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特集:デジタルものづくりとCAD/CAM

―今号(7月25日号)の紙面特集より、ここでは特集:デジタルものづくりとCAD/CAMを掲載―。
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 CAD/CAMはこの数十年間、モノづくりの司令塔として君臨してきた。特に1990年代に3次元化・ソリッド化に移ってからは、初期設計の段階で製造や出荷までを見渡し、全体的な課題解決とモノづくりフローを改善させる「フロントローディング」を幅広い業種で可能にした功績が光る。その後、CAD系ソフトウェアは機能を充実しながら、世界中で沸き起こるデジタル革命=次世代製造革新を呼び寄せる原動力になっていった。
 ただ同時に、CADあるいはCAMが単独で評価されることは減っている。今の評価と先端の市場ニーズは、CAD/CAMの拡張的機能、言い換えれば検証やバーチャルリアリティなど他のソフトの機能が加わることで可能になる、よりトータルなソリューションソフトとしての拡張性に移行している。
 そうしたことを念頭に、CAD/CAM市場の動きを、最近の急激な変化や、新たな付加価値の現況を押さえながら、追ってみた。

急変貌するマーケット、設計・製造はデジタルツインの時代へ

 今は変化の激しい時代といわれるが、CAD/CAMとその周辺ソフトは激しい変化の「震源」ともいえる状況にある。
 相次ぐ企業買収を経て世界市場を寡占する欧米のビッグスリー(仏ダッソーシステムズ、独シーメンス、米PTC)は、CAD機能にCAEを、MESを、PLMを、またARやVRを付加した(連携した)デジタルソリューションを、日本の立ち位置からは考えられないハイスピードで展開中だ。さらにGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)など巨大IT企業との協業で「先の先を見据えた世界標準化戦略」が急ピッチで進む。
 そうしたなかでCAD系ソフトの販売形態も、オンプレミス(シート販売、永久ライセンス)から、クラウド上で使用したぶんを課金するサブスクリプション(以下サブスク)のスタイルに、大胆に移りだしている。
 日本ではまだ9割以上がオンプレミスであり、サブスクへの本格移行は兆しさえ見えない状況だが、世界は事情が違う。シーメンスPLMソフトウェアでは「(世界スケールで見ると)顧客の6割が永久ライセンスを、4割がサブスクを選択している。どちらのスタイルでもユーザーニーズに合わせたソフトウェアを提供できる」と話す。同社のCADの場合、5ギガまで無償というクラウド(AWS=アマゾンウェブサービス)を提供。アクセス権を与えられたユーザー同士でデータを共有することが可能で、CATIAやソリッドワークスなど他社CADのフォーマットや、業界スタンダードのカーネル(パラソリッド)への対応を可能にしている。
 航空機をはじめ自動車分野の標準的ハイエンドCAD「CATIA」を有し、またミッドレンジ層でもCAD「ソリッドワークス」で圧倒したシェアを持つダッソーシステムズは、昨年から今年にかけて主要なソフトメーカー5社を連続的に買収した。
 その中で特に、中堅・中小向けエンジニアリングソフトで実績を持つIQMS社の買収は「今後の戦略で最重要視する中堅・中小向け事業を強く後押しする効果を生むだろう」と同社では見ている。
 「(IQMSの技術を当社が包括的に提供することで)中小製造業はプラットフォームのもたらす驚異的な力を駆使し、今日のインダストリー・ルネサンスの中で活躍していくことでしょう」とは同社最高経営責任者、ベルナール・シャーレス氏が発した言葉だ。
 日本法人の山賀裕二社長も今後の注力分野を語るなかで「IQMS買収を契機にして中堅・中小企業のユーザーの改革を後押しする。機能を増したソリッドワークスをどっと中堅・中小にお届けしたい。この1~2年で製造業の仕事の進め方が大きく変わると個人的に思っている」などと今年6月、記者会見で力強く述べていた。
 シーメンスPLMソフトウェアの日本法人も「これまでは大企業が複数のライセンスを購入するケースが多かったが、今後は中小企業に向けた販売・サービスを強化していきたい」(藤田研一社長)としている。
 つまりこういうことではないか。彼らは3Dデジタルの可能性を拡げ、サイバー空間に現実世界を取り込んで事前に検証等を行うデジタルツイン(ここでのツインとは現実と仮想現実が双子であることを指す)の世界をも広げつつあるが、利用者はいまや最先端企業や大手セットメーカーに限られたものでなくなり、欧米大手の主導によって、中堅・中小を含め全面的に広げようとする強い力が働きだしているということだ。
 日本はまだそこまで行っておらず、行こうとするプレーヤーも少数で、ある面かなりの遅れをとっているが、こうしたデジタルワールドの進化普及が、企画開発設計において、また生産性の面でも大きな差別化要因になることは将来確実と推測される。

CAD/CAM、小幅成長の時代か。ベンダーは多角化経営、ソリューション増やす

 前出のダッソー日本法人・山賀社長は、自社の昨年実績を振り返り「(公表している)アジア全体の成長率16%を上回る伸びを示した」と話す(今年6月)。またシーメンスPLMソフトウェアは「日本における産業用ソフトウェア事業の売上高は2ケタ成長。世界でもっとも伸長した市場のひとつ」(エグゼグティブ・バイスプレジデントのロバート・ジョーンズ氏、今年7月)とした。
 こうしてみると、ソリューション系ソフト事業は、国内において好調のようだが、狭義のCAD/CAMマーケットに目を向けると、国内市場はやや停滞感が漂っている。
 もっとも、矢野経済研究所の発表によると、CAD/CAM(土木・建築系CADとCAEを含む)の市場規模(出荷額ベース)は、16年度の3451億円から17年度が3550億円に伸び、18年度も3756億円と続伸を見込む。
 しかしながらCAD/CAMメーカーやベンダーに聞くと、「国内業界は行き詰っている」の声が少なくない。昨年を振り返って「工作機械などハードの好調に対し、CAD/CAMは年間を通じ、動きが落ち着いていた」(大手ベンダー)といった受け止め方が多く、CAD/CAMに関せば複数の有力プレーヤーが「前期は横ばいか、やや弱含み」としている。
 前述のようにクラウド化やサブスクへの移行が世界規模で進み、またM&Aの嵐も吹き続ける中で、ベンダー(販売者)が戦々恐々としていることが、市場マインドに影響を与えているのかもしれない。
 ベンダーが取り扱う商品がサブスクに変わったら、そのベンダーの商売はあがったりになるかもしれない。また取り扱うメーカーが他社に買収され、販売網の見直しが実施されるかもしれない。激変するマーケットの中で不安感が顔を覗かせる。
 この点については矢野経済研究所も、欧米大手がサブスクへの移行を進めるなか「メーカーサイドの戦略の転換が一時的に業績を低迷させている」と分析したほか、
「ライセンス販売を中止すると、販売代理店の収益構造の根幹を変えてしまい(中略)、販売代理店経由の市場規模を縮小する」と指摘している。
 ただそうした変化のなかで、CAD/CAMベンダーの提案ビジネスが、大きく広がっているのも確かだ。安直にストーリーにするのは禁物なのだろうが、CAD/CAMのビジネス形態が変わろうとする中で、ソフト面の蓄積したノウハウを活かしつつ、CAD/CAMの枠を超え、例えばインテグレーション機能を身につけロボット分野に進出したり、あるいはAM(付加製造)関連で新事業を展開したり、生産管理系システムに注力したりといったベンダーらの動きが、よくみると加速的に広がって、モノづくりの世界に新風を吹かせている。
 こうした動きをCAD/CAMの視点からみれば、設計(CAD)→製造(CAM)という一本道ではなく、多種多様にCAD/CAMの応用が広がり、ハードの多様性ともあいまって、モノづくりを進化させる提案につながっていると映る。この新しい動きに注目しておきたい。