コラム

2019年6月25日号

 アンデルセン「裸の王様」は、小生の最も古い読書体験の一つ。ごく幼い頃で、どう読んだか読んでもらったか忘れたが、王冠だけを身につけた太っちょの王様が、最後、恥ずかしそうに身を屈めた挿絵をうっすら覚えている▼馬鹿には見えない不思議な高級衣装を仕立てたという業者の口車に乗り、あるはずのない衣装を得意気に身にまとう王様。家来も周囲の人間も、その衣装を口々に誉めそやす▼だが、無垢な少年が笑って指を差し「なあんにも着てないじゃないか」と叫んだ途端、誰もが正気に返る―そんな痛快な作品だ▼いや痛快でもない。いま思い返すと、童話は、虚構を指摘できた人間が、純粋な子供以外にいなかったことを語っている▼なんだか、行き過ぎた忖度による改ざんや、不都合な真実を組織で隠してしまう現在の政界と似ていないだろうか▼老後資金2千万円不足の問題もしかり。客観的な試算の一つとして活かすこともできたが、国民に誤解を与えるとして与党が強引にお蔵入りにした一方、徒党を組んだ野党は嵩にかかり与党の隠蔽体質は大問題だなどと集中砲火を浴びせる▼どちらも、裸の皇帝の周囲にいた人間に似ていると映る。童話の少年がいたら、指を差して何と言うのだろう▼もっとも、本質を貫く言葉を叫んでみても、いまや状況が童話のように一変することはなさそうだ▼でも、せめて政治家の皆さん。もう少し度量を持って、鳥の目で建設的な議論をしてくださいな。