識者の目

コロナ禍の後の中小製造業とデジタルトランスフォーメーション

 いきなり降ってわいたコロナ禍に、日本の中小製造業は対策を講じる時間的余裕がなかった。ワクチン・治療薬が開発されるまで、我々は新型コロナウイルスと共存せざるを得ないことから「ウィズコロナ」と呼ばれている。ウイルスの変異で今後、更に強毒化したウイルスが発生する可能性を考えれば、中小製造業はその対策を講じなければならない。
 今回のコロナ禍で日本の中小製造業が苦境に立った要因は主に、(1)テレワークできる領域がほとんどなく、感染リスクを抱えながら従業員が満員電車で通勤せざるをえなかったこと(2)中国とのサプライチェーンが途絶えたこと―であろう。本稿では(1)の点に絞って述べてみたい。

■人の最適配置とテレワーク
 第四次産業革命が進行中の今、中小企業は大企業に比べてデジタル化が大きく遅れている。目の前の仕事の忙しさや、情報通信技術の知識不足などでデジタル化を先送りしてきたのだろう。しかし、さすがに今回のコロナ禍を体験し「もはやこれ以上、先送りはできない」と覚悟した中小企業も多いと思われる。
 誤解を恐れずに大胆に言えば、「製造業は、どうしても目の前のモノを扱う必要がある業務以外は、全てリモート化することが可能である。繰り返し業務は全てAIによる代替化により自動化が可能である」。どのような高度な技能であっても、繰り返し業務である限り、必ずプログラム化が可能なのだ。
 事務作業以外でも、商品の企画開発部門及び設計部門、販売後のサービス部門はテレワーク化・AI化が可能である。製造ラインであってもロボットやAIを導入し、リモート制御することで、テレワーク化が可能であろう。製鉄所や発電所では古くからリモート制御が導入されている。
 ただ、「なんでもかんでもテレワークをしろ」と言っているわけではないことをご了承頂きたい。私が不思議に思うのは、製造業はそれぞれの「最適化」戦略に従って工場を国内外に最適配置するのに、人間については配置の最適化に無頓着なことだ。全員を1カ所に集めて9時から5時まで働かせる―昭和初期に出来上がった旧軍隊的な働き方が、その企業にとっての「最適化」なのか。パフォーマンスを最大限に発揮させる働き方なのだろうか。否、恐らく違うだろう。
 工場のみならず従業員も最適配置すれば企業の生産性は高まり、売上はもっと増えるに違いない。製造業は上述したように、ほとんど大部分の業務でテレワークが可能である。もはや現在の情報通信技術をもってすれば、技術的には製造業でテレワークが出来ない領域はないというのが当分野の専門家の一致した意見である。

■設計部門にRPA導入
 一例を挙げよう。筆者が2016年4月から主催している「IoT、AIによる中堅・中小企業の競争力強化研究会」に参加するモデル企業のうち、日東電機製作所(群馬県太田市)は、設計部門にRPA(AI)を導入し、ある業務を自動化した。
 一般には、RPAを用いた業務の自動化事例は事務系や総務系の仕事が多い。多くは銀行系や窓口業務などであり、技術系の仕事には応用が難しいと思われているが、同社は直接部門の設計部門に導入した。設計の仕事を分解していくと、頭を使う仕事と手を使う仕事が混在している。手を使う仕事とは、例えば重複するインプット作業、単に図面を書き写す作業などがある。
 RPAを直接部門に導入することによって「人間は頭を使う仕事に集中してもらおう」「自動的化できる仕事はRPAにしてもらおう」というのが目的だ。具体的には、電気回路のCADデータから試験用の図面を出力する作業を自動化した。
 RPAを使う前は「データを開く」→「印刷する」→「ハンコを押す」という同じ作業を面数分(20~30回)繰り返し、結構な時間を要していた。この作業をRPAに任せることで、人間の作業は出図したい図面データを共有フォルダであるRPA用フォルダの中に保存するだけで終わるようになった。
 RPAは、タスクスケジューラーで管理されている。15時になると自動的にRPAが起動し、図面を開いて印刷する。判子押し作業に関しても、判子をデータ化して自動的にRPAが決められた場所に押す。
 タスクスケジューラーがこのシステムの肝だ。15時までにデータを入力さえすれば、人間は印刷作業をしなくてよいが、15時を過ぎたら自分で印刷しなければならない。そのため設計者は時間に追われて働くようになる。1回当たりの印刷時間は20分程度であるが、1カ月総計すると結構な時間を出図作業に使っている。それがRPAを導入することにより、1カ月あたり約20時間を削減できた。

■デジタル化の急流に追従を
 第四次産業革命のデジタル化には、これまで大きく2つの流れがあった。1つ目は「ルーティン業務の自動化」だ。これまでは現場のブルーワーカーの手作業のルーティン業務(Routine manual)がロボットに置き替わってきたが、今後はオフィスで働くホワイトカラーの事務作業のルーティン業務(Routine cognitive)がAIに置き替わる。
 デジタル化の流れの2つ目は、1人ひとりのニーズに合った商品・サービスを提供する「カスタマイズ化」だ。センサー、半導体、メモリ、通信容量等が急速に、高速化、小型化、大量化が進むため、個人ごとのニーズを捉えることが可能になる。
 更に、今後は、3つ目の大きな流れとして、企業における業務のリモート化が加速するため、そのニーズに応えるリモートビジネスが大きな市場として急成長すると予想される。 
 コロナ禍で急激に落ち込んだ企業業績を回復するべく、これらの流れは今後、一気に加速するだろう。中小製造業はこの急流に追従しなければならない。

経済産業研究所/日本生産性本部 上席研究員 岩本 晃一 氏

 香川県出身。1981年京都大学卒。1983年京都大学大学院(電子)修了後、通商産業省入省。在上海日本国総領事館領事、産業技術総合研究所つくばセンター次長、内閣官房参事官、経済産業研究所上席研究員等を経て、2018年4月から現職。専門は第4次産業革命時代のIoT、AI等デジタル化の経済学。