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北陸3県のモノづくり、北陸の製造業はなぜ強い?

―今号(11月10日号)の紙面特集より、ここでは北陸3県のモノづくりを掲載―。
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 本紙はおよそ1年に一度、活気ある地域の製造業を特集してきた。今回訪ねたのは、首都圏・東海・近畿の3大都市圏からほぼ等距離にある北陸3県(石川・富山・福井)。2015年3月の北陸新幹線金沢開業により首都圏からの所要時間は2時間台に短縮。また環日本海で中央に位置する北陸は、アジアをはじめ海外の玄関口としても重要な地域でもある。北陸の力強さを現地取材から探った。

石川県、強さの源泉を探る

 石川県金沢市は冬になると質素なクリスマスツリーのようなものが現れる。装飾時期が年々早まる都会の派手なツリーに見飽きた向きには、そのシンプルさと凛とした姿が新鮮に映る。雪折れを防ぐため木の上部から細縄を張って枝を吊り上げる「雪吊り(ゆきづり)」だ。観光名所として人気の日本庭園「兼六園」(金沢市、約11万平方㍍)では毎年11月頃からその作業が始められ、縄にまで積もる雪は冬の厳しさを物語る。
 北陸は伝統的な繊維工業、アルミ工業などで培ってきた技術力を生かし、今日では電気・電子工業、機械工業、医薬品、化学など裾野の広い産業集積を誇る。県民1人当たりの製品出荷額をみると日本海側屈指の工業圏と言える(左にグラフ)。
 なぜ北陸の製造業が強いのか。まず地震や津波が少ないことが挙げられる。2017年までの30年間の震災回数は全国最少クラスだ(富山県は震度3以上が27回、震度4以上が5回と全国最少。気象庁資料から)。豊富な工業用水と水力発電を利用した安価な北陸電力もある(富山県の工業用水は1立方mあたり22.00円と全国平均28.18円より2割以上低廉、18年4月現在)。
 訪問先で聞くと冬の厳しさを挙げる人が実に多い。「寒さに鍛えられた粘り強さがある」(イワシタ)、「冬を乗り切ってとことんやる文化がある」(澁谷工業)、「厳しい寒さから愚直でまじめ」(松浦機械製作所、富山県商工労働部、津田駒工業)、「東北ほどではない冬の厳しさがよい」(宝機械工業)、「雪国の人は閉鎖的で土地を愛し、その閉鎖性が製造工程を完結させた」(タケダ機械)といった具合だ。
 記者2人は10月下旬から11月中旬、3度にわたり北陸を訪ねた。金沢市中心部では11月に入ると道路の凍結を防ぐための散水が試験的に行われていた。冬にこの特集をするのは無理だなと思う。いや、北陸の強さの源を知るには冬に訪れるべきなのかもしれない。

富山県、アルミ産業、橋・クルマ・植物工場に活用

 日本のスウェーデンと言われ、暮らしやすさナンバー1ともされる富山県。進学率の高さでも知られる(公立校を対象にした2018年の全国学力調査では小学6年と中学3年で全国4位)。道路整備率全国1位(16年)は、写真の路面電車が走る富山駅前のフラットで広い道路から納得できる。
 しかし富山といえばやはりアルミ産業だろう。
 明治期には急峻な河川のたび重なる氾濫に悩まされたが、明治32年に大久保発電所による送電が開始。それを機に県内河川に相次いで発電所が作られ、昭和10年には全国一の電力県に。高度成長期には難工事の末、黒四(くろよん)ダムが建設された。
 その豊富な電力資源と江戸時代から培われた鋳物技術があいまって、全国でも高シェアのアルミ産業へと発展。いまでは住宅関連や工作機械分野にも進出している。
 ナノテク(昨年終了)、医薬品の次はアルミだと、その特性を最大限生かそうと県が先導するかたちでプロジェクトが進められている。富山大学、富山県立大学、富山県産業技術研究開発センターなどが昨年つくった「とやまアルミコンソーシアム」による、1.炭素繊維とアルミで構成する水素タンク、2.自動車の軽量化、3.橋梁の改修、4.冷却装置—の4つの開発事業だ。
 「アルミは軽くて熱を伝えやすく、そこそこ強い。自動車をはじめとする構造部材、インフラ部材として使わない手はない。また水素にも強いので水素タンクの内張りにも使える」
 4事業の管理を県から委託された(公財)富山県新世紀産業機構イノベーション推進センターの冨田正吾次長はそう話す。4つ目の冷却装置の開発については、三協立山がもつ植物工場の水耕栽培の構造材をアルミでつくれば熱を効率よく逃がせるのではないかと実証研究が進められているそう。LED照明は節電につながる一方で熱がこもりやすい弱点をもつからだ。アルミの用途がどんどん広がっていく。

福井県、新タイプのCFRP、航空機・クルマ・補修工事に

 福井県は繊維や眼鏡、加工機をはじめとするモノづくり技術の蓄積がある。メッキなどの表面処理技術は眼鏡フレームに使われ、これが電子部品にも応用されてきた。繊維機械は工作機械に発展し、近年はCFRP(炭素繊維強化プラスチック)の開発も盛ん。CFRPは航空機部品やF1のボディーにも採用され、「繊維王国」の未来を切り開く素材として注目されている。
 一見ごく普通の黒いプラスチック。手に取るとずっしりと重く、頑丈そうな感じがする。福井県工業技術センターなどが特許をもつCFRPだ。一般に普及しているものは繊維状の模様が見られるのでそれだとすぐにわかる。しかしこの複合樹脂にはそうしたパターンがまったく見られない。
 「繊維メーカー(東レ)がつくった炭素繊維を開繊し、薄くした結果です」
 記者の不思議そうな顔に開繊機メーカー、ホクシン(福井市)の営業マンが教えてくれた。ホクシンは、30年前から研究に取り組んできた福井県工業技術センターと共同でCFRP製造技術の特許を取得。数年前にその期限が切れたが、樹脂を速く染み込ませて生産効率を高められるアイデアで特許を新に取得したという。
 同社はCFRP用の開繊機を年に1、2台受注生産する。開繊機は繊維に振動を与えたり空気を送ったりして、厚みを0.02~0.04ミリに平らに延ばす(右に写真)。薄くするメリットはいくつかある。繊維をムラなく積み重ねられ、樹脂を浸透させやすい。同社は「薄いので積層の回数を稼ぐことができ、強度が増す」と言う。
 CFRPに絡んでは金沢工業大学と三谷産業がインフラ改修に応用できる新たなシートの研究開発に乗り出す。プラズマ照射を施してシートに高い接着性をもたせるもので、老朽化した橋梁の補修工事に使えるという。
 薄い繊維の産業が北陸で厚みを増しそうだ。