オヤジの喜怒哀愁

2020年1月25日号

森の音

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 前回の真空管アンプの話の続きになるけれど、いまオーディオの世界ではレコードや真空管アンプ、カセットデッキといったアナログ製品の人気が復活して話題を呼んでいる。先日、家電量販店に行ったら一時はまったく姿を消していたレコード・プレーヤーが3、4台置いてあって、なるほど売れているのだなと思った。 オーディオ・メーカーは音響環境の整った測定室で機器の性能を計測し、なんHzの音が出ているから真空管よりトランジスタのアンプのほうが優れている、ノイズがこれだけ低減されているからレコードよりCDのほうが音がいいと主張したわけなのだが、いや、アナログのほうが音がいいというユーザーが少なからずいる。

測定不能の感性 
 一般ユーザーはオーディオ・ルームを持っている人など稀で、居間や個室の棚の上か何かにオーディオ機器を置いている人のほうが多いだろう。2本のスピーカーの中央に陣取って音楽を気合を入れて聴く人もいまや少数派ではなかろうか。
 なので、Hzとかノイズとかいわれてもよほどのマニア以外はピンとこない。それよりも彼らの多くは楽曲を楽しんでいるのであって、その全体的な印象がいいのか悪いのかが大事だ。そして、その全体的な印象がアナログのほうがいいという人が存在する。
 暮れの紅白歌合戦に初出場した竹内まりやさんは、スタジオで出来上がった音を聴いた後、そこらへんに置いてある小さなCDプレーヤーで必ず音をチェックするそうだ。それはたぶん、再生装置が代わっても楽曲全体の印象が変わらないかどうかをチェックしているのだろう。技術者たちが原音を忠実に再現したいと努力するのは自然なことで、そのために生音と再生音を測定室で比較測定するのも結構だ。が、ユーザーが感じる「いい音」とはもっと全体的な印象である。
 そもそも大きさも形も違う様々な楽器を百人からが演奏するオーケストラの音を四角い箱のスピーカーで鳴らそうというのだから自ずと限界があるし、一方ではライブよりもレコードの音が好きだという人もいる。何をいい音と思うかは多分に主観的な側面を持っている。それは感性であって、測定することはむずかしい。
 アナログ人気の復活は、木ばかりに捉われて森の音を聴こうとしない、感性を失くしたメーカーへの警鐘なのだ。