オヤジの喜怒哀愁

2019年11月25日号

秋は日本酒

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 日本酒は辛口が好きだ。口に含んだときにキレがあって舌にまとわりつかないのがいい。そうして辛口の酒にしょっ辛い肴をアテるのだ。たとえばイカの塩辛。何もなければ塩でいい。
 肴に箸を走らせ再び酒を口に運べばアーラ不思議、辛口の酒のどこからともなくほのかな甘みが湧いてくる。このほのかな甘みを味わいたくて辛口の酒を飲む。
 一本の映画で一度限りの高倉健の一瞬の笑顔、気丈な女のたまさかの落涙… そんなものを見たようなハッとした喜びと発見がある。
 これが日本酒を飲むときの筆者の初手、二手目までの作法。第三手、四手となると酸っぱいものやら苦いものやら甘いものやらに箸を走らせ肴を酒で喉に流し込む。そうすると酒からはいよいよいろんな味が引き出されてくる。その酒の立体構造のようなものが明らかになってくる。不思議なものだ。そして、つくづく日本酒はコメなのだなあ、と思うのである。

 日本酒は相手を選ばない
 ご飯はどんなおかずにもよく合う。おかずを食べているようでいてコメを食べているのだ。同じように日本酒は肴を選ばない。ソムリエ氏はこの料理にはこのワインがよく合うとおっしゃる。もちろんそういう世界は日本酒にもあるのだろう。
 だが、日本酒の醍醐味は料理によって味が変化するところにあると思うのだ。そこのところの事情がブドウ酒とコメ酒とでは少し違う。旨い刺身を食べるとご飯と一緒に食べたくなるけれど、ブドウと一緒に食べたくはならないでしょ?
 料理によって酒からいろいろな味が引き出される。酒によって料理からいろいろな味が引き出される。その相乗効果の結果、料理も酒もお互いを引き立てあって一段とおいしくなるというところに日本酒の良さがあるのではなかろうか。
 いろいろな味が引き出される立体構造のポテンシャルを保持するためには、やはり酒がなるだけ生きているほうがいい。今なら「ひやおろし」か。これは春に一度火入れしたあと低温貯蔵され、秋の二度目の火入れを行わず出荷される。菌が元気なのでばらつきを抑える品質管理は難しそうだけれどその分、肴によっていろいろな味が湧いてきて味わい深い秋を堪能できる。