識者の目

スマホすら無くなる「5G」普及の未来像

 1979年に登場したアナログ方式の1G、1993年にはデジタル方式の2G、2001年には国際ローミングが使用可能になった3G、2010年には従来より通信速度の速い4Gが導入されたことにより、世界的にスマートフォンが普及した。
 このように、通信技術は約10年のサイクルで社会に大きな変化を与えている。そして、現在整備が進められているのが第5世代となる「5G」だ。その大きな特徴として挙げられるのが「高速大容量」、「低遅延」、「同時多数接続」。現在使っている4Gより通信速度は100倍速く、かつ10倍多くの端末に接続可能で、タイムラグは現在の10分の1に低減される。
 5Gが本格的に運用されることにより、従来のスマートフォンでは表現しきれないほどの情報量が溢れかえる。2020年には、10年前のおよそ1000倍の通信量に達するとも言われている。しかし5Gが一般的に普及するのは2022~2023年頃になる見込みである。これは基地局のインフラ整備にまだしばらく時間がかかるからだ。5Gの根幹技術となっているのは高周波数のミリ波。この高周波の電波は、直進性が強いため切れやすく使いづらいのが難点である。その接続性を高めるためには、いまより多くの基地局の設置が必要となる。
 より安価で簡単に設置できる基地局や、空に浮かべる基地局など、通信各社が様々なアイデアを出して問題解決に取り組んでいる。その一方で、製造現場や商業施設、建築現場、学校のキャンパスなど、小規模な範囲で使える「ローカル5G」の活用・構築が注目されている。総務省では、一般企業も限られたエリアで周波数の割り当てを受けて、5Gを自営無線として利用できるように進めている。それゆえ、一般ユーザーより先に産業の現場で5G活用は進んでいくと見込まれる。

■折り畳みスマホは通過点
 5G化に伴い、通信や制御で欠かせない電子部品の需要が急拡大することが予測される。既存の4Gと5Gでは周波数も規格も異なるため、新たな部品が数多く開発される。機器のIoT化もさらに進み、5Gの強みである超低遅延を活かした遠隔操作が可能なロボットの需要も高まるだろう。医療分野での活用や、これまで人が作業しなければならなかった危険な作業や過酷な現場での活用が見込まれる。
 昨今、様々なメーカーがフォルダブル(折りたたみ式)のスマートフォンをリリースしている。画面を大きくしてより多くの情報を入手できるようにするためだが、これは今後到来する5Gに対応するための動きでもある。
 ただ、これも情報端末の進化の過程に過ぎず、いずれはAR(拡張現実)やMR(複合現実)に対応した端末が主流になっていくだろう。ARやMRはVR(仮想現実)と違い、現実の風景に重ね合わせるカタチでデジタル情報を表示するので、スマートフォンと違い置き場所や画面サイズの制約が無い。
 すなわち、普段皆さんが持ち歩いているスマートフォンやタブレットといった端末に変わって、今後はARやMRに対応したメガネ型などのウェアラブル端末が徐々に普及していくだろう。実際、すでに世界の名だたる大手IT企業は、AR・MR技術を利用できる端末の開発を急ピッチで進めている。言うなれば「ポストスマホ」の覇権争いゆえに、今後の開発競争はさらに激化していくと見込まれる。
 製造業においては、より機器のIoT化が進むようになり、生産現場の可視化がさらに進む。機器の管理だけではなく生体情報センサーなどで、現場で働く人の健康状態を把握することも可能になる。今後は個人の状態をリアルタイムでAIが診断して、労働災害を未然に防ぐようなシステムも生まれていくだろう。
 また、現在は紙ベースのマニュアルや、機器に取り付けられたモニターを見て作業を進めているが、これもAR・MRを活用することで、欲しい情報や生産状況を現場ですぐに確認したり、操作できるようになる。

■通勤が無くなる時代へ
 クルマの自動運転技術も、5Gの普及により大きく進化する。自動運転は走行ルートがあらかじめ分かっている路線バスなどから導入がはじまり、2025年頃から自家用車でもレベル4~5の自動運転が可能になっていくだろう。レベル5の完全自動運転が実現すれば、もはや自動車は移動手段だけではなく、オフィスにも店舗、居住空間にもなりえるスペースとなる。
 これまで通勤など移動にかけていた時間を仕事に費やせるし、そうなれば余暇を増やすことも可能になる。月曜から金曜までは通勤▽仕事▽帰宅というサイクルが無くなり、働き方の根本的な仕組みが大きく変わっていく可能性を秘めている。完全自動運転の実現こそ、5G社会を象徴するようなドラスティックな社会変革をもたらすだろう。
 また、慢性的な人手不足が問題となっている物流業界にも大きな変化をもたらす。本年度より、私の研究室では大学構内のコンビニエンスストアと連携した実証実験を開始する。学内にローカル5Gネットワークを構築し、端末でコンビニエンスストアに注文をすると、配送ロボットが注文者に品物を直接届けてくれるサービスだ。例えば、注文した人間が次の授業を受けるために教室を移動した場合、ロボットは端末情報を元にリアルタイムで注文者の動きを捉えて追跡し、品物を配達してくれる。
 この技術がスタンダードになれば、「欲しい時に欲しい場所」で品物を受け取れるようになる。再配達を減らすことも可能となり、いまより無駄の少ない物流網を構築していく一助となるだろう。
 今後はヒトの流れ、モノの流れを5Gでリアルタイムに把握し、企業活動に活用していかなければならない時代になる。

東京工業大学教授 阪口 啓 氏

1998年東京工業大学大学院電機電子工学専攻。修士課程終了。博士(工学・東京工業大学)。ドイツ・フラウンホーファーHHI上級研究員。5Gでミリ波を使うことを提唱し、基本的な仕組みを発案した中心人物のひとり。また5G技術の国際標準化を牽引したキーマンでもある。現在は東京工業大学で教鞭をとる傍ら、様々な企業と連携し5Gを活用した次世代技術を開発している。2004年SDRフォーラム論文賞、2005年電子情報通信学会論文賞、2006年電子情報通信ソサエティチュートリアル論文賞、2015年電子情報通信ソサエティ論文賞等、数多くの論文賞を受賞している。