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持続可能な工場の条件

―今号(7月10日号)の紙面特集より、持続可能な工場の条件を掲載―。
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 2020年7月現在、工場には課題が山積みといえる。労働災害の防止や脱3Kに向けた労働環境改善、人手不足への対応とそれを補うための省人・省力・デジタル化…近年ではSDGsへの注目度の高まりにより、環境への配慮も強く求められはじめた。
 そこにきての新型肺炎の流行である。従前からの課題に加え感染症対策までもが求められるようになった昨今、工場の安定稼働を継続するためにすべきことはもはや1つや2つではない。多様化する課題に対し、事業者は同時並行的に様々な問題と向き合う必要があるのではないか――。そこで本特集では、将来にわたり工場を持続・運営するうえで重要となる要素を、「労働安全衛生」「省エネ・環境配慮」「感染症対策」に分類。工場稼働を止めないために取組むべき内容をまとめてみた。

労働安全衛生、高齢労働者の労災増加でハード・ソフト両面の対策を

 「ゼロ災でいこう、ヨシ!」の掛け声がフロアに響く――多くの工場で見られる光景だが、その実、製造業の労働災害を完全に撲滅するのは並大抵のことではない。はさまれ・巻き込まれ、切れ・こすれ、転倒、転落…災害をもたらす要因は様々なうえ、経験の多寡によらず誰でも事故の当事者になる可能性があるからだ。ひとたび労働災害が起こると企業は貴重な働き手を失うだけでなく、安全配慮義務を怠ったと判断されれば刑事責任に問われる場合もある。現場の人手不足が取り沙汰される昨今、工場稼働の安定という視点からも、労働安全衛生に向けて今一度取組むべき課題といえる。
 一方、厚生労働省が毎年発表している労働災害の発生状況調査の結果にも、「ゼロ災」達成の難しさが滲む。2019年度の調査によると、製造業における労働災害による死傷者数は2万6873人と前年度(2万7842人)から3・5%減少したものの、17年度(2万6674人)比では0.7%増加した。同省では18年から23年にかけ「第13次労働災害防止計画」として、17年度比で死亡災害15%以上、死傷災害5%以上の削減を目指している。19年度の調査では製造業における死亡者数こそ141人と、基準となる17年度(160人)から11.9%減少したが、15%減という目標の達成には未達であり、労働災害防止に向けた取組みはまだ道半ばというところだろう。
 労働災害の防止に向け、取組むべき事項は何か。その答えを、7月1日から実施された今年度の「全国安全週間」スローガンに求めたい。20年度のスローガンは「エイジフレンドリー職場へ! みんなで改善 リスクの低減」。ここで言うエイジフレンドリーとは「高齢者の特性を考慮した」を意味する言葉で、18年度の労働災害による休業4日以上の死傷者数のうち、60歳以上の労働者が占める割合が26.1%と増加傾向にあることから策定されたものだ。
 それに関連し、3月には高齢者の労働災害の予防的観点から「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」が、厚労省から発表された。ガイドラインでは、高齢労働者の身体機能の低下による労働災害に対するリスクアセスメントなど、安全衛生管理体制の確立の重要性を訴えつつ、照度の確保、段差の解消、聞き取りやすい指向性スピーカーの導入など、職場環境改善の必要性に言及。具体的な補助機器として、パワーアシストスーツや熱中症の初期症状を把握できるウェアラブルデバイス等の活用が有効であるとしている。
 とはいえ、ハード面だけでは対策は不十分。勤務形態の工夫など、ソフト的な取組みを合わせてこそ、労働災害の防止につながるだろう。実際にガイドラインでも、高齢労働者の特性を考慮した作業管理を行うことや、健康診断や体力チェックで把握した個々人の健康や体力の状況に応じた業務の割り振り、写真や映像を活用した丁寧な安全衛生教育など、ハード・ソフト両面での取組みを推進している。

省エネ・環境配慮、「取組まないリスク」顕在化

 近年、ESG投資という言葉を耳にする機会が増えてきた。環境(environment)、社会(social)、企業統治(governance)に配慮する企業を選別して行う投資を指す言葉だが、これらの取組みを行う企業は投資家からも高い評価を得られやすく、企業が省エネ・環境対策を推進する際の動機付けになる。
 企業が投資を呼び込むうえで、ESGへの取組みはもはや避けて通れないものといえそうだ。19年12月に経済産業省が発表した運用機関向けのアンケート調査(国内外の主な運用機関計48社が回答、運用総額約3988兆円)によると、運用機関のうち実に97.9%が「ESG情報を投資判断に活用している」と回答(上表)。活用目的(複数回答)についても97・9%が「リスク軽減」と回答した。この結果からも、「ESGに取組むことが投資の呼び水になる」という従来からの流れがより加速している一方、裏返せば「取組まないこと自体がリスク」と捉える向きが拡大しているといえるだろう。なかでも、「E(環境)」に含まれる要素の中では「気候変動」を重視する運用機関が79.2%と最も多く、電力消費の多い工場の省エネ対策は企業の存続を占ううえでも喫緊の課題といえる。
 そんななか、気候変動に対する危機感を強く滲ませるのが日本経済団体連合会だ。「仕入先に対し『ゼロエミッション(廃棄物ゼロ)を宣言してくれないとおたくの商品は買えない』という企業も出始め、環境への取組みは企業のイメージアップという段階を超えた」(中西会長)とし、昨年末にはCO2排出量実質ゼロを目指す「チャレンジ・ゼロ」構想を打ち出した。賛同企業から寄せられた具体的なアクションを取りまとめ、企業・研究機関・金融機関・投資家・日本政府の間の協働・連携を含め全体像を示すことで、イノベーション創出やESG投資の呼び込みを狙う。6月には、305のイノベーション事例を示したホームページも立ち上げた。
 とはいえ、どれだけ産業界全体でアクションが加速しようと、環境問題への行動の主体はあくまで個々の企業。全体構想を見据え企業の枠を超えたイノベーションに目を向けつつも、まずは自社工場の省エネなど、できる範囲の手をしっかりと打つ必要があるだろう。エネルギー消費を抑える手段は空調・換気・照明、再生可能エネルギーの活用など枚挙に事欠かない。地中熱利用の換気システムを自社工場に導入し、大幅な省エネを果たしたとある精密金属加工メーカーは「こういった環境配慮型の事業所ならば、持続可能な社会においても残っていけるのでは」と話すが、こうした環境配慮へ「取組まないリスク」を、製造業も直視すべき時がきている。 

感染症対策、経団連がガイドライン策定もさらに対策を


 工場の直面する課題のなかでも、目下最重要といえるのが新型コロナウイルスの流行による感染症対策だろう。仮に他の対策へどれだけ注力したとしても、工場内でクラスター感染でも発生しようものなら、たちまち稼働停止に追い込まれてしまう。いかに工場稼働を続けつつ感染症対策を行うか。鉛のように重いその課題が、年明け以降、多くの製造業を悩ませている。
 そんななか、5月には経団連が「製造事業所における新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン」を発表した。ガイドラインでは製造業が講じるべき具体的な対策を「通勤」「勤務」「設備・器具」など10項目にわたり策定。「窓が開く場合1時間に2回以上窓を開け換気を行う(機械換気の場合は窓開放と併用不要)」「工程ごとにゾーニングし、従業員が必要以上に担当区域と他の区域を往来しないようにする」「従業員が2mを目安に一定の距離を保てるよう、作業空間と人員配置を最大限見直す」など、工場における感染症対策のポイントを綴っている。
 しかしながら、決してこのガイドラインを守りさえすれば良いという話ではない。経団連もガイドラインについて「個々の業界や事業場の実態に応じた新型コロナウイルス感染予防対策を行う際の基本的事項について、参考として整理したもの」と位置づけており、実際の対策にあたってはもう一歩踏み込んだ個別の施策が求められる。幸い、市場には早くも感染症対策製品が続々登場しており、そういったソリューションの活用も検討すべきだろう。
 また、企業のリスクマネジメント分野におけるコンサルティングで実績を重ねているミネルヴァベリタスの松井裕一朗代表取締役は、今回のコロナ禍を機に、サプライチェーンを含めた『本当の意味での』BCP策定の必要性を指摘する(左にインタビュー記事)。感染症でも揺るがない強い生産体制を築くには、そういった中長期的な対策と目先の対策を織り交ぜていくことが重要になりそうだ。