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モノづくり総特集「働き方改革」

生産財マーケットに変化

―今号(9月25日号)の紙面特集より、ここではモノづくり総特集「働き方改革」を掲載―。
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IoTやM2M、見える化の提案が拡がる
(昨年のJIMTOF、DMG森精機のブース)

 人手不足が深刻になってきた。そう実感する企業は多い。帝国データバンクが今年8月下旬に実施した意識調査によれば、回答した1万社の約半数が人手不足を実感していた。人手不足によって需要への対応が困難になり、時間外労働の増加も生みかねない。また新たな事業・分野へ展開しにくくなるといった面でも、すでに影響が出ている。
 少子高齢化による日本の人口減少は「さらに進行する」との見方で一致する。国立社会保障・人口問題研究所では08年の1億2808万人をピークに、30年に1億1638万人、60年には8877万人まで減ると見る。
 これに伴い生産年齢人口(15~64歳)の割合は、08年の64・5%から60年に51・9%まで減少するとの見立てだ。こうなると国民の消費額が減少し内需市場の縮小が避けられないばかりか、国内産業の稼ぐ力が次第に弱まることにつながってしまう。
 だからこそ企業の「生産性向上」が至上命題として急速にクローズアップすることになった。

644万人足りない

 今年3月、パーソル総合研究所と中央大学が発表した予測は産業界に衝撃を与えた。前出の社会保障・人口問題研究所の推計を基に30年の人手不足数を試算したところ、労働需要7073万人に対し、労働供給は6429万人にとどまるという。差し引き644万人足りないというのだ。
 この試算は、30年の実質賃金(時給)が17年比14.2%増の2096円まで上がることを前提にしているが、「もし賃金の上昇がここまで到達しないと、不足数はさらに大きくなる。国や企業はこれまで以上に賃上げの努力をすべきである」と提言する。ちなみに644万人のうち、最も足りなくなる産業はサービス業の400万人、製造業で38万人だった。職業別に見ると、専門・技術職が212万人でトップ、生産工程従事者が60万人不足するという。
 もっとも、将来を見る以前に、すでに日本の製造業は「人の確保」という点で近年厳しい状況にある。
 令和元年ものづくり白書は国内製造業の従業員数について「1997年から20年間で20%以上減少していることを確認した」と記す。新規学卒者の入職数は2010年を底に持ち直しているものの、中小企業(300人未満)は依然減少に歯止めがかかっていない。
 こうした状況において、人手不足が与える影響を単にマンパワーの不足・低下と見るだけでは片手落ちだろう。白書は団塊世代の大量退職に端を発した「技能継承問題」との絡みを重視し、「人を確保しても、技術継承が進みにくい状況にある」といった意味合いを記す。
 というのも、現状は熟練技能者の雇用延長・再雇用に取り組む企業の割合が減少する一方、新規学卒者や中途採用を増やす企業が増加しているからだ。技術の「伝え手」が退職するという問題は、技術の「受け手」が「伝え手」不在で育ちにくいという問題にシフトしている。

生産性と時間短縮

 このように、生産年齢人口の減少傾向のなかで、既に様々な問題が浮上している。
 だがここで視点を変え、人手不足を跳ね返す為の「労働生産性の向上」という点に着目してみたい。
 残念ながら現状の日本の労働生産性は決して「高い」と言えず、直近2017年の時間あたりの労働生産性は47.5ドルであり、OECD(経済協力開発機構)加盟36カ国中20位と「中の下」にランクされている。生産性は前年から1.4%上昇したものの、順位に変動はなかった。
 それでも内容を見ると光明はある。17年の結果では、就業者数の増加が生産性低下の要因となったが「名目GDPの拡大と平均労働時間の短縮」が生産性にプラス効果を与えていた。生産性向上に向けた企業努力が実を結びだしたことは確かだ。
 「働き方改革」の法整備が進み、産業界全体で長時間労働解消に向けた動きが活発になっているが、狙いの本丸は「生産性向上」だ。
 前出のパーソル総合研究所と中央大学は、人手不足対策のひとつとしてやはり「生産性向上」を挙げた。推計した30年の労働需要7073万人に関し、今後4・2%の生産性向上が可能になれば298万人分を削減できる旨を述べる。
 また「自動化が30年まで十分進むと仮定すると4・9%の工数を削減できる」ともした。

人手確保に貢献するツール類、 熟練者ならずとも高効率な作業実現

 以上のような中で、製造業における自動化指向は年を追って強まっている。果たして実際のマーケットはどうなのか。
 製造現場でヒアリングし、また機工関連商社の営業幹部ら20人ほどに市場観を聞くと、多くの現場が「自動化」に向けて一気に走りだしているわけでもなさそうだ。だいいち完全自動化よりもむしろ、工程によっては半自動や手動でやった方がスムーズに仕事が進むケースも多い。
 こうしたことから、導入費用を抑えながら生産性を上げようという動きが自然と広がっているようだ。「最初にロボットありき」ではなく、現場視点で時間短縮につながる設備やツールをじっくり選ぶ傾向が強まっていることが取材を通じ浮き上がった。
 こういう観点から生産財市場の最近動向を見つめ直すと、まず人手不足対策としては、3K(きつい、汚い、危険)を排除した「職場環境づくり」。雇用者を辞めさせない為の「作業等の負荷低減」。熟練工に頼らずとも作業を高効率に行えるようにする「扱いの簡単なツール類の導入」などを意識的に進める動きが広がっていることがうかがえる。これらが生産財マーケットに変化を与え、さらに極端にいえば、人手不足対策の高まりが新たな市場を形成している面も見えるようである。
 一方で「生産性向上」に向けた取組みも、ロボットなど自動化設備に対する投資と同時に、「現場の見える化」、「IoT関連ソフトの導入」「製造(工程)管理システムの導入」「帳票類の電子化」などを中小企業を含め比較的スモールスタートで実施するところが増えてきているようだ。
 ある事情通は「品質重視の流れのなか、全数測定を強いられるような現場で測定工程の人手不足感が極度に高まると同時に、測定の生産性を工数をかけずに上げていくことが喫緊のテーマになっている」と強調する。このことを背景に「測定工程のプロセス改善が現場で進みだした」とする。
 例えば測定データを無線等で飛ばし一括管理するシステムが注目を集めたり、カメラシステムにより目視での検査を自動化するツールシステムに引き合いが増えたりがトレンドになってきた。測定機器大手が測定の前後工程もカバーする形でオートマチックなシステム提案を本格化させるなどの動きもみられるという。
 測定ではCADのアノテーション(指示事項)にダイレクトに連動し「測定すべきところを、素早く測定パスを生成して自動で測定する」といったシステムも数年前から普及期を迎えており、「人手不足対策や生産性向上」を考える上で、測定周辺が先行モデルとなる可能性もありそうだ。

スモールスタートの意識じわり、問題意識持ち必要箇所から「見える化」

 人手不足対策も、労働生産性の向上というテーマも「第一歩は見える化からだ」と強調するのは、ある企業のマーケティングリーダー。
 製造・生産の量を増やし、一方で残業時間を減らすという二律背反の壁に挑むには、改善の余地を、問題点を、ネックとなる部分を明らかにして対応する必要がある。不良データや不良率の把握とその原因究明、またヒト(労働実態把握)に関しては勤怠管理などの精度を上げる必要もあろう。
 「見える化をしっかり実現した後で手を打つべき」(同)というのは、もっともな事だ。
 その見える化は、IoTプラットフォーム等をベースに、仕事全体を網羅して隅々までの可視化を実現する仕組みが整ってきている。しかし今までは「IoT化=見える化」という手段を目的にしてしまい、うまく活用が進まない(=よって普及が遅れる)というきらいがあったのではないか。
 本紙に「現場実践主義のIoT・M2M」を連載中のKMC・佐藤声喜社長は「IoT、AI、ロボットは単なる道具であり手段。世の流れは時代に遅れまいと手段に走る傾向が強いが、手段先行のIoT導入は危険で効果を生まない」と断言してきた。
 そうした意見が増えるなか、ユーザーサイドでまず問題解決意識を明確にして、スモールスタートで見える化を活用するケースが最近拡がりをみせようとしている。
 一方で生産財を提供するプレーヤーも、比較的安価で導入しやすい、かつ業種業態によって異なる「問題のツボ」を心得た「見える化」システムを次々提案しだした。
 できるところから始める―という流れは、この十年以上、製造や生産の現場で大きなテーマにされてきた「全体最適」の考えと一見、相容れないように映る。だが「継続発展型」で部分から全体に効果を敷衍させていく考えは、システムを提供するメーカーサイドも極めて重視している。
 見える化をベースにした生産性向上の動きに、いい流れが出てきたといえないか。

自動化、パッケージタイプに関心、できるところからステップ・バイ・ステップで

 自動化の方向でも似た現象が広がりつつある。
 自社のラインや設備を一気にオール自動化するのではなく、スモールスタートで必要な箇所から自動化に挑む動きが現場サイドで自然に進む。一方で自動化設備を提供する側も、そうしたやり方がベターだと指摘する。
 FA・ロボットシステムインテグレータ協会の会長で、システムインテグレータ・三明機工の社長である久保田和雄氏は、かつて本紙主催の座談会で次のように話した。
 「例えば100種類のワークがあるとして、加工や搬送を全部自動化するという考えはそうそう出てこないし、実際問題かなり無理があります。こうした場合、インテグレータとして私どもは、一つひとつ自動化していく方向をご提案し、納得いただいたうえで仕事を進めています。そういうお客様とは関係が続いていきますね。自動化をステップ・バイ・ステップで追加され、わたしどもが都度インテグレーションを担う。こういう形が確実に効果を出しやすいと思います」。
 ステップ・バイ・ステップの自動化への取り組みに合致する形で、導入も使い方も容易な「パッケージタイプ」の自動化システムが様々提案されるようになってきたことも注目だ。
 工作機械にロボットを一体化させ、あらかじめ絶対精度を保ってどこでもリプレイスが効くようにしたものが一つ。「展示会において抜群の集客力になっている」(商社)の評がある。仕分けの自動装置なども、モジュールの組み合わせで自在に容易に導入が図れるようになった。
 スモールスタート、ステップ・バイ・ステップによる自動化実践の流れは今後太さを増しそうだ。