識者の目

難削材加工の現状と解決に向けたアプローチ 

 航空機やインプラント、エネルギー機器などの需要の増加に伴い、CFRPやチタン合金、ニッケル基超耐熱合金などの難削材の高度な切削加工技術が強く求められている。燃費、環境、安全は自動車と同じく航空機において最も重要な課題であり、難削材はこれらの課題解決のための軽量化、高性能化に不可欠な素材として機体やジェットエンジンに多用されるようになってきた。
 最新の燃費と静粛性に優れるジェットエンジンは、チタン合金に縁どられたCFRP製の大きなファンにより推力の多くを得ており、極端な言い方をすれば、タービンを、ファンを回転するための高効率な動力源として使用している。
 自動車に例えると、エンジンを高効率な発電に使用し駆動力を電動モータで得る状況に似ているが、高効率なタービンを実現するため、セラミック複合材や金属間化合物TiAlなどの新しい素材が使用されるようになり、難削材加工の守備範囲がますます拡大している。

■多品種少量はAMへ
 難削材加工では、難削材自体が高い高温強度や工具との強い親和性などの複数の削りにくい特性を有するだけでなく、ブレードや薄いリブ構造など、剛性が低くびびりやすい構造を有するもの、軽量化のための複雑な肉抜き形状を有するものが少なくない。
 仕上げ面の諸特性に対する要求も高いため、難削材加工では技術力や経験の差が現れやすく、これが難削材加工技術を価値あるものとしている。
 加工技術の差別化を図り、その価値をさらに高めるためには新しい技術の導入と進取の精神が不可欠であり、また、総合的かつ地道な技術の開発と蓄積が同時に求められる。
 近年、多品種少量生産の部品に対し金属AM(3Dプリンティング)が適用され、一体化による部品点数の低減や信頼性の向上が図られている。ジェットエンジンでは燃料ノズルが金属AMで作られるようになってきたが、複雑な少量生産部品に対しては切削からAMへの加工法の転換要求は不可避であろう。切削と金属AMを組み合わせた高度な複合加工技術の開発はすでに始まっているが、難削材に対してもその重要性はますます高まるものと予想される。

■切削工具の進化
 難削材加工をけん引する重要な技術のひとつが切削工具の進化である。
 ダイヤモンドコーティング工具は、刃形の最適化によってCFRPの穿孔やトリミングにおいて剥離やむしれなどの損傷のない高品位な仕上げと優れた耐摩耗性を実現した。ダイヤモンドの本来の切削性能を最大限に引き出すため、丸みをおびたダイヤモンドコーティングの刃先を鋭利に仕上げるためのレーザ加工技術など、更なる高性能化のための技術開発が進められている。
 チタン切削に関しては、これまでTiAlNをベースとしたコーテッド超硬が多用されてきたが、ギヤスカイビングに用いるピニオンカッタのコーティングとして高性能化が図られてきたAlCrNをベースに、チタンの高速切削用のコーテッド超硬が開発された。チタンを含まない本コーテッド超硬の推奨切削速度は高く今後の発展が期待される。また難削材の切削において驚異的な性能を示すバインダレスCBN工具、びびり振動を抑制し高能率な切削を実現する多くの種類の不等リードエンドミル、CAMでの対応が可能になり使いやすくなったバレルエンドミルにも注目したい。

■高圧クーラントに期待
 多少の投資が必要であるが、大きな費用対効果が期待される要素技術が高圧クーラントである。
 難削材の旋削においてチップブレーカが有効に作用しないとき、高圧クーラントが切りくずを簡便に破断できる唯一の手段となる。しかし、難削材の切りくずを良好に破断するには、下図のように標準的な圧力7MPa(1000psi)以上の超高圧クーラントが必要となることが多いので注意を要する。
 下の図は、チタン合金、インコネル、ステンレス鋼の旋削に関する学術論文の結果からクーラントの圧力と切りくず形状の関係をまとめたものである。縦軸は図中の切りくず形状に対する分類番号であり、番号が大きくなるほど切りくずは短くなる。
 高圧クーラントで切りくずを細かく破断できれば、深さと直径の比L/Dが10以上の深穴の加工であってもドリルを頻繁に引き戻すステップ加工が不要になり、加工時間を10分の1程度に短縮できる。費用対効果はドリル加工が最も大きいといわれている。

東京電機大学特別専任教授(東京大学名誉教授)帯川 利之