コラム

2019年9月25日号

 恩師である高校時代のラグビー部監督に数十年ぶりで会って、開口一番「いま、小学生をコーチしています」と伝えると、昔から言葉少なだった監督は「そりゃ恩返しせんとな」と、まずひと言だけ返してきた。再び月日が流れたが、この短い言葉が記憶に残る▼田舎の高校の初心者だらけのチーム。筋骨隆々のラガーもいたにはいたが、鈍足やひょろりの細身、運動オンチも混ざった頼りない集団だったに違いない▼それでも監督に熱心に鍛えられ、高学年になると皆それなりに引き締まったいい顔になった。チームの結束も高まった。ずっと後になって「ラグビーに恩返しせんとな」といわれ、監督の目を見て自然にうなずけた。言葉を重ねなくても通じるものがある▼ラグビーワールドカップの日本初開催で、久々にラグビー人気が盛り上がりを見せる。バラエティ系のテレビはチーム内の「いい話」や「秘話」の発掘に熱心だ。ルール上、常時、体を張った自己犠牲が欠かせない競技だから、感動ネタは多いのではないか▼あるテレビでは、試合に臨む選手が、死の覚悟を、間接的な穏やかな言葉に換えて話す。経験わずかのこちらも、思いが感染したように気持ちが高ぶる▼必死さ無しにはできないラグビーは、瞬時の判断、組織の連携でクールな頭脳も欠かせない。そして激闘の後のノーサイドの精神。なんだか熱い人生の縮図のようである。オフタイムはしばらく、この紳士のスポーツに酔ってみたい。