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急速に発展するタイのロボット産業

日タイSIer連携の道を探る

―今号(8月10日号)の紙面特集より、ここでは急速に発展するタイのロボット産業を掲載―。
 タイでは今、産業高度化戦略「タイランド4・0」のもと、生産性向上と輸出競争力強化に向け、自動化・ロボット化産業の振興を急速に推し進めている最中だ。ロボット化に欠かせないSIerの育成にも熱心で、高度な技術と豊富な経験値を持つ日本のSIerとの協業を強く望んでいる。今回の特集では日本のFA・ロボットシステムインテグレータ協会が6月中旬に実施した5日間のタイSIer視察ツアーに同行。会員SIerや大学教授など総勢25人のメンバーと共に、タイのロボットSIer産業の現状を探った。
 日本とタイのロボットSIer(システムインテグレーター)産業のトップを走るキーマンたちが6月20日、バンコク市内のホテルに集結した。目的は日タイSIer連携の可能性を探る会議だ。会議ではタイの事業環境や双方の取り組みについて紹介しあい、人材育成や需要開拓での協業の可能性など、熱のこもった意見が交わされた。

5年でSIを1400社に

 そもそも、ロボットは購入しただけでは使えず、動きを教えるティーチングやPLCなどの周辺装置・ハンドなどをニーズに合わせて構築する「システムインテグレーション」が重要になる。「システムインテグレーションを担うSIerの育成無くしてロボット産業の発展はない」―共通する意識が、日本・タイそれぞれが民間SIer組織を設立した背景にあると言えるだろう。
 日本では国のロボット新戦略で掲げた「SIer人材3万人育成(16年比で約2倍)」を目指し、2018年7月にFA・ロボットシステムインテグレータ協会(JARSIA)が設立された。会議の中で久保田和雄会長は「現在約206社が在籍し、うち中小企業が約6割。情報ネットワーク構築や事業基盤強化、専門人材育成、中小向け保険制度設立などの取組を進めている」と説明したうえで、「トヨタ自動車など大手製造業の生産技術を支えてきたのはJARSIAのメンバー」と技術力の高さをアピールした。
 一方のタイでは2017年、SIer支援組織としてタイ・オートメーション&ロボット協会(TARA)が設立された。プラピン・アピノラセート会長は「会員企業は126社にまで増えた。タイ・ドイツ研究所(TGI)など関連組織の連合体CoRE(Center of Robotics Excellence)と連携しながら、技術の進化や人の育成、協力体制の構築に取り組んでいる」と言う。TARAの会員構成はロボットSIerのみならずAGV、SCADAなどITソフト関連も多く、過去には会員15社が協力してスマート・ファクトリーのプロジェクトに取り組んだ実績もあるそうだ。
 ただ、数十年の歴史を持つSIerが多い日本と異なり、タイのSIer産業は生まれたばかりの段階にある。タイ工業省ロボット・自動化推進政策の草案を作ったキングモンクット工科大学のシット・ラウワッタナ教授は「17年時点でタイのSIerは200社いるとみられているがベンダーなどが多く、SIerとしての実績があるのは40社程度では」とみる。そうした状況下、工業省は「5年間でSIerを1400社にまで育成する」との大きな目標を掲げ、官民挙げた取り組みをハイスピードで展開しようとしているのだ。

ロボット需要、爆発間近

 タイがSIer産業育成を急ぐ背景には、2017年に発表した政府の産業高度化戦略「タイランド4・0」がある。20年後に「高所得国」入りを目指す同戦略では、投資誘致を強化する高付加価値10産業のうち、新規参入を狙う5産業(セカンドSカーブ)の中心としてロボット・自動化産業を位置づけた。
 ロボット化・自動化システムの導入により製造業・サービス業の生産性向上を促して国際競争力を高めるとともに、タイをロボット・自動化産業の輸出拠点へと成長させるのが最大の狙い。ロボット化・自動化に対して、17年から5年間で2000億バーツ(約7000億円)の投資誘致を計画し、供給側には投資優遇恩典、導入側には補助制度など需給両面でインセンティブを拡充している。
 IFR(国際ロボット連盟)の統計によると、タイへのロボット出荷台数は年間2600~4000台程度とここ数年横ばいの状況にある。だが、失業率1%台が続く深刻な人手不足と人件費の上昇を受けて自動車産業を中心に自動化・ロボット化ニーズが急速に拡大中。政府の恩典・補助制度を追い風に、TARA中核企業の成長度合いは数年で2~3倍ペースと爆発的だ。
 NACHI(不二越)・テクノロジー・タイランドの寶島章副社長は「中国では生産年齢人口が減少に転じた2015年から賃金上昇が加速した反面、ロボット需要が急速に伸びた。タイでも生産年齢人口のピークアウトを迎える2020年以降、中国と同じ現象が起こるのでは」との見通しを説明した。

協業検討は第2ステージへ

 急速な需要拡大とSIerの技術力の不足―背反する悩みを抱えるタイは、日本の技術力の移転を強く求めている。CoREのDirectorであるVarin Rodphothong博士(TGI副所長)は、「ビジネスのやり方や現場に根差したスキルの身に着け方など、実践力を日本から教わりたい」と話し、TARAのプラピン会長は「日本の匠の技術をタイに移転し、航空機関連や自動車など、少量多品種で付加価値の高い仕事の生産性高度化支援などを共に行っていければ。タイのロボット需要が大きく伸びていく中、利害関係を明確にすれば日系タイ法人との連携などで協業の果実を分け合えるはず」と呼びかけた。
 またタイランド4.0が投資の力点を置く東部3県(チョンブリ・ラヨン・チャチュンサオ)の「EEC(東部経済回廊)」の投資メリットも強調された。EECのスペシャルアドバイザーでもあるシット教授は「EECでは今後10年で2倍の経済成長が見込まれる東南アジアのハブを目指しており、1・7兆バーツのインフラ投資が予定されている。EECへの投資恩典は特に手厚く、ロボティクスに特化したスマートシティ計画があるほか、次世代自動車、航空機産業などのビジネスチャンスも大きい。すでにEECでは台湾、米国の大学とロボット・自動化技術者の育成での協業を模索しており、日本の大学にもカレッジ設立を誘っている」と話した。
 こうした呼びかけに対し、久保田会長は「大学と協賛し、タイの学生が日本でOJTを中心に学ぶ制度が有効では。そうすれば技術を身につけやすく、日タイのものづくりの精神や標準規格を親和させやすい」と提案したが、シット教授は「日本文化や生活に魅力を感じてタイ人学生が戻って来なくなる(笑)」と人材流出の懸念を示した。
 総じて今回の会議では協業の結論は得られなかったものの、議論は大いに盛り上がり、会議後の懇親会の場ですぐ、「第2回目の会議をやろうじゃないか」の合意に。12月に東京で開催される国際ロボット展の会期に合わせ、TARA・CoREのメンバーが日本のSIer視察に訪れ、最終日には協業体制に関する第2回の会議が行われることが決まった。