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タイ東北地方、ASEAN諸国との連結性とインフラ整備の現況

―今号(5月15日号)の紙面特集より、ここでは使いやすいパワーツールの条件を掲載―。
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バンコク〜ナコンラチャシマ間で建設が進む高速道路

 タイでも最も「貧しい地域」と言われているのが、約20県で構成される東北部。その面積・人口ともにタイ全土の3分の1のボリュームを抱えているにもかかわらず、国内総生産の割合は約10%にとどまっている。これは東北部における就業人口の過半数が、農業をはじめとする第一次産業に従事しており、農業中心の経済構造であるからだ。
 タイ経済の構造について、国家経済社会開発庁(NESDB)が公表している2015年の資料によると、バンコク周辺部が1人当たりGRP(域内総生産)が約41万バーツであるのに対し、東北部は約7万バーツと約6倍の隔たりがある。この経済格差はさらに拡大傾向にあり、バンコク周辺部のGRPが2012年以降上昇しているのに対し、東北部は横ばい、もしくは低下している。
 タイでしばしば起こる政治的混乱は、この地方と都市部における格差が引き金になっているケースが大半。3月に行われた総選挙の結果を受け、先頃続投が決まったプラユット政権も公約のひとつとして、地方と都市部の格差是正を挙げている。
 東北地方の経済発展を推し進めるためにも、もっとも重要視されているのがインフラ網の整備だ。バンコク周辺を中心に構築された強固なサプライチェーンに食い込むためには、物流面での時間短縮やコストダウンが必須。
 現在、タイ東北地方のインフラ改善に向けて高速道路や高速鉄道の建設が急がれている。バンコクと東北部の玄関口・ナコンラチャシマ県約250キロを結ぶ高速道路は、3月時点で「6割が完成しており、2020年半ばには開通する予定」(タイ運輸省)という。この開通にともない、バンコクからのアクセスは現状の4時間前後から、2時間半前後に改善される見込みだ。またバンコク-ナコンラチャシマ間を結ぶ高速鉄道は、従来計画では2019年の開通を目指していたが、完工は2021年になる見込み。
 ナコンラチャシマからさらに200キロの距離、バンコクから450キロに位置するコーンケン県でも、インフラの改善を求める声が高い。同県政府や商工会議所、工業連盟幹部によると「鉄道の複線化と高速鉄道の開通で、これまで東北部に興味を持たなかった企業が新たな投資を検討する契機になる。またアクセスが簡単になることで、観光資源の活用にも繫がっていく」と、地元経済への波及効果を期待している。

農業を活かした発展へ

 バンコクから630キロに位置する、ラオスとの国境の町ノンカイ県。中国・昆明からラオスを通じて結ばれる高速鉄道の建設や、周辺諸国との物流拠点として近年注目が集まっている。ノンカイ商工会議所によると「高速鉄道の建設や物流ターミナルの建設によって、地価も上昇傾向にある」という。
 現在、ノンカイからラオスへのアクセスは陸路がメイン。一応ノンカイ駅からラオス国境のタナレーン駅に向けて鉄道が走ってはいるが、一日2往復と輸送力に乏しい。しかしながら現在ラオスとの輸出入は、ノンカイ税関の統計によると輸入は10年前から約4倍、輸出は約2倍と増加し、今後もさらに増える傾向にある。
 現在、ASEAN域内の物流においては、徐々に電子化やシングルストップ化が推進されている。例に漏れずノンカイ税関でも輸出入の簡略化を進めてはいるが、かつて「黄金の三角地帯」として知られ、麻薬の一大供給地であったラオスからのドラッグの密輸入は現在も後を絶たない。税関の検査場では大型のX線検査装置を使い、係員が目視で厳しいチェックを行っている。「密輸の多くは麻薬や税金逃れをたくらむ物品。また象牙や取引が禁止されている生物などが持ち込まれるケースもある」(税関職員)。
 タイ東北部にとって、インフラの整備は「悲願」であり同地の経済発展のカギを握る「未来」でもある。現地で操業している現地日系企業によると、「東北部の魅力はなんといっても、質の高い労働力が豊富に得られること。高度な大卒人材も募集をかければすぐに集まる。加えて、家族を大事にする昔ながらのタイ人が多く、『地元密着型』の気質があるので離職率が非常に低い。また労働争議などの発生も少なく、安定した労使環境が構築できる。バンコク周辺と違って、洪水の心配もない」と進出メリットを挙げる。
 一方でデメリットとしてあげるのは、やはり調達や納品に関わる輸送コストの問題だ。「この点はインフラ整備で改善されることで、より進出が加速されるのではないか」。
 現地政府関係者は「東北部の強みは、やはり農産品。新鮮な農産物を都市部に供給するのはもちろん、バイオ産業の原材料をバンコク首都圏に供給することで、経済的な発展を目指していきたい。日本からは農業分野で先端的な取り組みを行っている企業に進出してもらいたい」と期待を込める。