オヤジの喜怒哀愁

2019年12月10日号

広辞苑

27581

 ボーナス・シーズン。とはいえ、大企業や役所を別にすれば「今年はいくら出るのだろう」「本当に出るのか」と気を揉む年の瀬ではなかろうか。3年前に就職した娘はボーナスがちっとも出ないと言ってさっさと年俸制の会社に転職してしまった。そのほうがスッキリしていいのだそうだ。ボーナス時期のたびに気を揉んだ挙句、ガッカリさせられたのでは仕事を代えたくもなるだろう。
 小生が34年前に社会人としてスタートを切ったのは小さな出版社。浮沈の激しい業界ゆえ業績によってボーナス額の変動は大きかったけれど、それでもゼロということはなくて、年末調整の還付金もあったりしてそれなりに懐が温まってなんとか年は越せたと記憶している。
 その頃、つい財布の紐が緩んで割と高い辞書をボーナスで買った。この辞書をいまだに持っている。奥付を見ると1991年版、定価6500円とある。版は異なるがこれと同じ辞書が出版社の「デスク」の机の上に置いてあった。デスクというのは、新聞出版業界の専門用語である。話を整理するためにちなみにデスクを辞書で引くと「①つくえ。事務机。②新聞社の編集局内勤者で、記事の取材・編集を指揮する者。」とあり、ここではつまり辞書の言う②のほうの意味のデスクの机の上に辞書が置いてあったという意味だ。余計にややこしいか。

気がつけば…
 デスクはこの辞書を時折引いていた。眼鏡を外し、辞書を舐めるかのように顔を近づけて辞書を引いていた。老眼である。
 会社にいるときはたまにこの辞書を借りて引いた。なのでボーナスで購入したのは自宅用。厚さが10㌢もあるような大部の辞書を自宅でさして必要としていなかったと思うが、編集記者、出版人として身を立てるためには大部の辞書の一冊も所蔵していないでどうする、と意気がっていたのだろう。
 インターネットやIT辞書の普及でことに高額大部の辞書は売れないだろう。小生も最近はついパソコンで字引きを済ませてしまうことが多くなり、以前ほどこの辞書を使わなくなっている。だが、字句の説明の深み、用例の巧みさではやはり辞書にいまだにやや分があるように思われる。気がつけば小生も眼鏡を外し、舐めるようにして辞書を引いている。すでに鬼籍に入って久しいあのデスクのように。

(2019年12月10日号掲載)