識者の目

コロナ時代を生きるモノづくり技術・人

新型コロナ禍がもたらした功罪

 新型コロナウイルスにより世界中の多くの尊い命が失われ、人々の行動が大きく制限され、過去に類をみない経済的な損害を与え続けている。様々なモノが中国に依存し、国内の製造の弱点が露呈してしまった。感染拡大が高まりつつある中、マスク生産設備導入のための補助金やサプライチェーン対策のための国内投資促進事業補助金など、多額の国費投入を行い、国民の生命を守る政府の緊急対策が講じられた。このような緊急事態に備え国内サプライチェーンを取り戻すことが重要であると国民の誰もが思った。しかし、喉元過ぎれば低価格のみが重要視され、リスクに備える対策はやがて減退する可能性は高い。ワクチン開発競争が世界中で行われ、日米の主導権争いが激しさを増す中、モノづくり大国・日本は何を目指すか? コロナ大恐慌が叫ばれる中、モノづくり企業における悩みは大きい。新型コロナ禍は悪いことばかりである! 悲観的に思うのも確かにうなずける。しかし、果たしてそうであろうか? ここでは前向きにコロナと過ごす日々を振り返り、アフタコロナ時代をどう生き抜くか? その鍵は何か?について考えてみたい。

コロナから学んだモノづくり

 突如現れたコロナ需要で製造が追いつかない。製造装置を増やすが材料が入らない。物流が閉ざされては成すすべがない。モノの溢れた時代に材料と物流の大事さを知った。ウイルスと共に生きるウイズコロナ時代の到来により、過去に経験したことのない対応にモノづくり現場は追われた。ステイホーム化が押し寄せ、従業員はテレワークへ。時間や場所にとらわれない働き方が叫ばれながら進まなかった働き改革が要請から命令へと変わり、一挙にネット会議が広まった。苦手な情報通信ツールに翻弄しながら慣れていった。会社を出れば一切働かなかったが、やればできた。なぜ緊急事態に迫られないとやらなかったのか? やろうとさせなかったのか? モノづくりは常にその場しのぎか。自動車や電機メーカーなどの多くはいち早くフェイスシールドや人工呼吸器など、既存の設備を活用した製造を行い医療機関等へ無償提供や貸与を行い、3次元プリンタや自社の製造装置の加工データをネットで無償提供した。日ごろから備えていたのだろうか。デジタルマニュファクチャーリングでしか作れない環境に追いやられた。一方、モノづくり中小企業ではテレワークで現場の製造を行うことは不可能である。交代勤務で三密を避けようとするが、高い技術や経験を持つ技術者は休む間がない。しかし、大手企業と同様に町工場でもネット業務を取り入れた。顧客訪問せず工場内で商談や技術的な打ち合わせができることを知った。思っていた以上に便利で快適であり、何か新しい時代が到来した感がある。これがIoTなのか。コミュニケーションが変わった。コロナに備え何か新しい技術開発をしていたわけではない。だが、モノづくりの環境や仕事の進め方はコロナにより大きく変革した。まさに、モノづくりはコロナから学んだのである。

アフタコロナで激変するモノづくり

 アフタコロナでモノづくりは激変する。ネット会議が常連化し、非対面交渉、キャッシュや印鑑レスなどネットによるデジタル化が進むと見られる。モノづくり企業は新しいツールを手に入れたのである。また、デジタルマニュファクチャーリングは危機管理上、アフタコロナで本格的に活用が進むことが期待される。そのためには、アフタコロナでも十分に使えるよう顧客や政府が変わる前に社内環境や人材を変えておく必要がある。わが国は高い材料技術を持ち、品質と人材の管理力は優れている。しかし、汎用材料の低コスト大量生産は弱く、中国への依存度が高すぎる。アフタコロナで変われるか? グローバル競争力の指標が変わる可能性がある。モノづくりはネットだけではできないことは明らかである。だが、いかにリモートワークで行えるようにするか?が重要な鍵になる。まさに、日本のモノづくりが問われる。夢の無人工場が理想から現実のものへと新化するアフタコロナ時代を迎えようとしているかもしれない。そのためには、まずモノづくり人材の意識改革である。真の合理化・省力化、人間でしかできないことは人間がやる、機械に任せることは徹底的に機械に任す。ウイズコロナ時代の当たり前が当たり前にできない経験を糧に、ズバッと割り切ることから始めることこそがコロナ時代に生きるモノづくり技術で、それを行うのが人である。今こそ、アフタコロナ時代に備えた覚悟を始めても決して遅くはない。

近畿大学 理工学部 教授 西籔 和明

にしやぶ・かずあき 近畿大学大学院(博士前期課程)、大阪大学大学院(博士後期課程)修了後、大阪府立工業高等専門学校助教授・准教授(1998年)、カトリックルーベン大学客員教授(99年)などを経て2016年から現職。専門は機械加工学、複合材料製造学、マイクロナノ加工学、金属粉末射出成形。アウトドアスポーツにも励む。