オヤジの喜怒哀愁

2019年6月25号

旅のトモ

23694

 住まいの最寄り駅から出るJRのローカル線には先頭と最後尾の車両に対面座席がある。座席を挟んで窓の前にはカップホルダーの穴が2つ空いた小さなテーブルがついている。そこに座るだけで旅気分が味わえる。
 小さなテーブルの下には昔、四角い金属の灰皿がついていた。狭い車内で誰にはばかることなくタバコが吸えた。まさに隔世の感である。タバコは吸えなくなったが飲酒は禁じられていないはずだ。ここでウィスキーのポケット瓶を取り出せばいよいよ旅情は高まってくる。
 アルコール臭をかいだり酔っ払いを見るだけで不快感を覚える人もいるので車内でのアルコールが御法度になる時代だってくるかもしれない。しかし、酔っ払いが電車に乗れなくなると飲食店の経営は困難になるだろう。
 すでに酔っている人の乗車は認めるが、車内での飲酒は認めないという方向が打ち出される懸念もある。車内での喫煙は禁じられているがヤニ臭いオヤジが電車に乗ることを禁じてはいないのだから、同じことだ。
 とにかく、アルコール、タバコなど依存性を高めるものについて世間の目が厳しい時代になった。アルコール、ニコチン、カフェインに依存しながら一日をやり過ごすオヤジには住みづらい時代になった。
 時折ポケット瓶を口に含み、暇つぶしに駅の売店で買った週刊誌を読み進むうちに電車は都市に近づいていく。乗った時は貸切状態だった車両がだんだんと混んでくる。
 こうなると禁じられていなくてもマナーとしてポケット瓶を口に運びづらくなってくる。そんなことをしている人は一人もいないのだから飲むにはそれなりの覚悟と度胸が必要になってくる。何もそこまでして車内でウィスキーを飲まなくてもいい気がしてくる。悲しいけれど旅情はしぼんでいく。都会とは息苦しいものだ。
 そして、不覚にもいままで気づかなかったことだが、大都市の電車の車内で週刊誌を読んでいるということもポケット瓶並みに非常識なことなのかもしれない。とにかくそんなことをしている人は一人もいない。皆スマホとにらめっこをしている。
 君達だって好きなことをしているんだろ、俺だって好きにさせてもらうよ、とポケット瓶のウィスキーを喉にぐいと押し込んだが週刊誌は鞄にしまいこんだ。車内週刊誌禁止でもないのに。