識者の目

中小企業のIoT導入への挑戦

 大手上場企業の場合は赤字に陥っても銀行支援等がありえるが、中小企業が生き残っていくには自分の力で切り開いていくしか道はない。特に中小の社長にとっては毎日が戦場であり片時として気を抜けない。筆者も30人ほどのIoT・M2Mシステム開発企業であるが、生命線は研究開発にあると思っている。
 当社では戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン)や、ものづくり補助金を積極的に活用して開発資金不足を補っている。平成25年度は、制御装置1台で6台の加工機を同時制御して加工時間を画期的に短縮する「リアルタイム制御を可能にするソフトハード一体型制御システム」を開発した。その派生製品がマルチベンダー対応M2Mシステム「Σ(シグマ)軍師」だ。平成30年度は「プレス成形不良ゼロを実現するスライド一体型高感度・高耐久型センサーと予知予防AIシステム」の開発に挑み、超小型半導体センサーとM2M―AIソフトを今後プレス・成形・機械加工現場の不良撲滅に活用する計画だ。
 当社と同じく中小企業が自力でIoT/M2Mシステムの導入や研究開発をするには資金と人材の不足が最大の壁になる。補助金も活用しながら挑戦を続けている2社を紹介する。

■情報を探し回らない現場に
 エヌ・エス・エス(以下NSS、長野県小千谷市、中町剛社長)は工作機械などの超高精度スピンドルの製造を営む中小企業。同社の課題は月に2000種もの高精度部品を製造する多品種小ロット生産にあった。現場では70台以上のマシニングセンタの加工段取りを行うために、作業員が「NC指示書はあるのか、NCデータはどこか、工具はどこか」と記憶をたどって走り回る状態。機械ごとに性能や特性の違いがあり、熟練者なら経験と勘でこなす作業でも、若手では効率が上がらなかった。
 そこでKMCでは、営業・生産計画・製造現場をつなぐIoT・M2Mシステムを提案した。営業からの受注情報を自動で「QRコード」に入れ込み、現場作業者は図面に印字されたQRを加工機の前のタブレットで読み込むだけで、データベースから「過去に発行された指示書、NCデータ、工具情報」が瞬時に揃う仕組みを完成させた。Σ軍師で加工モニタリングも行えるようにした。
 当初は「現場でタブレット?」という反応もあったが、指示書などを探す手間が激減し、「段取りに集中できる」と好評だ。結果として生産性が向上し、受注拡大につながったほか、若手も増え活躍の場が広がった。俗に言う「働き方改革」を2016年から実践できた事例と言えるだろう。同社では更に、M2Mによる加工監視や品質管理IoTシステムなどの計画、連携複合加工機や超高精度測定機、評価設備の新規導入、新工場建設と進化などを推し進めている。

■現場目線の改革が成功の秘訣
 NSSの中町社長からの紹介で、小物精密順送プレスを得意とする山口製作所(以下YSS、小千谷市)でも改革をサポートした。YSSの山口貴史社長の最初の相談は、「不具合も多く、現場の人手が足りないのでIoTの活用で効率化を進めたい。自社に合った仕組みを作りたい」というものだった。
 KMCでは、YSSが自社開発した業務管理ソフトと連動できるIoT・M2Mシステムへの取り組みを提案。タブレット端末で金型の加工・メンテ履歴を確保でき、さらに製品の発注・出荷状況とも連動できるシステムを組むなどにより、事務の間接業務や現場の直接工数の削減につながった。山口社長は「カタログやパッケージソフトでIoTシステムを売りこんでくるメーカーは多かったが、KMCのように現場課題の解決の相談に乗ってくれるところがなかった」と振り返る。筆者はYSSの革新力は大手企業にも決して負けていないと感じている(詳しい内容は本紙19年4月10日号で紹介)。
 このような中小企業仲間の改革をサポートする中で筆者は「現場目線が重要である」と再認識した。いずれも社長、事務・現場社員の相互信頼が、改革成功の底にあるとも感じた。ぜひ一度、両社を訪ねてみてほしい。

㈱KMC 代表取締役社長 佐藤 声喜

秋田県出身、1956年生まれ。芝浦工業大学機械工学科博士課程修了。三井金属鉱業のデトロイトオフィスで技術開発者として活躍し、同社社長表彰、HONDA研究所長表彰、特許/実用新案240件以上出願などの実績を積む。その後、1990年にインクスを設立し、常務取締役として技術コンサルや金型・試作・設計派遣など事業全般を統括した。2010年にKMCを創業し、代表取締役社長。製造業の技術コンサルや生産プロセス改革に関わるソフト開発を手掛ける。川崎市リサーチセンターフェロー、素形材センター理事、光造形産業協会理事、日本金型工業会技術委員などを歴任。日本酒のソムリエ「唎酒師(ききざけし)」の資格も取得ずみ。