オヤジの喜怒哀愁

2019年8月10日号

夏に出るもの

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 夏の風物詩といえば蝉の声、蚊取り線香、風鈴、かき氷、花火大会、祭り、夕立、盆踊り、枝豆、生ビール、ホッピーと枚挙にいとまがないけれど、そのうちのひとつに怪談がある。暑い夏の夜に一服の涼を提供する怪談話だ。夏の闇はたしかに何か出そうな気配に満ちている。子どものころの肝試しもやはり夏だった。肝を冷やして戻ってくるころには暑さを忘れて夏の夜気がひんやり感じる。夏はお盆で霊が還ってくるときでもある。
 江戸の二大怪談話といえば「四谷怪談」と「番町皿屋敷」だろう。四谷怪談のお岩さんは不倫した婿にだまされて毒を盛られ顔が醜く腫れ上がり、悶え死ぬ。その恨みで幽霊となって現れるという話である。最近あまり耳にしなくなってなんとなく寂しいが、以前は顔を腫らしている人を見かけると「どうした、お岩さんみたいな顔して」とよく言ったものだ。お岩さんは現世に生きる我々にとって案外身近な幽霊だった。
 お岩さんと混同するのが「番町皿屋敷」のお菊さんだ。お菊さんは、奉公先の主人に妾になれと迫られるが拒否したため、10枚組の大切な皿が1枚ないことで因縁をつけられて責め殺されてしまう。屍が投じられた古井戸に夜ごと「1ま~い、2ま~い」と皿の枚数を数える菊の声が聞こえるという怪談である。顔が腫れているのがお岩さん、皿を数えるのがお菊さんだ。ここは、べつに試験には出ないが間違いやすいポイントなのでしっかり覚えておいてほしい。

怪談話の舞台裏
 江戸の芝居小屋は今のようにクーラーもなく暑いので夏は客足が遠のく季節だった。客の入りが少ないので芝居小屋も夏期休館して、出演するスターたちも夏休みをとった。しかし、いつの時代も商魂たくましい人はいるもので、少しでも上がりをとろうということで普段、主役を張ることのない脇役や出番の少ない若手役者をキャスティングして低料金の芝居を打つ小屋が現れた。そして、客を呼べない二流、三流の役者を集めて夏の興行を打つにはおどろおどろしい演出や派手な舞台装置で客を寄せる怪談がベストだったという。

 今も昔も夏休みは普段出ないものが出るかも知れない。皆さんくれぐれもお気をつけあれ。