PICK UP 今号の企画

モノづくり2020:変革の先に待つ未来

―今号(1月1日号)の紙面特集より、ここでは「モノづくり2020:変革の先に待つ未来」を掲載―。
27707

ヘキサゴンのVRデモ
(EMOハノーバー2019)

 米中貿易摩擦をはじめ、目まぐるしく変わる国際政治情勢に振り回された感のある2019年。世界経済の減速感が明らかになるにつれ、前年まで沸きに沸いた設備投資需要は「様子見」で一気にしぼみ、未曽有の台風被害が追い打ちをかけた。
 しかし、決して需要そのものが立ち消えてしまったわけではない。日本では少子高齢化による人手不足がかつてないほど深刻化し、ロボットや自動化機器の活用ニーズが幅広い業種に広がっている。AI技術も着々と進化し、2020年春に商用化がスタートする5G(第5世代移動通信システム)がデジタルトランスフォーメーションを一気に加速させるとの期待も大きいようだ。2020年夏には、東京オリンピック・パラリンピックも待ち構える。世界中のあらゆる人の注目が日本に一気に集まる、56年ぶりの好機が目の前に控えているのだ。
 年初恒例の新春産業展望前半の今回は、デジタル(ツイン、トランスフォーメーション)や5G、CASE、建設需要と新たな加工技術に加え、国際ロボット展2019に見る最新ロボット技術、東京オリ・パラで見る新技術など、変革の先に待つ未来のモノづくり像を探った。

デジタル・ツイン、未来の標準に? リアル⇔仮想 が改革の起爆剤

 「デジタル・ツイン」がモノづくりの世界でクローズアップされている。先進的な展示会等では、この言葉をキャッチにして関心を集めようとする動きがいま、引きも切らない。
 デジタル・ツインとは、デジタルのサイバー空間に現実世界を仮構築し、それを現実とリアルタイムに同期させる(ツイン=双子にする)試みだ。もともとCADやPLM業界で15年以上前から唱えられてきたが、これは、モノづくりの初期工程(設計)に負荷をかけて完成度を高め、製造・生産など後工程をスムーズに進めようという「フロントローディング」の考えが、当時からこうした業界に根強くあったことと重なる。
 それがいま注目されているのは、まだ理想であり一種の方向性にすぎなかったものが、テクノロジーの進化で広く利用価値が認識される状況に来た証でありそうだ。
 去る12月に東京で開催された国際ロボット展。ロボット世界最大手の一角である安川電機は、協働ロボット数台を用いた高精度なデジタル・ツインの搬送デモを披露した。左の写真のうち、右に置いたのはモニター画像で左がAR、右が現実のライン画像、次に左の画像は現実のロボットライン。二つの動作は鏡写しのように一致し、どちらが現実か見分けさえつきにくい。
 現実のロボットの状態やコンベヤ上を流れるワークの位置・姿勢などは、環境ビジョンで常時モニタリングされている。同社によると「何らかの要因でタイミングがずれたとしても、隣接したロボット3台がぶつからずに正確に作業できる。ちょっと待ってから動くなど、コントローラ側で自律的にロボットの進入可否を判断できる機能をもたせたのがポイントだ。従来のオンラインシミュレーションのようにプログラム修正の手間が要らず、ライン停止を抑えられる」と言う。
 世界最大級の工作機械見本市、ドイツの昨9月のEMOショーでは、時代のキーワードが従来のインダストリー4・0からデジタル・ツインに移行した感さえあった。
 一例としてヘキサゴンでは、VR(バーチャルリアリティ)によるデジタル・ツインで、未来の製造プロセスを見せた(右写真)。
VR用のゴーグルを装着すると目の前の仮想空間上にバイクが出現。この仮想空間上で、バイクのサドル部分をスキャンすると、現実世界でサドル部のリバースエンジニアリングが始まった。仮想空間に映し出される自分の手でソフトを使い、加工プロセスの検証もできる。ヘ社では「製造や測定装置を持たない開発センターなどでも、スピーディに製造工程を検証できる」とメリットを話した。
 EMOショーでは日本企業もデジタル・ツインをアピールした。牧野フライス製作所はシミュレーションから最適な加工スケジュールを自動で割出せるデモを実施。井上真一社長は「リアルタイムの受注情報に応じてCADデータから自動で加工パスを生成するほか、加工機や搬送の組み合わせを含め、最適な加工スケジュールを導き出せる。実加工との差異からパラメータを修正して進化する自己学習機能も備えた。今はコンセプト展示だが1年ぐらいで商品化できるのではないか」と話していた。
 デジタル・ツインの分かりやすい身近な例として「カーナビ」が挙げられるが、カーナビは基本、道路という平面世界を現実に同期させるものだ。翻って加工やロボット動作には空間が加わるうえ、様々な条件、検証要素、要求精度等が絡むなかでQCDを高めるという、難題が付加されている。
 このため、当初からデジタル・ツインを唱えてきたCAD世界大手は、こぞって巨額を投じ、CAE系(解析・検証ツール)メーカーを次々買収してきた。今振り返れば、その狙いが明らかに見える。
 ただし、まだデジタル・ツインですべて効率よくうまくいく状況にまでは至っていないようだ。実際、バーチャル検証等の結果を当て込んだ誤算は、大手メーカーからも伝え聞かれ、現場での再検証などは少なからず必要のよう。
 とはいえ、モノづくりの未来の標準が徐々に形になってきたことは確かだろう。

5Gで急加速するデジタルトランスフォーメーション

 「デジタル・ツイン」と並んで、ここ1~2年で急速にメディア露出が増えてきたのが「デジタルトランスフォーメーション(DX)」だ。大雑把な定義としては、「デジタル技術を活用したビジネスの変革」と言え、その概念自体は決して新しいものではない。大枠で見れば、PCの活用や工作機械のCNC化など、前世紀後半から続いてきたデジタル化の流れ。前述のデジタル・ツインもDXの一つと言える。
 ただ、社会背景の変化がDXの急速な推進を余儀なくさせている。特に日本の製造業にとって、次代の生命線を左右する悩みは「ノウハウの消失」だ。
 現場の技術を支えてきた団塊世代はもはや退職期が過ぎ、技術者・ワーカー不足が深刻化する一方で、幼いころからスマホやタブレットを使いこなしてきたデジタルネイティブ世代は「見て、耐えて、覚える」という古い学び方を良しとはしない。
 技術者の中に、もしくは古くて使いにくいデータベースやマニュアル本に溜めこんできたノウハウの数々は、旧態依然とした伝承法ではもはや次代につながれないと危惧されるようになった。
 では、どうすればよいのか。DXによる解決提案例を、12月に開催されたSEMICON Japan(東京ビッグサイト)のデロイトトーマツのデモブースで発見した。
 設備が何も置かれていないブースは一見、ただの空きスペースに思える。だが、説明員から手渡されたタブレットをかざしてみると、目の前にアヒルちゃん玩具の製造・検査ラインが出現した。つまり、AR(拡張現実)によるデジタル・ツインのデモ展示というわけ。「実際の工場ではタブレットのほかARグラスを装着するなどして、技能伝承、人・設備のモニタリング、故障予知、設備保守まで、ARで作業全般をサポートできる」(同社)と説明する。
 アヒルちゃんの足を組み立てる工程にタブレットをかざすと、バーチャル組立ライン上にデジタルマニュアルが出現。新人でも手順を迷いにくい。また、AR上の加工機の前でタブレットをかざすと、内部モータの稼働データや温度状態などが画面に表示され、モータの故障を予知した上、部品の不足状況や手配画面、メンテ日程のカレンダーまで示された。
 デロイトトーマツによると「海外の半導体製造工場でAR活用の事例があり、国内では半導体に限らず、保守サービスのほか、現場の技能伝承に期待が大きい」。技能伝承を特にクローズアップしたのは、バーチャル空間上で作業手順などをテストした場合、間違いやすいポイントを再現しやすく、熟練者によるリアルタイム遠隔指導もしやすいためだ。同社では「5G(第5世代移動通信)の実用化で高精細な画像を瞬時に通信できるようになり、AR活用によるデジタル・ツインをはじめ、DXの流れが一層加速する」とみる。

ローカル5Gが製造業に劇的な変革、日本市場2030年に1.3兆円へ

 日本では2020年春から5Gの商用サービスがスタートする。その世界需要額については、(一社)電子情報技術産業協会(JEITA)が19年末に初めて発表した。
 推計によると、5Gの世界需要額は2030年に168・3兆円と、18年比で約300倍にまで急拡大する見通し。品目別にみると、IoT機器は自動運転車やロボット、ネットワークカメラなどが需要をけん引する。一方でソリューションサービスにおいては製造、金融、流通・物流などが需要をけん引するとみられている。超高速大容量・超低遅延・超高信頼・多数同時接続という5Gの特性を生かし、民生・産業用途を問わず、工場、病院、農場、建築現場、スタジアム、街など多様な場面で新たなサービスが生まれる見通しだ。
 5Gにはパブリックエリアでキャリアの公衆網に接続する「WAN5G」と、工場や病院、建設現場などクローズドな空間でプライベートに利用できる「ローカル5G」がある。JEITAの調査では、後者のローカル5G市場についても推計し、世界市場は2030年に10・8兆円に拡大するとみた。日本のローカル5G市場は2030年に1・3兆円にまで成長する見通し。日本のローカル5Gソリューションサービスの市場として最も期待されているのは製造分野だという。
 ローカル5Gはキャリアに依存しない自営ネットワークのため、通信環境を占有できるのが大きな魅力となっている。機密情報を高セキュリティで担保できることや災害時・緊急時なども通信が安定していることなどから、これまで無線化が進んでこなかった工場や農場、建築現場などでの導入が見込まれている。

■5G実験、世界で100以上に
 5G環境がもたらす製造現場の課題解決例については、総務省が5G総合実証試験などで具体例を示している。建機の遠隔協調操作による人手不足解消、配線レスで配置換えがしやすい次世代ロボット製造ラインなどが、その代表例だろう。そのほかにも、ローカル5Gビジネスを推進する富士通では、「自動車部品の検査工程に5G環境を適用した場合、ノイズの無い高精細画像をクラウドに送信できる。クラウド上のAIで解析して不良判定を高精度に行えるほか、不良判定した部品をライン外に避けるよう遠隔指示も可能になるだろう」などと事例を紹介していた。
 国際ロボット展2019では、オムロンが人と機械が協調する5G生産ラインをデモ展示した。無線ネットワーク化された生産設備と同社の自動搬送ロボットを組み合わせることでレイアウトフリーの需要変動に即応できる生産ラインを構築したほか、面白いのは「リアルタイムコーチング」にまで踏み込んだ点だろう。作業者の作業動線や、骨格の動きを投影した映像などを収集し、AIで解析。「熟練者との違いを作業者にリアルタイムにフィードバックすることで生産性の向上と早期習熟をサポートする」とする。
 こうした5G実証実験は2020年の大きなトレンドになりそうだ。デロイトトーマツが19年末に発表した産業予測レポートによると、「2020年末までに世界中で100以上の企業がプライベート(ローカル)5Gのテストを開始し、サービスと機器に合計数億ドルを投資する」と予測している。製造工場、物流センター、港湾などの大手企業が主な対象。「IoTなど他のエコシステムテクノロジーと連携し、5Gは世界中の企業を劇的に変革する」とコメントしている。