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モノづくり2020「大変革時代への挑戦」(後編)

中小の時間外規制始まる

―今号(3月25日号)の紙面特集より、ここではモノづくり2020「大変革時代への挑戦」(後編)「中小の時間外規制始まる」を掲載―。
 当たり前だった働き方を問われる時代がやってきた。働き方改革関連法の施行に伴い、経営者の意識も変わらざるを得ない状況だ。別の角度から見れば「組織が変わるチャンス」と言える。まだ取り組みは始まったばかりだ。とくに関心の高い「長時間労働」にスポットを当てる。
 今春、働き方改革に向けた取り組みがさらに加速する。1年間の猶予があった中小企業も「時間外労働上限規制」の対象になるからだ。
 「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(働き方改革関連法/=左下図)の施行によるもので、上限は月45時間(年360時間)。臨時的かつ特別な事情があった場合も別途上限が設けられている。いずれも超えたら罰則(6カ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金)が科される恐れがある。
 長時間労働の是正に「過労死防止」の意味が込められていることは言うまでもない。実際に月80〜100時間を超える時間外労働者の労働災害認定件数が増加しているうえ、一人あたりの年平均労働時間もOECD加盟国のなかでも多いのが現状だ。
 内閣府が今年2月に発表した分析調査「日本経済2019-2020」では「平均的に労働時間の短縮が進んでいる」としながらも、男性の労働時間はいまだに長く、週49時間以上働く就業者の割合は27%と、韓国の30%を除けばOECD諸国よりも高いとした。

依存体質の解消へ

 働き方改革関連法の施行で関心が高まりつつあるものの、中央大学大学院(戦略経営研究科)の佐藤博樹教授は「長時間労働の解消のみが優先され、働き方改革の取り組みを欠いた単なる残業禁止などは、不払い残業などを増やす可能性が高い」と説く。
 重要視するのは仕事が終わらないときに安易に残業すればいいと考える「残業依存体質」の解消だ。時間意識の高い働き方への転換が必要という。
 「時間意識の高い働き方とは、管理職だけでなく職場成員のひとり一人が、『時間』を有限な経営資源と捉えて仕事をすること、つまり高い『時間意識』を持って仕事に取り組むことである。こうした時間意識を持つことが、従来の働き方の改革につながる」
 役割と責任を分担してフラットな組織にするべき。そう話すのは同志社大学(政策学部)の太田肇教授だ。企業は地域や仕事に特化した「専門職」「プロ」を育成する一方、中間管理職が担っている労務管理の負担を減らすことで、本来の仕事に集中できる環境を整えてく必要性を伝える。
 「日本の企業は一人であれもこれもとやりすぎる。『素人集団』とも言える。役割と責任を分担できれば、成果やプロセスが明確になり、評価のポイントも絞りやすくなる。管理職は最低限の人数に抑え、優秀な人材こそ戦略立案や新規事業といった『攻めの仕事』に力を入れてほしい」
 みずほ総合研究所経済調査部は、残業時間規制が経済に与える影響は大きいと見る。「残業時間の規制で労働時間が減少すれば、人手不足感が強まる現状において経済の供給制約をさらに強める可能性が高い」からだ。
 年720時間の上限規制に対して月60時間超の残業が一律に削減されたと仮定した場合、「雇用者全体で月あたり約2億時間(総労働時間の2.4%)が減少すると見込まれる」とし、供給制約を回避するには、生産性の改善、追加的な労働力の確保でカバーする必要があると指摘している。

認知と取り組み

 労働人口の減少が予想されるなか、企業は快適で安全な職場づくりをさらに進める必要に迫られている。事業規模や業界を問わず、「働き方改革」に向けた具体的な行動がなければ、今後の人材確保が困難になりかねない。
 帝国データバンクの最新調査によれば、年末年始に回答した1万292社の約6割が「働き方改革に取り組んでいる」という。2018年8月の前回調査から22・9%の増加。「取り組む予定」も含めれば8割近くの企業が改革に前向きな姿勢を示している。具体的な取り組みは「休日取得の推進」と「長時間労働の是正」が7割(複数回答)に。関連法で年5日の有給休暇取得が義務化され、残業時間の上限規制が設けられたことが影響している。
 多少の猶予期間があったとはいえ、これまでの働き方を見直すことに戸惑いや不安もあるようだ。厚生労働省が都道府県に設けた無料窓口には連日そういった声が届く。
 大阪働き方改革推進支援・賃金相談センターの南龍男センター長は「労務時間の管理に関する問い合わせが圧倒的に多い」現状から、働き方改革の重要性に気付いていない企業があることを危惧する。「残業時間や有給休暇への関心が高まっているからこそ、働き方改革に取り組まなければ人が集まらない。だからこそ働き方改革関連法の施行は企業にとってチャンス」と話す。
 働き方改革関連法の施行からもうすぐ1年が経つものの、完全に周知はされていないようだ。
 全国商工連合会が今年2月下旬に発表したアンケート調査によると、回答した2669事業者のうち「内容・施行時期ともに知らない」と回答した企業は、「時間外労働の上限規制」で19.8%、「年次有給休暇の取得義務化」で11.8%、「同一労働同一賃金」で18.4%(非正規従業員がいる企業に限る)となった。
 この調査で注目すべき点は全回答者の8割が従業員20人以下の「小規模事業者」であること。国内企業の約85%を小規模事業者が占めている現状と照らし合わせて考えれば、働き方改革は緒に就いたばかりと言えそうだ。
 同センターで相談に応じる特定社会保険労務士の南英一氏は、働き方改革の第一歩として労務管理の足元を固めることから始めるべきと話す。
 「驚くことに、タイムカード、雇用契約書、就業規則がない中小企業も少なくない。個々の労働時間が分からなければ、時間削減どころか有給休暇の管理もままならない。さらに仕事の内容を見える化すれば忙しい理由も明らかになる。できることから取り組んでいただきたい」
 基本的なことながら「現状確認は助成金の申請にも役立つ」という。設備導入による時間削減や省人化の効果を検証・試算する下地になるからだ。「助成金は公募期間が短い。常にアンテナを張り続け、いつでも申請できるように現状を把握しておく必要がある」とする。
 助成金や税制優遇のバリエーションは年々充実している(=上表)。3月13日から公募が始まったばかりの「ものづくり・商業・サービス補助金」もそう。さらに、労働生産性の向上を目指す企業が導入する設備について、固定資産税を3年間軽減(ゼロ〜2分の1)する特例措置も設けている。