連載

2020年7月10日号

東邦工業、自動車の量産工程で知見蓄積

FA設備とSIerの両輪で顧客要求を具現化

 シリンダーヘッドのバルブ穴に多軸ロボットがエアマイクロメーターを差し込み、一度の挿入で2点の内径を測定する。制御に用いるのは力覚センサ。ゼロ点合わせやエアーが安定するまでの停止時間など全動作を規定タクトに収めつつ、ワークを傷つけぬよう、シビアな調整が求められる―。
 この力覚センサを用いた穴径測定システムは、東邦工業(広島市、1959年設立)が得意とするシステムのごく一部だ。同社の事業を一言で表すと「一品一様の自動化システム」だが、実のところ、その一言では収まりきらない奥深さがある。90年代から研鑽を積んできたロボットSIerとしての顔を持つ一方、カムキャップ組付装置やカムシャフト洗浄装置、食品用櫛歯目立機など、顧客要望に沿ったFA(ファクトリーオートメーション)設備やラインを世に送りだしてきた専用機メーカーでもあるからだ。
 「東邦工業の役割は顧客の省力化。人手作業の機械への置き換えや危険作業の自動化が仕事ですから、ロボットはあくまで手段の1つに過ぎません」。17年に社長に就いた湯本隼士氏は、自社をそう位置づける。売上の9割は自動車メーカー向けの自動化システム。搬送・締付・圧入・洗浄・検査など、「量産ラインの多種多様な工程を経験した」という豊富な実績を武器に年100件以上の案件を手がけ、ロボットベースで40~50台を納入する。05年の本社工場の移転・拡張以降は、単体専用機に加え、大型の生産ラインの案件も舞い込むようになった。
 構想から設計、アフターサービスに至るまでの工程は全て自社で完結。全設計を3Dで行い、ロボットシミュレーションシステム「OCTOPUZ」を用いた動作検証により手戻りを減らしている。元生産技術畑の社員も擁し、仕様決め段階からの顧客支援もお手の物。システム開発課 課長の言葉を借りれば、「3Dの設計力で顧客の一番ほしいモノを具現化することが得意な会社」というところだろう。

■AIと競争するか共創するか
 社是は「考案×改良×創造」。世の中にないシステムを作り出す、いわば発想力が物を言う世界が主戦場なだけに、自由な発想を良しとする社風が醸成されている。「古くから技術者の創造力や挑戦を大事にする社風で、今でもその文化は受け継がれています」と湯本社長。その言葉通り、技術職の若手を中心に、新しい発想や改善案を発信する場を毎日設けている。設計を統括する松嵜圭太執行役員も「そのほうが楽しいですから」と笑いつつ、「今までと同じでは進歩がない。顧客の求めるものを作るのが大前提としても、自分のアイデアや色を出せることは素晴らしいですし、そこにほとんど規制はかけません」と朗らかに話す。
 一方で、SIerとしての今後を鋭く見据えてもいるようだ。「SIerの役割は、顧客が求める物と機器が持つ能力のギャップを『仕上げの力』で埋めることだと捉えています」と湯本社長。「しかしAIが発展すると、人間的な要素だった『仕上げの力』も代替されていく可能性がある。そうなったときにAIと戦うのか、AIを利用して我々ができる形を守りつつ共存するのか―壮大な話にも思えますが、見据えている世界はそこですし、そこでAIと競争するのか共創するのかが決まります。我々のような現場に近いプレイヤーがいかにそういった要素を理解し、現場へ応用するか。今後は、AISIerと呼ばれるプレイヤーとの協業も視野に入れる必要があるかもしれませんね」。

(2020年7月10日号掲載)