識者の目

文化的違いから考える米中貿易戦争

 米中貿易戦争は再び対立を深めている。8月1日、トランプ米大統領は3000億ドル相当の対中輸入品を対象に、9月から新たに10%の追加関税を課すと表明したのだ。
 米中の通商交渉は6月の米中首脳会談で制裁関税の発動を見送るなど「一時休戦」で合意。7月30日から上海で米中閣僚級協議を再開させていた。協議は不調に終わったが、米中ともに「建設的なものだった」と評されていた。その直後のトランプ氏の上記の表明に、中国の外交部スポークスマンは「断固として反対する。米側が課税するなら、必要な対抗措置を取らざるを得ない」と強い不満を示した。
 日本経済にも多大な影響をもたらす米中貿易戦争の行方はどうなるのか。交渉は「一進一退」の攻防というより、トランプ氏の「ツィート」によって想定外の方向に急転する状況にある。中国のメディアも「トランプ大統領がまた『変臉』した!」と困惑を隠さない。変臉とは四川省の伝統芸能「川劇」に伝わる、役者の表情(お面)が一瞬で変わる演技技巧である。
 この米中両国のかみ合わない交渉について、両国の文化的枠組みとその違いから考察してみたい。図表は米中日3ヵ国の「カルチャーマップ」である。これは経営大学院INSEADのエリン・メイヤー客員教授が長年の研究によって開発したもので、各国のビジネス文化を「コミュニケーション」や「決断」など8つのマネジメント領域にみられる両極端の特徴に当てはめて作成した、「文化の見取り図」である。各領域における対象国間の位置づけが離れているほど、文化的な違いが大きいと判断できる。

■違いを認め合えるか
 カルチャーマップ上の分布をみると、米中両国はほとんどの領域で文化的な違いが認められることがわかる。特に「コミュニケーション」「信頼」の2つの領域ではその違いが顕著である。
 領域別にみてみよう。「コミュニケーション」では、米国は世界で最もローコンテクストな文化を持ち、できるだけ明快に曖昧さを取り除いて話すことを重要視する。メッセージは額面通りに伝え、額面通りに受け取る。逆に中国はハイコンテクストな文化を持つ。自らの主張は場の空気を読みながら婉曲的に伝え、相手が何を言っているかではなく何を意味しているかを読み取ろうとする。
 「信頼」では、どのように信頼関係を構築するかがポイントとなる。信頼には相手の業績や能力に基づく「認知的信頼」と、個人的な親密さ、友情といった感情から形成される「感情的信頼」がある。米国が属するタスクベースの文化では、主に認知的信頼を重視し、感情的信頼とは混同させないよう、努めて分けて考える。つまり、「仕事は仕事」である。一方、中国が属する関係ベースの文化では、認知的信頼だけでなく、感情的信頼もあわせて重視する。飲食をともにしながら時間をかけて個人的なつながりを醸成していく。つまり、「仕事は人」なのである。
 このような両国の文化的な違いをもとに、中国人の気持ちを代弁すると、「こんなに真摯に取り組んでいるのに、米国はいつまでも疑い深い。自分の成果ばかりに固執して、こちらの事情も考えずズケズケ言ってくる。これでは信頼は築けない」と考えているだろう。異文化間交渉は、双方が違いを認め合い、歩み寄ることなくして、進展は望めない。

愛知大学 国際ビジネスセンター所長 現代中国学部 准教授 阿部 宏忠

あべ・ひろただ 20年間の日本貿易振興機構(JETRO)勤務を経て2011年から現職に。JETROでは北京、上海、青島に計10年間駐在し、日系企業の中国進出を支援したほか中国市場を調査。1968年生まれ。