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アジア国際物流「最適解」を探る

陸のASEAN、巨大経済圏に眠る商機

―今号(5月15日号)の紙面特集より、ここではアジア国際物流「最適解」を探るを掲載―。
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 新型コロナ禍で一息ついたものの、成長ポテンシャルには疑いようのないASEAN諸国。
 未成熟なEコマースや、改善の余地が大いに残されているコールドチェーン、未発達のインフラ整備など、こと物流面においては今後大きく伸長すると目されている。
 「陸のASEAN」と呼ばれるGMS(大メコン経済圏=タイ、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムが含まれる)は、域内に2億3000万人が暮らす巨大な経済圏だ。
 現在、GMSは3つの経済回廊と呼ばれる主要道路によって結ばれている。ベトナム・ダナンからラオスとタイを通り、ミャンマー・ヤンゴンまでを結ぶ「東西経済回廊」、中国雲南省とタイを結ぶ「南北経済回廊」、ベトナム・ホーチミンからカンボジア・プノンペン、タイを結ぶ「南部経済回廊」が域内経済の大動脈としての役割を果たしている。
 南部経済回廊は、タイ・カンチャナブリーから国境を越えて、ミャンマー・ダウェーまでを繋ぐ道路の開発が進められている最中だ。ダウェーでは大規模な工業団地や深海港の開発が進められており、この道路と港が完成すれば、東南アジア東側のゲートウェイがあるベトナムから、インドや中東、アフリカ方面へのゲートウェイとなる西側のミャンマーまで、陸路で一直線に結ばれることになる。
 南部経済回廊には2つのルートがあり、バンコク~プノンペン・ルート(タイ・アランヤプラテート~カンボジア・ポイペト経由)は主に商用ベースで活用されている。労働賃金が高騰するタイでは、部品生産など生産工程のうち労働集約的な部分は労働コストの低いカンボジアの工場で行い、タイの工場で完成品に組み立てる生産分業を行う企業も見られる。
 カンボジア工場の拠点としてはプノンペンのほか、タイとの国境にあるポイペト経済特区が選ばれるケースも近年増えてきている。また、このルートはカンボジアの市場を目指す企業がタイから商品や原材料を輸送する目的でも使われている。
 アランヤプラテート・ポイペト国境は、カンボジア側の道路が片側1車線で生活道路との区別が無く、追い越し時の危険が懸念されていたが、主要道路については再舗装やバイパス整備が少しずつ進められている。
 これまで輸送トラックの相互乗り入れができず、国境で積替えを行う必要があったが、2016年のGMS代表者会議で相互乗り入れを拡大していく方針が決定された。これを受け、タイ側は500台(貨物、旅客含む)に越境通行許可を与えることを取り決めた。
 もうひとつの南部経済回廊である、タイ・ハートレーク~カンボジア・コッコン経由のバンコク~プノンペンルートはタイ湾沿岸の道路で結ばれている。
このルートは特に、バンコク~レムチャバン港~コッコンの区間と、シハヌークビル港~プノンペンの区間が活用されている。前者をメインで利用しているのはタイとカンボジアで生産分業する製造業。後者はシハヌークビル港を利用して輸出入を行う、プノンペンの企業がメインの利用者だ。
 南部経済回廊のうち、プノンペン~ホーチミン・ルート(カンボジア・バベット~ベトナム・モックバイ国境経由)は基本的に片側1車線だが、商用として活発に利用されている。プノンペンで製造したものを日本やアメリカ向けに輸出する、あるいはベトナムからプノンペンに消費財を輸送する目的が多く見られるほか、国境地域(バベット地区)の拠点で製造したものをホーチミンから輸出入させるケースも増えているという。

クロスボーダー物流に課題

 東部経済回廊におけるバンコク~ハノイ間の物流は、従来レムチャバン深海港とベトナムの北部地域を結ぶ海上輸送のルートがメインだった。しかし、東西経済回廊を利用した陸上輸送が可能になったことで、リードタイムが海上輸送の約半分以下に短縮された。これまではハノイからバンコク向けの貨物が少なくバンコクからの片荷状況が続いていたが、ハノイからの二輪車や電気・電子部品輸出が増えつつある。
 2011年に第3メコン架橋(タイ・ナコンパトム~ラオス・カムアン)が開通したことで、直線距離で比較すると2007年開通の第2メコン架橋(タイ・ムクダハン~ラオス・サバンナケット)を通るルートからさらに短縮された。タイ・ラオス・ベトナムの三国間を結ぶルートでは、ラオスのトラックを活用して同三国間の一貫輸送サービスを提供する動きもある。
 バンコク~ヤンゴン・ルートにおいては、2015年にミャンマー側国境のミャワディーからヤンゴンを結ぶコーカレー間にバイパスが開通した。南部経済回廊においても、バンコクからダウェーに抜けるルートの開発が計画されてはいるものの、ミャンマーでは道路舗装や拡張といったハードインフラの整備が必要なところがまだまだ多い。タイ国境間での車両の相互乗り入れ、税関の開庁時間の延長、一方通行などの制限の緩和、税関手続きの簡素化も急務となっている。
 このほか、ハノイ~中国・広州間にも陸上輸送ルートがあるものの、ハイフォン港~香港港を直行で結ぶ海上輸送ルートの便数拡大やコスト低下から需要はそれほど高まっていない。陸上輸送は海上輸送よりも輸送コストがかかるのに、所要時間が変わらないことも、需要が伸びない理由として挙げられる。また中国からベトナムへ運ぶ物量に対し、ベトナムから中国への物量が極端に少ないといった片荷問題も抱えている。
 GMS内で行われる陸上輸送において、隣接する二国間の協定を包括的に整備する枠組みとして、「越境交通協定(CBTA)」がある。これは国境での手続きをひとつの窓口で完結させるためのシングルウィンドウおよび、国境を越える時に輸出国と輸入国で各々行われる検査を共同で行い、1回で完結させるシングルストップの2つからなる。しかしCBTAには、各国の国内法との兼ね合いや通関手続きの電子化などの障壁がまだ多く残っており、完全な実現はまだ先となりそうだ。これが実現すれば、各国境での手続きにかかる時間も手間も短縮され、利便性が大幅に向上されると期待されている。

日本の物流品質に商機あり

 2030年には、ASEAN主要6ヵ国の中間層が1・3億世帯まで大幅に増加することが見込まれている。これに伴い、EC(電子商取引)の普及拡大など消費形態の変化や、食生活の多様化が始まっており、今後はアジア新興国においても、宅急便サービスやコールドチェーン物流といった、高付加価値の物流の需要が高まることが予測されている。
 この状況に対し、日本政府は、アジア地域を中心とした物流網のより一層の円滑化・効率化、日系物流業者のアジア地域への積極的な海外展開などを下支えすることで、成長するASEAN諸国とともに発展していく方向性を示している。
 国土交通省が策定している2017年度~20年度の「総合物流施策大綱」では、ASEAN地域における連結性強化に向けたインフラ整備、NACCS(入出港する船舶・航空機および輸出入される貨物について、税関そのほかの関係行政機関に対する手続および関連する民間業務をオンラインで処理するシステム)の海外における活用などによる、輸出入手続きの近代化・効率化、越境通行の促進、パレットなどの標準化・リターナブル化された物流資機材の国際的な利用促進など、物流のシームレス化への積極的な取り組みを織り込んでいる。
 物流に関する技術やきめ細かいノウハウを持つ日本にとって、ASEAN諸国の膨大な物流需要は大きなビジネスチャンスだ。日本が培ってきた高品質な物流サービスを国際標準化し、現地での普及を図るとともに、物流システムのソフト面・ハード面での展開を支援することが、新たな需要獲得に繋がっていくだろう。