オヤジの喜怒哀愁

2020年1月1日号

真空管アンプ

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 5年ほど前に知人が不要になったからといってスピーカーを譲ってくれた。調べてみると1973年に作られた伝説的名器である。いい音がするはずだ。ところが、である。いろいろと調整してもシャカシャカと硬い音がしていい音がしない。
 一緒に使っていたアンプは1986年製のトランジスタのアンプ。重さは20㌔もあり、動かす時は腰に細心の注意を払う必要がある。中古で手に入れた定評あるアンプメーカーの中級品で発売当時に定価で買えば10万円以上はする。そこそこいい音で鳴ってほしいと思うのだが、ダメなのである。
 スピーカーは名器とはいえなんせ製作から46年も経っている。どこか故障していてもおかしくはない。人間だって歳の頃からいって体にガタがくる時分だ。しかし、知人がジャンク品を押し付けるとも思えない。「いい音がするよ」と言ってくれたのだ。一時はとうとう押入れにお蔵入りしていた。

眠り姫
 半ば諦めていたが、60~70年代は真空管からトランジスタへの端境期にあたり、ひょっとすると真空管アンプのほうが鳴るかもしれないと思い始めた。真空管アンプは俗に「球(たま)のアンプ」、トランジスタ・アンプは「石のアンプ」なんて呼ばれている。
 そんな矢先、手頃な値段で真空管アンプが手に入ることを知った。自作用のキットとして2万円強で販売されていた物ですでに生産は終了したが、ネットで中古品が流通している。
 手先の不器用さには自信がある。幸いなことにどなたかが組み立てた完成品が1万5千円で出品されていたので注文すると3日ほどで手元に届いた。見れば、弁当箱をひと回り大きくしたくらいのサイズで片手で持てる。腰に負担はかからない。
 なんとなく頼りない感じだが、さっそく配線して音を出してみると、これがナント鳴る、鳴る。力があり、太い音がする。こんな弁当箱みたいなアンプで30㌢ウーハーがドライブするのかと信じられない。狐につままれたようだ。
 バランスもよく、素晴らしい音がする。球のアンプの凄さに驚くとともに、改めてこのスピーカーは本当にいいスピーカーだったのだな、宝の持ち腐れだったなと思った。
 球のアンプという王子のキスで伝説的名器が長い眠りから目覚めた瞬間だった。

(2020年1月1日号掲載)