わせてモバイルロボで『増員』できれば1品生産に近い多品種のラインでもボトルネックが解消できる。マスカスタマイゼーションを、工程間をまたいだ完全自動スケジューラーとモバイルロボ活用で実現し、近い将来はユーザーにもご提案したい」と将来構想を説明した。

■ティーチングレスで簡単に
 JIMTOFのオークマブースでは新発表のロボットパッケージに人だかりができていた。マシニングセンタの横に付き、機械操作と同じ感覚でロボット操作できる「STANDROID」(安川電機製5軸アームを使用)と、旋盤内部のアームが加工をサポートし単体機と同じように扱える「ARMROID」(自社開発4軸アーム)がそれ。両システムとも工作機械の感覚でNC画面からロボットを操作できるのがポイントだ。ティーチング不要で、機内でぶつからない経路を自動生成する。ロボット初心者でも使いやすい。
 ブラザー工業も30番のマシニングセンタSPEEDIOに「ローディングシステム」と呼ぶ自社開発の4軸アーム(7kg可搬)をオプションで用意した。今のところ「S300X2」「S500X2」の2つのMCのみに付けられるが、星真執行役員は「当社のすべての機械に付けられるよう今後、ロボットのバリエーションを増やしていく」と言う。
 ロボットを段階的に導入しやすい提案もあった。OKKがJIMTOFで披露したロボットシステムの特徴は、既設の工作機械と連動しやすくしたこと。ロボットはワークの着脱のみならず、工作機械のドアの開け閉め、NC装置のスタートスイッチも押してくれる。
 自動搬送台車と組み合わせることで、さらなる無人化と長時間稼動も可能。立体型の多連APC(オートパレットチェンジャー)、機械の横で外段取りができる手動パレット交換システムといった、自動化・省力化メニューの一つとして、本社での実機展示を計画中だ。宮島義嗣社長は、「コストやリスクを検討し、少しずつ次のステップに踏み込んでいく。そんな継続的な取り組みをサポートしたい」と話す。