コラム

2020年5月25日号

 仕事で目先やるべきことをA4裏紙に細かい字でつらつら記している。片付いたら都度、一つひとつ棒線で消す。細分化すれば膨大量のタスクを次々消していくのは、実は秘かな楽しみだ▼しかし、いつまでたっても消せない仕事があり、消したはいいが、決して「済んだ」と胸の内で言い切れないものもある。消さないと次に行けないけれど、もう完了なんて中途半端、無責任じゃないか…▼ふと思い出した。かつて住宅評論家をインタビューした際、その評論家が「俺の仕事は、俺の仕事を無くすことだ」と言い切ったのだ。随分キザだなと腹の中で笑った。その時の相手の表情も覚えている▼その評論家は、当時深刻な社会問題になっていたシックハウス症候群を言論人として扱っていて、なるほど、この問題を解決に導き、自身の仕事を終わらせるのは当人にとってミッションなのだろう▼だから「仕事を無くすことが仕事」と言う氏の発言は論理的にも極めてまっとうで、その心意気見事といえる▼けれど、本当に終えてしまえる仕事なんて実際にはそんなにない。そもそも、くだんの評論家のような解決型の仕事は限られるし、解決にだって極めていくべきQCDのレベルがあって終わりが来ない▼そこで妥協し、終了にしてしまったら、もうやり直しも、発展させることもできない世界に追いやられそうだ▼ならば、仕事を終わらせるな。広げてみよう―そんな視点で仕切り直すのも、面白いかもしれない。