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2019年版ものづくり白書より、製造業へ 4つの戦略メッセージ

次世代革命下、競争力をいかに向上させるか。

―今号(7月10日号)の紙面特集より、ここではものづくりの要所、後工程「バリ取り・研削研磨」を掲載―。
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 19回目となる「2019年版ものづくり白書」が6月11日に閣議決定した。同白書は毎年、経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3省共同で作成。我が国製造業の状況を捉え、そこで起きている変化や課題を分析し、次代に向けた取組みの方向性を示す内容にしている。
 令和初となった今回は、平成時代のモノづくりを振り返りつつ、世界の中での我が国製造業の立ち位置を、近年の保護主義的な動きや、変革期における海外の取組みも視野に入れ分析した。
 そのうえで、今の環境下において「世界で勝ち切るため」の戦略を大きく4つ、メッセージ的に伝えている。
 弊紙では、これら4つの戦略メッセージを含め、<現状と課題、展望と対策>の視点から、ものづくり白書のポイントを探ってみた。

品質と技術で「部素材」に強み、課題は高度で複雑化

 今年のものづくり白書は、平成時代の製造業を振り返って総括する記述からはじめている。
 平成に入ったとたんのバブル崩壊。その後のリーマンショックや自然災害。多くの困難に直面した平成時代の我が国製造業は、他方、新興国製造業の急成長の裏返しとして現れた「産業空洞化」の危機にも見舞われてきた。
 これらを背景に、国内GDPに占める製造業比率はかつての高度成長期に3割台を誇ったものの、平成元年時で26・5%に低下。そこからさらに平成21年の19.1%までジリジリと連続的に縮小した。
 ただしその後は上昇に転じ、直近で20~22%に持ち直している。白書は平成時代の厳しさを書き連ねながらも、「足下の製造業GDP比率は2割程度で推移し、我が国経済を下支えしている」と書く。また「最近は国内への立地回復の動きも見られる」としたほか、平成期に多くの自然災害に見舞われたことで「災害対策を通じて我が国製造業の対策が強化された」とした。
 ただ平成後期における製造業回復の動きは確かながら、日本製造業の強みが様変わりしたことは見落とせない。平成に入った頃から、日本が先端分野の完成品シェアを激減させるケースが相次いだ。液晶パネル、DRAMメモリー、カーナビゲーション、DVDプレーヤーなどは世界を席巻した状態から、平成期を通じいずれも世界シェアを50%ポイント以上落としてしまっている。
 今年の白書は、こうした現状に目を向けたうえ「完成品シェアを大きく低下させた品目においても、それを構成する部素材(部品、素材)では高いシェアを維持している」と括った。白書は、品質力や技術力を生かせる部素材に強みを持つことが、我が国製造業の現在の特色と捉えている。
 一方で白書は、製造業がいま直面する様々な課題を洗い出した。
 まず「人手不足がますます深刻化している」状況を重く見た。
 昨年の経済産業省の調査では、人材確保に何らかの課題があるとした企業が94・8%を占めており、特に技能人材の確保が困難なことが明らかになった。後述するように白書は、「深刻な人手不足を追い風に変え、AIやIoT、ロボットによる徹底した現場の省力化を推進すべき」とした。
 また直面する課題の一つとして、品質トラブルの増加傾向に警鐘を鳴らした。原因として「従業員教育の不足」や「従来慣行への依存、馴れ合い」があると調査結果から引き、品質トラブルの少ない企業では「経営層が現場の状況を把握している傾向にある」と分析している。
 事業環境面の課題にも言及した。「第4次産業革命の進展」、「グローバル化の展開と保護主義の高まり」、「ソーシャルビジネスの加速」―という3つの潮流に、それぞれ課題が絡んでいるという。
 「第4次産業革命の進展」に絡んでは、新たなデジタル技術を使ってこれまでに無いビジネスモデルや新サービスが誕生しており、製造業者も「産業構造の抜本的変化に対応することが求められる」と述べた。
 「グローバル化の展開と保護主義の高まり」に関しては、グローバルなサプライチェーンの在り方について、よりいっそうのリスク管理が求められるとした。
 「ソーシャルビジネスの加速」では、例として海洋プラスチックゴミ問題や地球温暖化対策を上げ、「世界的課題を、リスクやコストではなく、ビジネスチャンスとしていく戦略性が求められる」と記した。
 白書はこうした課題について「我が国製造業がこれまで以上に高度で複雑な問題に直面する大変革期に入っている」旨、結論的に記述。その上で、いまの世界の中での日本製造業の立ち位置ついて、あらためて考察を進めた。

世界中で新たな顧客価値提供、日本の立ち位置と遅れを考察

 今年のものづくり白書は、国際社会における日本の製造業の位置づけをさまざまな角度から分析したことが特徴の一つになっている。
 実質GDPの各国比較(日本は米、中に続く世界3位。4位ドイツ)や、GDPに占める製造業の割合(GDP上位4カ国は中国40%、ドイツ24%、日本22%、米11%)をはじめ、労働生産性(GDP上位4カ国中、日本は3位)、国際競争力レポートにおけるランキング(世界経済フォーラム調べ・日本は世界5位)、グローバル・イノベーション・インデックス・ランキング(欧州経営大学院等の発表・日本は世界13位)などから我が国製造業の立ち位置を考察した。
 日本の製造業が「部素材」に強みを持つことも詳細データから細かく再確認した。
 日系企業が生み出す製品群の世界市場規模と世界シェアを見ると、日本が高シェアを持つ巨大マーケットは「自動車」のみ(世界シェア23・3%、売上額63・0兆円)というのが現状だ。一定規模以上の市場を対象にして、日本が世界シェア60%以上を持つ製品群は全部で270を数えるが、このうち部素材が212個と、78%の圧倒的多数を占めていた。
 これらから、我が国製造業が自動車産業に大きく依存した構造であること、また部素材において非常に高い競争力を持つことを白書は確認している。
 次いで白書は、製造業が大変革期を迎えているなか、海外の新しいモノづくりビジネスについて、その最新動向を注視した。
 GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンの4社の総称)などの大手IT、ハイテク企業が率先してITと製造業を組み合わせた新ビジネスを進めていることや、逆に、ゼネラルモータースが巨額資金を投じて自動運転関連ベンチャーを買収し、MaaS(Mobility as a Service)の市場開拓を進めているように、製造業サイドでITと積極的に結びついている例を考察した。またシーメンス(ドイツ)が製造プラットフォームサービスを比較的安価で中国に提供しているケース等、ここでは海外勢による新ビジネスモデルの進展ぶりを多くの事例から検証している。
 そうした記述の中で白書は、日本におけるIT投資が、プロセス改善や業務効率など「守りの投資」を目的としがちで、ビジネスモデル変革のための攻めの投資が少ない傾向にあることを指摘。このあたりの文脈は、行間に危機感をにじませたものとなっている。
 白書は、第4次産業革命に向けた新しい取組みが世界の各方面で進み、意欲的、先進的な取組事例が多数あることが確認されたとし、「我が国製造業における対策、取組みも待ったなし」と記した。

4つの戦略Connected Industries実現に向け、ニーズ特化型モデル・スキル人材確保等

 以上のような考察を重ねた後、白書は、第4次産業革命下における我が国製造業の競争力強化の方策として、政府が唱えるコネクテッド・インダストリーズ(Connected Industries)実現に向けた4つの戦略を、メッセージ的に提起した。


ニーズ特化型のサービス事業を
 その一つが「世界シェアの強み、良質なデータを活かしたニーズ特化型のサービス」を、新ビジネスモデルとして展開すべきとのメッセージだ。
 IoTなどを使って各種データを収集する動きは、近年、「収集したデータを活用する」方向へ動いており、白書は「製造業のデジタル化は第二段階を迎えている」との表現を用い、データ活用の新ビジネスに期待を寄せた。
 しかし実際には、国内において収集したデータを顧客とのやり取りやマーケティングの効率化などに活かす企業はごくわずかにとどまっている。
 白書は「我が国製造業の弱みであり、かつ、取組みが進んでいないのは、いわゆるスマイルカーブで付加価値が高いとされている企画・開発部分や流通・販売や付随するサービス部分であり、品質や製造工程の強みを維持・強化しつつ、これらを強化していくことが求められる」と述べ、「データの収集・活用の場面を製造現場のコスト圧縮だけでなく、製品の企画・開発・設計や販売後の製品の使用過程を含めたバリューチェーン全体に広げていくことが不可欠」と強調して綴っている。
 その上で、シェアの高さと良質なデータを活かした事例として、建設現場向けのオープンプラットフォーム(コマツ)の有効性などを紹介した。白書は「製品(モノ)だけでなく、サービスの提供を通じたビジネスモデルの変革」を呼びかける。


重要分野で圧倒的シェア獲得を
 日本製造業の国際優位性は、経済産業省の調査から「製品の品質」や「現場の課題発見力(問題解決力)」や「技術開発力」において如実に見られるものの、「生産自動化・省力化」、「商品企画力・マーケティング力」は劣位にあると認識されている。
 そうした現状を見据えた上で白書は、重要分野におけるシェア拡大に戦略的に取り組むべき旨、記した。
 ここでの重要分野とは、国際的・社会的課題や、ESG(エンバイロメント=環境、ソサイエティ=社会、ガバナンス=企業統治)投資に絡む分野、循環経済(サーキュラーエコノミー)に適合した分野、また標準化活動を通じグローバル市場を獲得できる分野を指している。
 白書は社会的課題解決に向けた投資機運の高まりが世界において広がっていることを再三指摘したうえ「社会的課題への本格的な取組みを通じ、モノの先にある顧客価値を実現し、ビジネスチャンスを捉えることが重要」と記した。


スキル人材確保と組織作りを
 世界で勝ち切るための3つ目の戦略には「新時代に必要なスキル人材の確保・組織作り」を掲げた。
 最近の調査ではITリテラシーの必要性を感じると回答した企業は77%に達しており、しかもITリテラシーの必要性を感じている企業ほどビジネス環境の変化に対する意識が高く、売上高・営業利益を増加する企業の多いことが明らかになっている。
 一方で人材不足問題を見ると、技能人材の不足が圧倒して多いが、設計・デザイン人材や研究開発人材、デジタル人材にも不足感が見られる。
 そうしたなかで白書はデジタル化に対応した人材育成の必要性を「ものづくり×デジタル」人材、といった表現で強調している。
 と同時に、そうした人材が活躍できる場や組織づくりの大事さを説き、そうした組織作りを実現できるかどうかが、製造現場におけるAI・IoT活用の成否を分ける鍵だと記している。


技能デジタル化と徹底的な省力化の実施を
 我が国製造業のうち、製造・生産現場技能のデジタル化に取組んでいる中小企業は全体の3割弱にとどまるが、取組む意向のある企業を含めると85%に上ることが昨年末の調査で浮かび上がっている。
 デジタル化に取組みたい理由として最も多いのは「技能の見える化・共有化」で7割を超えており、「製造現場のノウハウの暗黙知化に多くの中小企業が課題を抱えている状況が考えられる」(白書より)という。また「人材不足への対応」、「若手への技能伝承」をデジタル化推進の理由に挙げる企業も少なくなかった。
 これらを受け白書は「我が国製造業の熟練技術が残っているうちに、デジタル化やAI化を進めることは待ったなし」と記した。
 白書はまた、第4次産業革命の技術革新により、従前は人でしかできなかった作業がより効率的に実施できる事例が拡大し、「ほぼ人のいないスマートな生産工程も増えつつある」などと前向きに捉えた。
 全国的な人手不足はますます深刻化し、今後は人手を確保することがより困難になるとしながらも「深刻な人手不足を追い風に変えて現場の徹底的な省力化を推進し、生産性の向上を図ることは可能であり、追求すべき」旨、記した。