コラム

2019年5月25日号

 季節は梅雨に向かっているが、晴れた日には木々の緑を鮮やかに感じる。薫風とはよく言ったもので、この時期、自然の豊かなエネルギーが風に乗って香るように寄せる▼風のなかを遠い記憶が駆けることもある。無意識がなせるワザだろうが、風が通り過ぎる際に懐かしい匂いを嗅ぎ分けたと思える瞬間があり、このとき稀に、古い記憶の残像が目の前に現れる。時空を超えたような不思議で贅沢な一瞬だ。読者の皆様も経験されているのではないか▼四季に恵まれ、四季それぞれの風情を味わってきた日本人の文化が、いにしえから繊細で情緒豊かなことは、自ずと納得できる気がする。自然への恐れと感謝が、四季の多様な移ろいのなかで日本人のきめ細かな精神性を生み、文化に芸術に道徳に、そして言葉にも強い影響を与えている▼いやここまで書くと、なんだか母国を特別視して勝手を言っているように思われるかもしれない。しかし、少なくともこうした日本の良さが、国際社会において人々の琴線に触れる機会が増え、日本に対する親しみと評価を広げているのは確かではないか▼グローバリズムが定着し、共通の基準、尺度で価値を測ることが当たり前になったが、ふと、何か大切なものを置き忘れてしまっていることに気づくことがある。真のグローバリズムは、互いの違いを知り、その違いを認め合うところから始まるとの主張もある▼懐かしい風の匂いは、何かを伝えたがっているように思える。